南台湾で撮影された、白化したサンゴとクマノミ 2020年8月

日本は台風による被害が増えている一方で、台湾では、来るはずの台風が来ない、という異常な台風シーズンを経験しています。これは、喜ぶべきことでしょうか?

実は、気温が暑くなり、歴史的な高い海水温の更新が続いている台湾の海では、サンゴの白化が広がっています。アメリカ海洋大気庁(NOAA)は近年、台湾南部海域のサンゴ白化現象の警戒レベルを2に上げました。これは貴重な海洋生態に影響を与える大規模なサンゴの死滅が進んでいることを意味します。

台湾でのこうしたサンゴ白化現象の原因は何でしょうか?そして、どうすれば私たちがこのサンゴ白化現象を防ぐことができるのでしょうか?

サンゴとは?

サンゴというと、海に生息する「植物」のようなイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。実は、サンゴはポリプと呼ばれる小さな個体がたくさん集まったコロニーになっている動物です。そのほとんどが透明です。私たちが見ているサンゴの多彩な色の正体は、光合成の栄養分を供給し、サンゴと共生している褐虫藻と呼ばれる藻類なのです。

オーストラリア、カンガルー島のサンゴ 2018年11月

台湾はかつて「サンゴ王国」と呼ばれていました。墾丁、緑島、蘭島に広がるサンゴ礁群は、大きさでは世界全体のサンゴ礁の1,000分の1以下ですが、その多様性は全体の3分の1にのぼります。世界中の700種のイシサンゴのうち、なんと250種が台湾の海岸沿いに生息しているのです!

サンゴは海洋生態系全体に欠かせない存在です。あらゆる生きものが生息し、繁殖し、餌を見つけ、敵から身を守るといったように、サンゴ礁では自然と豊かな生態系が構築されています。サンゴ礁にはおよそ1,500種類もの魚が生息しています。そのため、「海の熱帯雨林」と呼ばれています。

サンゴの白化現象とは?

サンゴは、環境状況さえ良ければ、何百年と成長することのできる最も長寿な動物のひとつです。そのため、サンゴのコロニーが死んでしまうのは、通常、周囲の環境の悪化や他の生きものによる破壊が原因です。

オーストラリア マグネティック島の白化したサンゴ  2020年3月

サンゴは周りの環境にとても敏感です。海水温、pH値、濁度などの環境条件はサンゴと褐虫藻の共生関係に直接影響を及ぼします。生活環境が適していない場合、共生関係にある褐虫藻は徐々にサンゴを離れたり、サンゴから追い出されたりしてしまい、色の源を失ったサンゴはだんだんと白化していきます。

褐虫藻が離れてしまっても、サンゴはすぐには死滅しません。もし環境が良くなれば、白化したサンゴに褐虫藻が戻り、サンゴはゆっくりと回復します。

しかし、白化した状態が長く続くと、サンゴは徐々に弱まり死んでしまいます。そのため、白化はサンゴにとって苦痛を知らせる最後の合図なのです。

地球温暖化はサンゴ礁の成長に悪影響

南台湾で撮影された、白化したサンゴ 2020年8月

近年の気候の急激な変化に伴い、地球温暖化は海水温を上昇させ、温室効果による海水の酸性化で、サンゴの炭化カルシウムの吸収力は弱くなっています。サンゴ礁が自然の浸食に耐えられなくなると、白化からの回復に時間がかかります。

米国海洋大気庁(NOAA)のサンゴ観察システムは、衛星を使って海面水温を監視し、水温が高いエリアをマークして、サンゴの白化現象のリスクを警告しています。今年は太平洋に発生した温暖な高気圧の影響で、台湾は台風の発生が少なく、陸地や海の温度が高止まりしています。プラタス諸島とタイピン島を含む台湾近海では、30℃の海水温を記録しています。

サンゴの成長に最適な水温は20℃から28℃の間です。水温が18℃以下や30℃以上の場合、ほとんどのサンゴは共生関係にある褐虫藻を体内から追い出し、白化や死滅の原因となります。今年の台湾における台風の数がこのまま少ない場合、海水温が高いままではサンゴの白化の状況は悲観的になってしまうでしょう。短期間の海水温の変化では白化は起きないというのは、注目すべき点です。多くの場合、大規模なサンゴの白化の主な原因は、海水温が異常に高い状況が続いていることにあります。

南台湾で撮影された、白化したサンゴ 2020年8月

人間の活動が元凶

また、人間の活動による陸上や海洋の汚染物質は、河川に流れ込む農薬、海に排出される工業排水や家庭排水、さらには日焼け止め製品に含まれるベンゾフェノンやメトキシ桂皮酸オクチルなどの化学物質などがあり、サンゴ礁の繁殖や成長サイクルを阻害し、サンゴ礁に悪影響を与えやすくなります。

海洋生態系に大打撃

サンゴ礁の破壊と死滅は海洋生態系に大きな打撃を与えています。実は、サンゴの成長速度はとても遅いです。サンゴは1年におよそ1cmだけ成長します。そのため、私たちが海で見るサンゴ礁は何十年、何百年もかけてできたものなのです。一度ダメージを受けてしまうと、もとの大きさに戻るまで同じくらいの時間が必要となります。

健全なサンゴ礁の生態系は、多様な海洋生物を保全するだけでなく、人間のさまざまなニーズにも応えています。サンゴ礁は隣接する海岸線の浸食を防ぐだけでなく、高い経済価値を持っていて、観光収入を生み出すことができます。つまり、サンゴの白化現象に伴う生態系の衰退によって、サンゴ礁に依存する観光や漁業といった産業の生活へ与えられる影響というのは避けられません。

誰もがサンゴを助けることができる

A small group of sea goldies sheltering under a coral-decorated overhang.

過去40年で、日本の太平洋側に接近する台風が増え、東京は1.5倍に増えています。その一方で、台風が少ない台湾では、海水温が下がらず、サンゴの白化が進んでます。気候変動は、地域全体に影響を及ぼしているのです。

日本での異常気象の激化を抑え、海水温の上昇を抑えるためには、根本原因である地球温暖化を止めなければなりません。海水温の異常な上昇に対して、政府は、CO2を大量に排出する石油や石炭などの化石燃料から、CO2や汚染のない自然エネルギーに置き換えるために、より野心的な炭素削減目標を設定するべきです。

周りの方にもサンゴの危機を伝え、生活の中でもできる活動を広めませんか?

サンゴのために私たちにできること

・自然エネルギー100%へ一刻も早くシフトするよう、自分の自治体に働きかける 

・お家や事務所の電気を、自然エネルギー100%を提供する電力会社から買う

・サンゴに優しい日焼け止めを使う

[協力:翻訳ボランティアMiku]