自然エネルギー100%への移行の話はよく耳にするけれど、その実現はまだ遥かな夢のように感じる人も多いのではないでしょうか。

グリーンピースの世論調査によると約70%の人が自然エネルギー100%の社会が「望ましい」と感じています*1。一方、約49%の人*2は、政府の2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)宣言の実現可能性について、無理または難しいと回答しました。

専門家や科学者が、自然エネルギーへの移行が必要だと訴える一方で、多くの人たちが、自然エネルギー100%の社会は本当に実現できるのだろうか?と懐疑的に考えているようです。日本で自然エネルギー100%の未来は実現できるのでしょうか?

結論から言うと、できます。日本で自然エネルギー100%を実現するには、需要、供給、設備などいくつかの課題があります。

まずおさらい:日本のエネルギーの現状

近年、日本で自然エネルギーは急激に成長しています。

すでに電源構成の15-24%を占め*42020年の4月~6月に限ると、28%を占めました。2018年に発表された第5次エネルギー基本計画の2030年目標23%を、10年前倒しで達成しているのです。

出典:経済産業省資源エネルギー庁「電力調査統計」より作成(REI)

しかし、日本のエネルギー部門は輸入に依存していて、自給率はわずか9.6%*5

現時点では世界1位の液化天然ガス(LNG)の輸入国*6です。2020年12月には、世界的にLNGの船舶数が不足し、電力卸売価格の高騰*7が起こりました。エネルギー資源を輸入に依存することの問題が、現実に起こったのです。

増える電力消費量

電力の消費量に目を向けてみましょう。

2020年時点で、日本は世界5位の電力消費国(IEA)*8で、2018年には約1000twH*9を消費しました。

比較すると中国は約6900twH*10、米国は約4300twH*11、EU(28カ国合計)は約3100twH*12に達しています。

出典:日本、米国、中国、EUの4カ国の比較的最終電力消費量(1990〜2019、IEAより)

日本の人口は少子高齢化によって、2080年までに50%減ると言われており*13、省エネ対策もさらに進むと見込まれます。

しかしそれでも、ガソリン車がEV車に替わるといった製品や機械の電化によって、最終電力消費量は、2050年までに約1300-1500twH*14に上ると経産省は推定しています。

日本で自然エネルギー100%は可能

環境省は毎年、太陽光、風力、水力、地熱の4つのエネルギー源について、日本の自然エネルギーの潜在力を推定する研究調査を実施しています。

経産省は、2050年までに日本は、必要な量の最大50-60%*15の自然エネルギーしかまかなえないと主張していますが、環境省は、今後日本の電力消費量が増えたとしても、私たちの電力需要を十分に満たす1060-2580twH*16もの導入が可能と主張しています。

世界各国で自然エネルギーが飛躍的に成長する中*17国際エネルギー機関(IEA)は2020年、「太陽光発電は史上最も安価なエネルギー」になり、石炭は「構造上の減少期に入った」*18と発表しました。自然エネルギーの利用を増やすことで、エネルギー自給率を高め、化石燃料の時代を終わらせることができるのです。

ソニーなどの大手企業は、自然エネルギーをたくさん利用できる環境にならないと、自然エネルギーでの製造を義務付けるアップル社などの顧客企業からの要望に応えられないので、製造拠点を国外に移さざるを得なくなると訴えています*19。経団連も、日本の競争力を上げるためには、自然エネルギーは不可欠だと認めています*20

外交関係や世界情勢に左右される石炭やガスと輸入燃料と違って、自然エネルギーの安定供給は、国内の法規制の改正や技術開発で確保できると経産省は認めています*21

自然エネルギー100%への2つの大きな課題

それでも実際、自然エネルギーの大幅な導入は最大の課題です。

自然エネルギーの大幅な利用増加で、大幅な設備導入も必要となる

電源構成の残りの4分の3を自然エネルギーでまかなうためには、2つの大きな変化が必要です。

それは、「大規模な発電設備の建設」と「法規制の改正」です。

2016年に電力市場が自由化されましたが、新電力会社にとって電力市場はいまだに参入が難しく、東京電力や関西電力などの大手電力会社が電力市場の約75%を占めています*22。また、実際の需要以上*23の容量設備を保有する義務や、託送料金、開発を妨げる土地利用の法規制など、課題が山積みです。

2020年12月、菅政権は、脱炭素に向けた研究・開発を支援する2兆円の基金創設を表明しました。世界的に見ると、2兆円という規模は脱炭素に対する意欲が不足していると思われかねません。さらに、基金の規模が十分ではないにもかかわらず、本当の「ネットゼロ」を実現するため自然エネルギーに資金を投じるのではなく、現在の脱炭素対策は、主にCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)*24という長期間の利益性や実効性が疑わしい*25技術や、化石燃料由来*26のアンモニアを利用する方法などに集中しています。

莫大な量の自然エネルギー導入を実現するための設備投資や法規制改正は非常に難しい課題です。しかし、それをやらないと、気候危機による悪影響はさらに大きくなり、日本のエネルギー供給は不安定で、国際社会において日本は取り残されるかもしれません。経済学において、「カバードオプション」とは「損をする可能性がない投資」という意味ですが、自然エネルギーへの投資は、日本のカバードオプションと言えます。日本は経済成長を確保しながら、地球環境にとって最善の行動である自然エネルギー100%の社会にシフトできるのです。