トヨタ自動車は昨年末、年間350万台の電気自動車(EV)販売を目指すという新しい戦略を発表しました。トヨタは長い間、EVにとても消極的で、グリーンピースが発表した世界のトップ自動車メーカー10社の気候変動対策を比較したランキングでも、最下位の評価になっています。豊田社長が新しいEV戦略を発表した記者会見を現場で見届けていた、自動車キャンペーン担当ダニエル・リードが、記者会見の舞台裏、そしてトヨタのEV戦略の課題を解説します。

そもそも、なぜEV/電気自動車が必要なの?

私たちの生活を支え、移動の自由をもたらしてくれる自動車ですが、気候危機が私たちの命を脅かすいま、その環境インパクトは到底無視できません。

車などの交通・輸送機関は、世界のCO2排出の4分の1を占めています。その中でも、自動車は45%を占め、交通機関の中で最も多くのCO2を出しています。

地球温暖化を1.5℃までに抑えるためには、車からの排出量もゼロにしなければなりません。そのためには、公共交通機関やカーシェアリングの充実、またリモートワークなどの新しい生活様式で自動車の数を減らすとともに、必要な車は電気自動車(EV)に切り替えていくことが必要です。

EVは、ガソリン車やハイブリッド車、ディーゼル車と比べても、圧倒的にCO2排出量が少ないのです。

Transport & Environment発表資料より。左から、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車。

世界のTOP10の自動車メーカーの中でトヨタが「最下位」に

トヨタは、世界最大かつ最も知られた自動車会社のひとつで、日本が誇る自動車メーカーです。2020年には、世界中で約900万台を販売しました。世界で販売されている車の約10台に1台がトヨタ車という計算になります!

しかしトヨタは、EVへの切り替えに消極的で、急速なEVへの切り替えは経済的なダメージが大きく、失業の増加につながる*とし、「一部の政治家からは全て電気自動車(EV)にすればいいという声を聞くが、それは違う」と発言*しました。

そんな中、グリーンピースは、世界の自動車販売の8割を占めるトップ自動車メーカー10社の気候変動対策について評価を行い、ランキングという形で発表しました。

評価したポイントは、1) CO2を排出し環境負荷が最も高い内燃エンジン車(ガソリン・ディーゼル車等)の廃止、2) サプライチェーンの脱炭素化、3) 資源の持続可能な利用についてです。

トヨタは、その10社の中で最下位となりました。その理由は以下の点です。

  • 内燃エンジン車の廃止:世界のどの市場においても、内燃エンジン車を廃止することを約束していない
  • 脱炭素化:気温上昇を1.5℃に抑えることをめざす炭素削減計画を提示していない
  • 資源の持続可能な利用:電池のリユース・リサイクルに努めているものの年間売上高に占めるEVの割合は非常に小さいため、ほとんど効果がない
  • ロビー活動:各国政府に対し、排ガス規制の緩和やICE車の廃止を加速させる法案にマイナスな影響を及ぼすロビー活動を行っている

この報告書は、日経新聞をはじめ数多くのメディアに引用され、記事を通して、トヨタの気候変動対策の遅れが伝えられました。

トヨタの新たなEV/電気自動車戦略 – その評価は?

昨年12月に記者会見を開き、豊田社長がトヨタの新たなEV戦略を発表しました*

戦略のポイントはこの3つです。

  1. 2030年までにバッテリー式EV(BEV)の世界の販売台数を350万台を目指すこと
  2. Lexusブランドでは、2035年までに100%BEVを目指すこと
  3. 2030年までに8兆円をEVに投資すること 

これは、重要な前進ではありますが、十分とは言えません。

トヨタの年間自動車販売のうち、EVは現在わずか0.1%。年間350万台になれば、35%です。

豊田社長は、バッテリー式EVの世界販売目標350万台は野心的であり、前向きな目標であると主張しました。しかし、2035年までに中国と米国で80%、2040年までに全世界で100%を目指すホンダや、主要な市場で2035年までに100%ゼロエミッションにするジェネラルモーターズやフォード、メルセデスベンツに比べて、まだ大きく遅れをとっています

そしてトヨタはまだ、ガソリン車を廃止する目標年を定めていません。ジェネラルモーターズや現代(ヒュンダイ)、ホンダは、ガソリン車をいつまでに廃止するか発表しています。

韓国ソウルの電気自動車(EV)のチャージステーション。

また豊田社長は、火力発電が多く占める日本の電源構成について触れ、

「カーボンニュートラルの達成には、各国のエネルギー事情が大きな影響を及ぼしていることも事実。それは、トヨタにはどうしようもないということをご理解いただきたい」*

と発言しました。

実際には、今までの研究実績をみると、どのような電源構成の国でも、バッテリー式EVはガソリン車より炭素排出量は少なくなります*。そして、トヨタは日本政府に対して、より多くの再生可能エネルギーを採用するように、提言すべきです。

EV/電気自動車戦略発表の舞台裏

実は、グリーンピースの自動車キャンペーン #DriveChange の担当者である私は、トヨタのEV戦略発表会に招待され、豊田社長の発表を見届けていました。

バッテリーEV戦略に関する説明会の豊田社長 (トヨタ自動車(株)ウェブサイトより)

会見の最後の質問では、記者がグリーンピースの報告書を引用し、”環境団体からトヨタの気候対策が遅れていることを懸念する声が上がっているが、どう考えるか?”と豊田社長に質問が上がりました。

調査とレポートの発表、メディアを通したメッセージの発信を通して、トヨタ社から環境団体の存在を尊重してもらえるようになったことは、とても大きな前進です。環境団体と対話する姿勢を見せてくれたトヨタ社にも敬意を評したいと思います。

このプロジェクトは2021年3月に始まり、9カ月という短い間で、公の場で報告書が引用され、トヨタ社の重要なイベントに招待されるところまでくることができました。

寄付や署名、SNSでの働きかけなどでこのキャンペーンを支えてくれたサポーターのみなさまの力がなくては、短い期間でこのような成果につなげることはできませんでした。本当にありがとうございます!

さあ、次は?

トヨタ社が新たな電気自動車戦略を発表して、このキャンペーンは終了になるのでしょうか?

いえ、キャンペーンはまだ続きます!

グリーンピースがトヨタ社に求めているのは、この4つを実現することです。

  • 2030年までに化石燃料車(ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車を含む)の新車販売を停止する
  • サプライチェーンも脱炭素化する
  • 資源利用を減らして、リユースやリサイクルを増やす
  • 販売台数よりメンテナンスやアップデートで利益を得られるビジネスモデルへ転換する

トヨタの動向にメディアも注目している今がチャンスです。このキャンペーンに参加して、トヨタが自動車業界の中で環境リーダーになるよう、一緒に後押ししましょう!

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