※ この調査は、化石燃料企業が「環境破壊を行わないクリーンなイメージ作り」のために実施したマーケティング戦略やPR広告を過去15年間調査してきた調査会社DESMOGの調査内容とグリーンピース・デンマークによって行われた調査報告書「Dissected, the 7 myths of Big Meat’s marketing」を引用にしたものです。
 

「肉食は健康に良い」と思っていますか?もしかすると、その価値観の土台には幼少期から見てきたPR広告があるかもしれません。

食肉業界で使用されているマーケティング戦略は、過去数十年間にタバコ産業で展開されたものと同じことが最新の調査*1 で明らかになりました。今では、社会はタバコ産業の嘘を見抜き、市民の幸福のために広告の方法と場所は規制されています

食肉業界も同様に、肉食にクリーンで健康的なイメージを与えるPRを行ってきました。

食肉・乳製品産業が気候や生物多様性に甚大な影響を及ぼすことが科学的に明らかになり、植物性の食への世界的なシフトが必要不可欠とされる今でも、食肉業界は工業的に大量生産される食肉のイメージアップのためにキャンペーンを展開し続けています

食肉産業が売り込んでいるイメージは、業界にとって不都合な科学的事実を無視したものです。

食肉業界が好んで使用してきた7つの神話について詳しく見ていきましょう。
 

昔はタバコが広告で推奨されていた

現在、喫煙はガン、心臓病、その他の健康障害を引き起こす可能性があることは常識となりました。

しかし、過去の広告は現在とはまるで違うものでした。

R.J. Reynolds,1931年の広告(スタンフォード大学医学部)

タバコ産業は、健康的で罪のない、そして家庭的・社会的なイメージを与えるために、医師、妊婦、赤ちゃんといる父親、ウェディングドレスでタバコを吸う女性などを多く起用していました。

1960年代と1970年代の広告の多くは、喫煙者の男性が女性にとって魅力的であることを指し示すためセックス・セールスという(マーケティング用語で、プロモーションに性的なイメージを使い集客をする)手法が好まれて使用されていました。

1990年代からは、タバコを吸うことで異性にとって魅力的な存在になれることをアピールする広告が多く見られました。このようなマーケティングは食肉産業でも同様に適用されています。

食肉産業が好んで使用する7つの「神話」

1. 肉食はグリーンで自然と調和している

http://krakauerland.com/

小規模、家族経営、牧歌的、のどかでグリーンを基調とした田園風景、幸せでのびのびとした動物。ノスタルジックな雰囲気のパッケージングは、食肉産業が最も好んで使用するものです。

実際、アメリカでは99%の動物飼育が工業型畜産によって行われています。*2

それにも関わらず、多くのパッケージングやPR広告がまるで動物も自然も豊かであるかのような実際の生産方法とは異なるイメージを消費者に与えています。

このようなイメージは、倫理的で持続可能、エコなイメージを与えます

実際は屠殺されるまで窓のない工業農場で身動きができない動物も多い

2. 肉は体に良く、必要不可欠

食肉産業が拡散した「たんぱく質神話」は、「動物性たんぱく質は、健康的な食生活を送るための最良で、必要不可欠なたんぱく質供給源」「肉を食べないと不健康」と多くの人に信じ込ませることに成功しました。

健康に必須という考えは、消費者に肉を食べる罪悪感を感じさせません。

また、子どもとその保護者を対象にした「子どもには肉が必要だ」というマーケティングもよく見られます。

健康的なイメージを使用した広告(https://gzella.pl/wygodne-w-droge/)

しかし、世界保健機関(WHO)は、ベーコンやソーセージ、ハムなどの加工肉を受動喫煙やアスベストと同程度の発がん性であるグループ1に分類しており、牛肉などの赤身肉はステージ2に分類しています。

3. ジェンダーステレオタイプ①:肉食は男らしい

肉食と男らしさ」は、頻繁にPR広告で使用されてきました。

広告のタグラインとして「Serious Man Food (ホンモノの男飯)」や「Man Up(男なら困難に立ち向かえ)」などの肉食と男性像は結びつけられてきました。

原始的な強さの象徴として「狩り」が使われることもありますが、その狩りも現代ではスーパーで行われています。「男性 = 肉食」には何も科学的根拠がありません。

英語ですが、ジェンダーステレオタイプを使用した広告をいくつか見ることができます。
自身も菜食を心がけているアーノルドシュワルツェネッガー氏が「肉食はホンモノの男飯」というのは
ただのマーケティングであると語っています。

性的な女性の画像を使用して男性の視聴者に製品を販売するマーケティングも多くありました。「肉を食べることはあなたに男らしさを与え、女性をモノにできる」というようなファンタジーを作り出すマーケティングは、特に加工肉ブランドやジャンクフード業界で多く見られます。

男性的な理想を利用することで、肉を食べないと男性性が脅かされると思い込むようになります。このような価値観は、ハワイ大学の研究チームが行った社会実験で証明されています。この実験では、男性は男性性が脅かされていると感じたときに安心感を与えるために、日常的に赤身の肉を食事に取り入れていました。*3

またベジタリアンは弱い、女々しくなるなどの印象操作も多く見受けられます。このような操作された男性像は、男性の健康を脅かしています。

4. ジェンダーステレオタイプ②:いい女は肉を出す

良い妻、良い母親を、そして異性にとって理想の女性をステレオタイプ化する手法を食肉マーケティングは非常に好みます。

例えば、フランスの大手食肉企業シャラルの広告では、肉を食べる母親のお腹の中で踊る胎児が表現されました。子どもを喜ばせる良い母親像を示すだけではなく、生まれてくる子どもがエネルギッシュで、母親が健全な発育のためにお肉を食べてくれることに喜んでいるような印象を与えます。

エコ・フェミニストであるキャロル J・アダムスが数十年かけて収集した広告のフェミニストの分析では、時として女性そのものが「肉」として描かれることが分かっており、食肉は家父長制の権力に大きく関わっていると言います。*4

肉そのものが、男性に仕えるという従属的な役割や、男性に消費・支配されることのシンボルになっている広告は多く存在します。このような有害な男性像(toxic masculinity)を「男性のあるべき姿」と捉えることは、男性にとっても、女性にとっても危険です。

広告研究では、特にポーランドの食肉PR広告は「ホンモノの男は赤身肉を食べる」「いい女は白身肉しか食べない」などジェンダーステレオタイプを創り出し、肉を調理し、準備し、提供する伝統的な家庭の役割を強く意識した広告を打っていることが明らかになりました。

5. 愛国心と国民的プライド

グリーンピース・デンマーク報告書「Dissected, the 7 myths of Big Meat’s marketing」より

食肉産業では、多くのブランドがマーケティングとして国旗を使用します。グローバル化に直面する中で、伝統的なアイデンティティを示し、国民的プライドを刺激します。

https://www.youtube.com/watch?v=_bPdrPfIqtI

6. 社会とのつながりを約束する

宗教的なお祝い、クリスマスから結婚式まで、人が集まる場を描く際にも、肉が登場します。

肉食の存在は、政治的な不和を解消し、人々の心を一つにし、調和を取り戻すものとして広告では肉が人を一つにしてくれる役割をしているように描かれています

肉が家族を一つにしたり、男女の恋のきっかけを作るようなポジティブな映像は、肉を食べることで社会とつながることができるというポジティブなイメージを作り出します

このようなイメージは、肉の生産過程での環境破壊や動物に対する倫理的な問題などが存在しないかのような印象を与え、肉を100%ポジティブなものへと変えます。

7. 肉は自由と選択の象徴

食肉マーケティングでは、自由、選択、個性に関するメッセージが共によく使用されます。不健康な食事を自由に楽しむ様子は、アウトローで社会のお堅いルールには縛られない自由な印象を与えます。

「真面目でつまらないやつになるな。人生を楽しもう!」

このような印象はジャンクフードの広告が好んで使用しています。

マクドナルドのようなブランドは、この分野のリーダーと言えます。

伝統と現代、男性と女性、ローカルとグローバル、健康と嗜好を融合させた雰囲気を作り出すことで「あなたは何を選択してもいい。既存の枠に囚われる必要はない。」というような感覚を持たせるのが得意です。

マクドナルドは、食べ物に焦点を当てるより、人に焦点を当てます

カジュアルな気分の時誰かと打ち解けたい時人を解放させるツールとしてブランドを思い出してもらえるようなマーケティングを行います

気候変動への影響を小さく見せようとしている?

調査会社が調査した企業の一つ、ヨーロッパの最大手食肉会社Danish Crownは「気候コントロールサステナビリティラベル(Climate Controlled Sustainability Label)」の使用をはじめました。

このラベルはDanish Crownと契約を結んでいる養豚場が、Danish Crownが提供しているサステナビリティプログラムにサインアップするだけで付けることができ、同社のポーク製品は「あなたが思うより環境に優しい」としています。

しかし、Danish Crownが排出するCO2排出量は、デンマークの年間排出量の29%を単独の企業ながら占めており、パリ協定の1.5℃目標達成のために残されたデンマークの炭素予算の42%も2030年までに単独で使用してしまうことが分かっています。

また、Danish Crownは、彼らのポーク製品は2005年と比べて25%も温室効果ガスの排出を削減したと発表しましたが、この温室効果ガスの排出量は、ポーク製品を製造する上での全てのライフサイクルの温室効果ガスが含まれていないと指摘されています。土地利用や森林伐採による温室効果ガスは含まれていません。

さらに、World Resources Instituteが行った別の調査では、Danish Crownが資金を出して行った調査結果の4倍の温室効果ガスが、実際には排出されていることが分かりました。企業作成の自社レポートは、調査会社によってではなく、Danish Crownが共同執筆していたことが明らかになっています。*5

「気候コントロール」とは、環境にとって最悪な状態が少しマシになった程度でも付けられます。

このようなマーケティングは、消費者に「肉の日常的な消費は持続可能という感覚を与えてしまいます。

食肉・乳製品産業が気候や生物多様性に破壊的な影響を及ぼすことは、科学的に明らかです。食肉需要の増加に伴い、家畜と人間は地球の哺乳類の実に96%を占めるようになりました。消費量を減らさなければ持続可能な未来はありえないにも関わらず、食肉産業は数十億円の資金をかけて、環境に優しいイメージを作ろうとしています。

肉の広告を規制する時代は来る

現代では、タバコの広告の方法と場所は、社会の幸福のために厳しく制限されるようになりました。今日もなお、喫煙を決断する人は世界中にいますが、その数は減少しています。

タバコ産業や食肉産業のマーケティングが作り出した神話は、社会的弱者を苦しめ、既存の男性優位的な社会システムを継続する価値観を拡散してきました。セクシュアルアイデンティティと格闘している可能性のある若者にとってその多くが有害なものでした。

地球全体の幸福のために広告を規制し始め、肉のマーケティングにも同様の制限を適用する時が来たのではないでしょうか。

おわりに|工業型畜産が引き起こす問題

工業型畜産が引き起こす環境問題をいくつ知っていますか

ぜひこちらのブログもご参照ください。

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