日本政府が東京電力福島第一原発の敷地内に貯留されている放射能汚染水を海洋放出で処分することを決めて、1年になります。
経済産業省から「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」と約束されていた福島県漁業協同組合連合会だけでなく、世界各地から、この決定に反対の声が寄せられています。
汚染水の現状を詳しく見てみましょう。
東京電力福島第一原発。2018年。

透明性のない放出計画

去年2021年2月13日、福島県沖を震源地とするマグニチュード7.3の大地震が発生しました。さらに今年2022年3月16日、やはり福島県沖でマグニチュード7.4の大地震が起きています。

2011年の東日本大震災で損壊し全電源喪失に陥ったことで未曾有の原発事故を引き起こした東京電力福島第一原発はいま、廃炉作業中です。
これほど大規模な地震で、原発そのものにどれだけの損害が生じたのか、詳細は明らかになっていません。屋外で放射性廃棄物を保管しているコンテナが転倒し、一部が破損して中身(使用済み防護服)が露出したことは報道されています。*1

福島第一原発で放射性廃棄物を屋外で保管しているコンテナは現段階で約8万5500基。こうした放射性廃棄物は、廃炉作業が続く限り増えていきます。これは通常運転中の原発でも同じことがいえます。

2013年、福島県いわき市豊間港で放射線調査のために海藻のサンプルを採取するグリーンピース。

しかし今年・昨年の地震の被害のみならず、海洋放出すると決めた汚染水の正確な量、放射線量、環境と人間の健康への影響についても、日本政府も東京電力も、信用に足る情報は開示していません。

汚染水は廃炉作業が終わらない限り増え続ける

30〜40年かかるとされている廃炉作業の間、増え続ける汚染水。
ここから少し数学的な話になるので、ちょっとゆっくり読んでみてください。

現時点で129万トンの汚染水が原発敷地内のタンクに貯留されていますが、計画では汚染水の放射性トリチウム濃度を、規制値である1リットルあたり1500ベクレル以下に希釈して放出することになっています。
現状の濃度の中央値は1リットルあたり38万1000ベクレル。
つまり、1リットルのタンク貯蔵水の濃度を基準値以下にするには、平均254リットルの海水で希釈する必要があり、放出される汚染水の量は3億2800万トンになります。

この量は、あくまでも現段階での数値です。
廃炉が終わるまで汚染水は増え続けます。増えていく汚染水の量は、2021年の平均で1日150トン。東電は2025年までにこれを100トンに減らすことを目標としています。

汚染水が発生する原因は融け落ちた核燃料と原子炉構造物の塊、いわゆる「デブリ」ですが、その量ははっきりとはわかっておらず、今のところ600〜1100トンと推定されています。
グリーンピースが委託した分析によれば、このデブリが今後数十年間で完全に除去される見込みはほぼゼロです。*2

東電の目標通り汚染水の発生を1日100トンにできたとして、30年でさらに100万トンの汚染水が増えます。
その時点までに廃炉作業完了の目処が立っているかどうか、今の段階では、誰にもわかりません。

汚染水の海洋放出に反対する署名を提出するグリーンピースと市民団体の皆さん

二次処理の実態

現在、大半の汚染水には、多核種除去設備(ALPS)で処理しても、基準値を超える放射性物質が含まれたままになっています。海洋放出の前に二次処理で残りの放射性物質を取り除くことになっていますが、これまでに二次処理が行われた汚染水は全体の1%にも達していません。
試験的な二次処理では、2000トンを処理するのに12日かかっています。このペースでは、福島第一原発に設置されているALPSシステムで、いま貯留されている残りの汚染水をすべて二次処理するのに14年かかる計算になります。
かつ、この二次処理が成功するかどうかはまだわからないのです。

前述の通り、汚染水はこれからも増え続けます。
それをALPSで処理し、二次処理し、海水で希釈して放出するのに、最終的にどれだけの時間がかかるか、結果的に自然界にどれだけの影響があるかもわかっていません。

政府と東電は「汚染水を貯めておくスペースが足りない」ことを理由に海洋放出を正当化していますが、福島第一原発の敷地内にも、隣接する大熊町や双葉町にも、汚染水を長期的に保管するための十分なスペースがあります
このことは、2018年の時点で東京電力が、日本政府の汚染水タスクフォースでさえ、2020年の報告書で認めています。

福島県の漁師・小野春雄さん。2021年、海洋放出に対するご意見をインタビューした。(末尾にリンクあり)

海洋放出に反対している国々

2021年4月13日、決定を発表したのと同じ日に、ヘンリー・プナ太平洋諸島フォーラム事務局長は、「我々は、環境、健康、経済への影響の可能性を含め、太平洋への潜在的被害への対策が十分にとられていないという見解を持っている」という声明を発表しています。
「(中略)日本は、南太平洋非核地帯を含む私たちの領土に対する重大な越境的被害を防ぐために、すべての適切な措置をとるべきです」

太平洋諸島フォーラムは1971年に設立された政治・経済政策機関で、オーストラリア、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、フランス領ポリネシア、キリバス、ナウル、ニューカレドニア、ニュージーランド、ニウエ、パラオ、パプアニューギニア、マーシャル諸島共和国、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツの18カ国で構成されています。

2022年3月、太平洋諸島フォーラムは、日本政府に海洋放出の見直しを促すため、独立した専門科学パネルを任命したことを発表しました。
2021年7月2日に開催された第9回太平洋・島サミット太平洋・島サミット(PALM)では「日本の発表に関して、国際協議、国際法、独立した検証可能な科学的評価の確保」が重要としています。

1993年、ロシア軍による日本海への核廃棄物の投棄を暴露したグリーンピース。これを契機としてロンドン条約で核廃棄物の海洋投棄の全面禁止が決定した。

「廃炉は終わる」という幻想

30〜40年で終わるとされている廃炉作業。
同じく30〜40年かかるとされている海洋放出。
でも、どちらにもその期間で「必ず終わる」という保証はありません。
デブリの取り出しが終わらなければ廃炉作業は続けられ、汚染水は発生し続けます。

日本政府と東電は、汚染水の海洋放出によって「廃炉作業は順調に進んでいる」「原発事故は収束している」という誤ったイメージを広めようとしているのではないでしょうか。

その結果、日本だけでなく世界中の海に、汚染水を通して放射能汚染を拡散することになるのです。

ヘンリー・プナ太平洋諸島フォーラム事務局長は2022年3月14日、「私たちの究極の目標は、私たちの海、環境、人々を、これ以上の核汚染から守ることである。これは、私たちが子どもたちのために果たさなければならない使命です」と述べています。

太平洋の島々は、かつてアメリカ・イギリス・フランスの核実験によって何度も被ばくしました。
これ以上の放射能汚染を、もう誰にも、押しつけるべきではないのです。

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参加する

*1:河北新報 2022年3月20日放射性廃棄物入ったコンテナ崩れる 福島第1原発、保管方法の課題浮かぶ
*2:グリーンピース報告書『福島第一原子力発電所の廃炉計画に対する検証と提案』2021年3月10日発行

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