パキスタン、シンド州ハイデラバード。モンスーンの大雨で洪水が発生し、下水道が破壊された。水の中を歩く人々。2022年7月26日撮影 Asianet-Pakistan / Shutterstock.com
パキスタンで、国土の3分の1が水没する深刻な洪水被害が起きています。食料や医薬品不足が続き、悪化する衛生環境の中で感染症まん延のリスクも高まっています。
パキスタン政府は、被害は気候変動によるものであるとし、地球を温暖化させてきた温室効果ガスの全体の1%しか排出していないパキスタンがこのような被害に見舞われている不平等な現状を訴えました。

パキスタンで起きている過去最悪の災害と気候変動はどのように関係しているのか、そして、私たちが気候変動が引き起こす激甚災害の頻発化から無関係ではいられない事実を、グリーンピースの調査結果からまとめました。

パキスタンで起きている洪水被害

図1:パキスタンの位置 外務省ホームページより

パキスタン全土で、2ヶ月以上に渡って大雨が降り続き、甚大な洪水被害が発生しています(※1)。

洪水が発生する前の4月から5月末にかけて、パキスタンは47度を記録する熱波に見舞われていて(※2)、異常な熱波が原因となる干ばつに悩まされる地区も出ていました。

そして、6月を過ぎると一変して大雨が降り続き、恐ろしい洪水を引き起こして、建物を押し流し、家屋を水没させ、道路を破壊したのです。

この洪水で、9月1日までに少なくとも1208人が死亡し(※3)、全人口の約15%にあたる3300万人以上が被災(※4)、国土の約3分の1が水没しました。死者のうち416人は子どもでした。

パキスタンでは2年前にもモンスーンの時期に洪水被害が発生し、最大の都市カラチの大通りが冠水した。
2020年7月撮影 Asianet-Pakistan / Shutterstock.com

農業にも大きな影響が出ています。輸出額の6割弱を繊維製品が占めるパキスタンの主要農作物である綿花のほぼ半分が流され、野菜や果物、米などを栽培する田畑も無事ではありません。アッサン・イクバル計画開発改革相は今後数週間から数カ月の間に、深刻な食料不足が生じる見通しを発表しました。

復興には100億ドル(約1兆4000億円)以上がかかると見込まれています(※5)。

パキスタンで起きた洪水に気候変動はどうかかわっているのか

壊滅的な被害状況について、パキスタン政府は気候変動が原因であるとしています(※5)。気候変動と未曾有の洪水被害はどのように関係しているのでしょうか。

パキスタンの洪水被害を引き起こした要因の一つに、モンスーン時期の降雨量の増加があります。地球温暖化により気温と海水温が上昇し、海水の蒸発が促進されることでより大量の水分を蓄えた温かい空気がモンスーンに降る雨の量を大きく増やしました(※6)。

パキスタンと隣り合うインドでも、海水温の上昇にともなう海面上昇の影響が大きい。
洪水に苦しめられるサトジェリア島の住民。2009年6月撮影

パキスタンの北部地域にある北極・南極に続く規模の巨大な氷河が温暖化によって溶け出していることも被害の要因だと考えられています。溶けた氷河はパキスタンに3000以上の湖を作り出していますが、そのうち約33の湖が氾濫の危険をはらんでいて、今回の被害に際しても氷河湖の決壊が確認されました(※7)。

気候変動の影響で氷河が溶けてできたスルツェナウ湖。2003年に溶けた氷河が流路を変えたために一夜にして出現した。オーストリア。2019年8月

夏前の熱波が引き起こした干ばつによって、極端に乾燥した土壌が雨水を吸い込む力を弱めていたことも、洪水被害に拍車をかけた可能性があります(※8)。

科学者たちは、パキスタンの洪水被害が気候変動とどう繋がっているのかを正確に語ることはまだできないとしていますが、地球温暖化のせいで、南アジアにおける異常気象の頻度が急激に高まっていることは明白です。

気候変動の影響で超大型台風が増える?

日本に住む私たちも、気候変動が増大させる自然災害のリスクと無関係ではいられません。

沿岸部に位置するため普段から風が強い大阪府咲洲庁舎。駐車場では多数の乗用車が台風21号による強風で吹き飛ばされ、歩道や車道にも横転していた。大阪市。2018年9月撮影

気候変動が、地滑りや土石流を引き起こす豪雨や沿岸部の集落を飲み込む高潮のように、人命を脅かす災害に直接繋がる台風を、さらに強大化させる可能性が指摘されています。

温暖化にともなって上昇している海水温度が氷河の融解や海水膨張など海面上昇の原因となり、さらに海面水温の上昇を要因として、一度発生した台風がより水分量を高くし、より風速を上げる可能性が高いというのです。

つまり、海面水温が上昇するにつれて、台風がともなう暴風雨がますます酷くなる恐れがあるということ。そしてまた、洪水や地滑り、高潮が起きやすくなることで、災害による家屋破壊や、負傷者や死者の増加のリスクがより高まるということでもあります。

台風が日本、中国、韓国に直撃しやすくなる

グリーンピースの主な調査結果は、気候変動が台風をより強大化させることを示していますが、注意すべきはそればかりではありません。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、熱帯低気圧の軌道が緯度を上げて、南極・北極方向へと移動している可能性が高いことを発表しており、これは台風がどこで発生し、どこへ行くのかが変わってきていることを表します。

図3:台風が最も強い勢力となる位置が赤道から北方向へ移動している。

台風が最初に発生する場所は、これまでより北へ移動していて、さらにいったん発生した台風が、北西方向に進むことが多くなっているというのですが、ここで重要なのは、台風の強さが高緯度でピークに達し、さらに陸地に上陸することでより強さを増すという事実です。

これらの研究結果が意味するのは、台風がますます強大化して、中国、日本、韓国の北東部を直撃しやすくなるということに他なりません。

実際に​​2019年10月に日本で98名の死者を出し、27万戸もの世帯を停電させた台風19号(ハギビス)のような強い暴風雨をともなう大きな台風が東アジアで増えています。

大型の台風19号による福島県内の被害。洪水被害を受けた福島県本宮市では、住民らが流れ込んだ泥やごみの後片付けに追われていた。2019年10月撮影

アジアでは1970年から2019年の間に、自然災害によって100万人近くの人命が失われ、2兆ドル(約280兆円)の経済的損害が報告されていますが、これらの被害のほぼ半数は洪水によるもので、3分の1以上は暴風雨によるものでした。

パキスタンでの洪水被害は私たちにとって決して他人事ではありません。

気候危機は不平等に訪れるが、誰も無関係ではいられない

パキスタンでは今この瞬間も人々の命が危険にさらされています。しかし、地球温暖化の原因である温室効果ガスについてみてみると、パキスタンの排出量は世界の1%にも達しません(※9)。

出典:Global Carbon Project に基づく Our World in Data
CO₂ and Greenhouse Gas Emissions
2019年における国または地域一人あたりの消費ベースのCO₂排出量。グリーンの逆三角形が示すのがパキスタン。

2019年の国または地域別の二酸化炭素消費量をみても、日本が2019年に一人あたり10トン〜15トンの二酸化炭素を消費しているのに対し、パキスタンは1トンから2.5トンと、大きな差があることがわかります。

はっきりしているのは、気候変動への影響が先進国と比べて格段に低いはずのパキスタンのような国が、気候変動によってより大きな被害に見舞われている不平等な現実です。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は「南アジアは気候危機が顕著にあらわれる地域だが、今日パキスタンで起きていることは、明日あなたの国で起きることかもしれない」と訴えました(※10)。

実際に東アジアが、今後より頻繁に大きな台風のリスクにさらされることは先に述べた通りで、この記事を書いている今も大型の台風11号が日本海を加速しながら北上しています。

本来は気候変動に負う責任が小さいはずの人たちが過酷な犠牲を払わされる中、私たちは温室効果ガスを大量に排出する生活を続け、ますます大きくなるこの先に起こるかもしれない危機の恐怖に怯えることしかできないのでしょうか。

個人が、そして社会が、今すぐにできること、しなければならないことは実はたくさんあります。

まず世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるため、世界の二酸化炭素排出量を2050年までには実質ゼロにすることが絶対に必要です。

そのためには、2030年までに二酸化炭素の排出量を半分といわずそれ以上に削減し、石炭火力発電を段階的に廃止、2050年までに自然エネルギー100%の脱炭素社会を実現させることを目標に、政府や企業を突き動かしていかなければなりません。

気候変動をくいとめ、より安全な再生可能エネルギーへの転換を実現するため、グリーンピースは実効的な対策を求めて世界中で活動しています。

①温室効果ガスを最も多く排出する石炭火力発電の廃止のため、世界中の石炭火力発電に出資している日本の3大メガバンクと根気強く話しあい、新規の石炭火力事業への投融資を中止させることができました。

②日本の基幹産業である大手自動車メーカーに対し、販売台数ではなく移動サービスの提供を主体とする持続可能な産業へのシフトを提案し、丁寧な対話を続けています。

③日本中の自治体に脱炭素政策を実行してもらうための草の根運動を立ち上げ、地元の人たちが自分の手で我が町のエネルギー政策を転換させるように後押ししています。

グリーンピースは国際社会と世界中のあらゆる国と自治体と企業に対し、原発なしで実現できる気候変動対策を提示し、実現を求めて交渉を続けてます。

「ゼロから分かる気候変動の原因と対策 私たちが今すぐできること」

「今日はじめよう あなたの声が、世界を変える力になる」

これらのページもぜひ参考にしてください。

パキスタンへの寄付を行える災害基金も多く立ち上がっています。
また、SNSでの記事のシェアや、署名、気候危機回避に取り組むNGOに寄付をすることも大切なアクションの一つです。犠牲を強いることのない持続可能な緑あふれる世界をグリーンピースと一緒に実現してください。

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参考:
The 5 biggest typhoons to batter East Asia in recent history
How the climate crisis is making typhoons worse

出典:
※1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220831/k10013795801000.html
※2:https://www.cnn.co.jp/world/35187075.html
※3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022090200232&g=int
※4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022083000672&g=int
※5:https://www.bbc.com/japanese/62719691
※6:https://www.bbc.com/news/science-environment-62758811
※7:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220510/k10013618191000.html
※8:https://wired.jp/article/drought-causing-floods/
※9:https://www.unep.org/gan/news/press-release/pakistan-develop-national-adaptation-plan-climate-change
※10:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220831/k10013795801000.html