こんにちは。グリーンピース・ジャパンのポリシーアドバイザー、鈴木徹です。

捕鯨の現状を伝えるために再度オーストラリアへ

市場需要と無縁で補助金頼みである日本の「“調査”捕鯨」が南極海で行われている中、オーストラリアのグリーンピース事務所から、「オーストラリアに来て、クジラ肉裁判の現状と日本国内の反応を話して欲しい」との誘いがありました。今回は二度目となります。

シドニーとキャンベラへと飛び、メディア取材対応や政府関係者とのミーティングなど多忙な一週間を過ごしてきました。そして、私にとっても数々の大きな収穫がありました。

オーストラリアは感情的?

ご存知のとおり、オーストラリアは反捕鯨国として有名です。一般市民から政治家にいたるまで幅広い層の人々が日本の捕鯨の実態をよく知っています。「調査捕鯨が科学的なものではない」「利権の温床になっている」、さらには「日本でクジラ肉の在庫が増えている」などと、一般の人々が語っていたのには驚きました。

「オーストラリア人は単にクジラが可愛いし賢いから捕鯨に反対している」とよく言われますが、必ずしもそうではありません。どちらかというと、これは日本のメディアによって作られたイメージのようです。

怒涛のスケジュール

ナイトフライトでシドニーへ。さっそく朝からメディアの取材対応、夜は観光名所として知られる「シドニー博物館」で、集まってくれた200人(!)の方々を前に講演しました。

この講演では、捕鯨にまつわる日本の近況のほか、以下のことを話しました。

1. グリーンピースによる調査捕鯨船の不正暴露から2年半が経ち、昨年12月に水産庁が、「職員が捕鯨運営会社である共同船舶から鯨肉を受け取っていた事実(実質は収賄にあたる)」を謝罪し、5名の職員を処分したこと。さらに、水産庁次長も厳重注意を受け、その後退職したこと。
2. 日本鯨類研究所の理事長職は代々、元水産庁職員の天下りであった。その天下りポジションが昨年末、なくなったこと。
3. 調査捕鯨が政治的サポートを失いつつあること。
4. クジラ肉市場は壊滅状態で、捕鯨自体は補助金無では成立しない状況であること。
5. 日本の若年層の多くはオーストラリア人同様にクジラを自然のシンボルとして見ていること、捕鯨自体が現代日本の社会的ムードにそぐわないこと、日本政府内にも捕鯨を負担と見ている役人が増えていること。
6. 元船員の内部告発情報である、「捕獲を時間的にランダムに行わず、一挙に捕獲をしている。時間切れになると処理できないクジラを海に捨ててしまう」というエピソード。 (これには、会場全員が凍りついていました)

首都のキャンベラで政治家たちと会う

二日目、午前中は大学で地元高校生のグループにレクチャーをしました。この後、首都キャンベラに飛び、トニー・バーク環境相とケビン・ラッド外相、野党・自由党ナンバー2のジュリー・ビショップ氏と影の内閣環境大臣グレッグ・ハント氏、そして緑の党議員、豪州外務省の海洋担当チームや国際法担当チームら、さまざまなバックグラウンドの方々と二日がかりでミーティングを行いました。

オーストラリア国内でも、捕鯨に関する意見は必ずしも一致しているわけではなく、捕鯨を政治の道具として認識している政治家がいることも事実です。ただ、今回の私の訪問は与野党の政治家、政府担当チーム、そして一般の方々が反捕鯨の情報を共有することができたケースとなったようです。これは大きな前進といえましょう。


私の伝えたかったこと

今回、私が慎重にオーストラリアに伝えたかったメッセージは「捕鯨に反対する声は、すべて水産庁の中の捕鯨班とその周囲の捕鯨推進者に向けられるべきで、水産庁全体ではないし、日本政府全体でもないし、ましてや日本国民全体に対してでもない。支持を失いつつある捕鯨なので、日本に決断をしてもらえるスペースを作ること。だからこそ、今、オーストラリア全体がしっかり方向性を持って行動する」ということでした。

日本とオーストラリアの両国間で捕鯨に関する相互理解が進めば、より良い友好関係を築くことができるのではないでしょうか。

これまでの活動とこれから

グリーンピースは南極海へキャンペーン船を送り、南極海で起きている出来事を世界中の人々に知らせ続けてきました。我々のアクション無しには捕鯨の真の姿が世界に伝わることは無かったのではないでしょうか。

そして2008年、内部告発者を発端にした調査捕鯨の不正を暴露し、グリーンピースは反捕鯨活動を日本国内に集中することにしました。そして反捕鯨活動の第二章として、日本国内で調査捕鯨の実態を伝えるという活動を行ってきたのです。以来、徐々にではありますが捕鯨に疑問の目を向ける人の数が増えていると私自身は感じています。

日本を含め各国政府の中で、「ポスト捕鯨」の動きが芽生えているように私は感じてなりません。国際社会と協調しながら時代を切り開くことがどの国にも要求されている21世紀。顧客不在、国民不在の捕鯨に幕が下ろされる日もきっと近いのではないでしょうか。そんな思いを胸に、数多くの友人がいるシドニーを後にしました。