海洋の環境問題を担当している花岡です。

絶滅の恐れがある種を保護し、野生動植物の輸出入を規制するワシントン条約は今年3月、バンコクで開かれた締約国会議で、フカヒレ目的の乱獲で減少が著しいシュモクザメ3種を含む5種のサメの国際取引の規制を決めました。しかし日本政府は「資源管理は既存の漁業管理機関で行うべき」との理由から、この規制の受け入れを拒否することを意味する「留保」を締約国事務局に申し立てると5月31日に発表。

「サメの一大水揚げ港である気仙沼漁港が復興の最中だから」という理由であれば一定の理解を示すことができますが、「資源管理は既存の漁業管理機関で行うべき」という理由には、「既存の漁業管理機関」に何度も足を運び日本政府代表団の立ち振る舞いを見てきている私は、以下3つの観点から大きな疑問符をつけざるを得ません。

1:既存の漁業管理機関は機能不全

中西部太平洋にはWCPFC、大西洋にはICCAT、インド洋にはIOTC、と言ったように、世界の海にはサメやマグロ類などの資源管理や漁業規制を行ういくつかの国際機関があります。これらの機関は毎年、加盟国が集まり会合を開くのですが、基本的に物事の決定にはコンセンサスが必要なため、資源管理を優先させる国/地域と、大規模漁業による短期利益を優先させる国/地域との対立により、何年たっても大きく前に進むことができていない状態が続いています。日本が世界総漁獲量の約80%を漁獲し消費する太平洋クロマグロが、未開発時の3.6%しか海に残っていないこと、世界総漁獲量の約98%が日本で消費されているミナミマグロももう海に5%以下しか残っていないこと、日本で最も多く消費されるメバチマグロも複数の海域で過剰漁獲されていることなど、これらの漁業管理機関が漁業を管理する機関として機能していない例を挙げればきりがありません。今回のサメ5種においても、漁業管理機関では絶滅のおそれが生じる事態になるような管理しかできなかったからこそ、この度ワシントン条約で議題となり規制が決まったのです。

2:日本政府が漁業管理機関を骨抜きにしている

グリーンピースはこれら多くの漁業管理機関の年次会合に代表団を派遣し、私もWCPFCに何度も足を運びこの目で目撃していますが、それらの年次会合で、資源管理よりも短期利益を優先させるグループの代表格的な振る舞いをしているのが、日本政府です。漁業の持続可能性を求めた予防原則に基づく資源管理や漁業規制の案に対して、多くの場合中国、台湾、韓国、インドネシア、フィリピンなどの政府と連携して反対したり骨抜きにしたり、決定を引き延ばすためにあえて理不尽な提案をしたりしています。実際に先月行われたIOTCの会合でも、日本政府はシュモクザメなどの保護措置に反対していました。

日本政府が漁業規制を含む資源管理に後ろ向きなのは国際機関の場でだけではありません。国内を見ても、政府が長年に渡りろくな資源管理をせず近海から魚を奪った結果、日本の漁業は壊滅的な状況にあります。魚の減少に伴い漁師の数も年々1万人規模で激減し、現役漁師の過半数が65歳以上と跡取りもいない状態が続いています。

3:日本政府は水産資源に関してワシントン条約アレルギー

日本政府は、今回のサメに限らず複数の鯨類においてもワシントン条約の取り決めの受け入れを拒否していますが、その背景には「他の魚も規制される」という根強い意識が見え隠れしています。日本市場からマグロやウナギをはじめとする魚介類を奪う要因は世界規模で進行している過剰漁業や違法漁業に他ならず、それには世界有数の漁業・魚食大国である日本の水産・流通業界も大きく関与していますが、日本政府はそれらの要因から目をそらし、代わりに国際規制を日本市場から魚介類を奪う要因として、捻じ曲げた位置付けをているのです。SUSHIの世界ブームを作り出した日本こそ、サステナブルシーフードの国際的な流れを作る先駆者となり、漁業や貿易の国際規制にも積極的であるべき。また国内を見ても、日本政府は、自国の水産・流通業界の破壊的行為を規制できないのであれば、せめて国際的枠組みを活用して、漁業や魚食の持続可能性を追求することが求められます。日本政府のこの度の発表は、過剰漁業や違法漁業などにより資源状態が悪化する種の保護を放棄しただけでなく、自国の漁業関係者や消費者を見捨てたことであり、世界有数の漁業・魚食大国として極めて無責任と言わざるを得ません。

 

政府が頼りない今、消費者の声で流通を変えることが急務

海洋放射能汚染の問題でも日々感じますが、腰の重い政府にプレッシャーを与えその対応を地道に待つだけでは、次世代の海や食卓に魚を残すことはできそうにありません。そこで、海や魚が好きな皆さん、日本の食卓に上る魚介類の約70%を販売する大手スーパーマーケットに、「消費者の声」を届けませんか?2011年11月に業界最大手イオンが6,000筆の消費者の声に応えて「食品放射能ゼロ目標」を宣言したように、スーパーは消費者の声に応えます。皆さん、ぜひ オンライン署名「一週間、魚なしで過ごせる?」に参加して、「乱獲された魚は売らないでほしい」「違法に獲られた魚は売らないでほしい」「持続可能性を追求してほしい」などと言った声を、一緒に伝えましょう。