シリーズ 「NGOの役割を再考する」

第4回  「ねじれ」が嫌な方へ、「創造的対立」のすすめ

いよいよ参院選がはじまる。

先日、安倍首相が「国会のねじれを解消し、政治を安定させる」と訴えるのを聞いて違和感を覚えた。対立意見との調整があるからこそ、政治は安定するのではないのか。

また、先週の電力会社株主総会では、脱原発の株主提案がことごとく否決された。その際の経営陣の回答を聞いていると、提案自体が迷惑だと言わんばかりの議事進行や発言が目立った。

この「ねじれ」をめぐる発言や株主総会の回答にも見え隠れするが、「建設的な対立」をも避けようとする雰囲気が日本の社会にはまだまだ強い気がする。

そして、この雰囲気こそが政治や社会を不安定化させている要因ではないか。

そこでおすすめしたいのが「創造的対立」という考えだ。

 

「創造的破壊」と「創造的対立」

国際環境NGOグリーンピースのミッションの中に、環境を守るために「Creative Confrontation」を用いるという一節がある(注1)。

この日本語訳として「創造的対立」を使っているが、「対立を通じて、新しいものを創造する」という意味だ。(「クリエイティブな方法で対峙する」という意味もある。)

「創造的破壊」といえば、経済学者のヨーゼフ・シュンペーターによって提唱された経済学用語の一つで、新たなイノベーションは、古いものを破壊するというプロセスから生まれるということを指したものだが、「創造的対立」は、その言葉に似ている。

いずれも「破壊」とか「対立」という「創造性」とは逆の発想が、実は新たなものを生み出すプロセスに重要だという考えを端的にあらわしたものだ。「対立」というプロセスを経ることで、課題が明確になり、解決の方向性が見出しやすくなることが「創造的対立」の利点となる。

東電福島原発事故後に、ドイツは脱原発政策を決定した。その背景には、さまざまな対立意見を持つ利害関係者がじっくり議論した成熟した政治プロセスがあったことは有名だ。その上で決定した脱原発方針は「創造的対立」の良い例だろう。

 

NGOとの「協働」にも「創造的対立」を

企業がCSR(企業の社会的な責任)の一環として、「NGOとの協働」を進めて久しい。

しかし、「協働すること自体が目的となっている協働」が増えているように思える。そのような場合、時間が経つにつれてNGO側も、企業側も十分な社会的意義を感じられなくなる。

私は「創造的対立」を前提とした「戦略的な協働」が重要だと思う。NGOは企業の経営方針が与えている社会的な問題について厳しい意見を建設的に述べることで、その問題解決へと企業を導くべきだ。

これが実行できれば「対立を乗り越えた上で得られる共感」に向けて「協働」することができる。

 

「創造的対立」で成果を残してきたグリーンピース

グリーンピースが過去に成果を残してきた活動は、ほぼすべてがこの「創造的対立」に基づいている。

たとえば、松下冷機(現在のパナソニック)とグリーンピースの協働で2001年に誕生したノンフロン冷蔵庫が良い例だ。

フロンも代替フロンも使わない冷媒技術をドイツで開発したグリーンピースが、日本の冷蔵庫メーカーにノンフロン冷蔵庫の開発を迫っていたが、パナソニックらはドイツと日本の規制基準の違いをあげて、そんな技術は開発できないと対立していた。

10年の交渉の末に2001年にノンフロン冷蔵庫が誕生してからは、日本市場の家庭用冷蔵庫はほぼすべてがノンフロン冷蔵庫になるほどに普及した。

今年1月にグリーンピースとユニクロが有害化学物質全廃で合意した例もそうだ。これも2011年にグリーンピースがユニクロの工場から有害化学物質を検出したことを指摘することから交渉が始まり、現在は2020年までに有害化学物質を全廃するという目標に向けて前向きな議論を重ねている。

以下のリンク先にグリーンピースの活動の主な成果があるが、これらを見直してみても「創造的対立」からはじまるサクセスストーリーが多い。

グリーンピースの「サクセスストーリー」

 

「創造的対立」は「対立のための対立」とは異なる

「創造的対立」というのは「対立のための対立」とはまったく異なる。それは前者には対立する相手に対しての「敬意」や「愛」が存在するからだ。

参院選を前にして「ねじれの解消を目指す」というニュースを聞くたびに、「対立のための対立」ではない「創造的対立」の価値を認める社会が必要だと強く感じる。

 

(注1)以下が国際環境NGOグリーンピースのミッションステートメント
Greenpeace is an independent, campaigning organisation that uses non-violent, creative confrontation to expose global environmental problems, and to force solutions that are essential to a green and peaceful future.
(グリーンピースは、生態系豊かで平和な未来のために「非暴力」と「創造的対立」を用いて国際的な環境問題を世の中に知らせ、その解決を迫る独立したキャンペーン団体です。)

 

「NGOの役割を再考する」は、日本のNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)などの市民セクター、またグリーンピースの役割について事務局長の佐藤潤一の意見をシリーズ化しているものです。

 第1回  「会社人から社会人」へのシフトを  (2013年4月3日)

 第2回 アベノミクスが破壊するもの (2013年4月22日)

 第3回 “成長”が目的化する社会の危険性 (2013年5月24日)

 第4回 「ねじれ」が嫌な方へ、「創造的対立」のすすめ (2013年7月3日)