みなさんこんにちは! 
グリーンピース・ジャパンのインターン、黒田と佐久間です。

「自然エネルギー現場紀行」は自然エネルギーの現場を実際に訪ね、その仕組みや成果、課題などを直接伺って、参加者が見聞きしたことや感じたことをブログにまとめ、発信するシリーズです。

このブログを通して自然エネルギーについて、関心をもって頂ければ幸いです。

今回は、2013年9月に私たち2名とグリーンピースのボランティアの水野さんが山梨県の都留市(つるし)にある家中川(かちゅうがわ)小水力市民発電所を見学させて頂いた際のレポートです。


(写真: 小水力水車の「元気くん1号」。後ろの建物は都留市役所)


家中川小水力市民発電所

家中川小水力市民発電所は、都留市が設置・運用しており、「元気くんシリーズ」という3台の水力発電用の水車があります。

3台の水車の最大出力は合わせて約46KW。
165×100(cm)の太陽光パネル200枚分と大体同じくらいです。
1か月の平均発電量は、12,482kWhで一般家庭(4人家族)の約25世帯分(4人世帯の平均消費量485kWhにて換算)です。 


都留市(つるし)と家中川(かちゅうがわ)

家中川は実は1639年から人工的に開削された川です。

この川は農業、生活、防火や織物産業を支えてきました。
明治38年には谷村発電所が、現在元気くん1号が設置されている場所に建設され、昭和28年まで電気を供給してきました。

谷村発電所が立てられるまで谷村町と十日市場には電気がなかったため、多くの地元の人に愛された発電所でした。
谷村発電所も水車が用いられていて親しみもあり、元気くんを設置する際は、賛成する人が大変多かったそうです。

家中川小水力市民発電所は名前の通り、「つるのおんがえし債」を用いることで市民の協力を得て、元気くん1号と2号を建設しました。

「つるのおんがえし債」は住民参加型市場公募債で、抽選で「つるのおんがえし債」を購入した方は10万円を支払います。
ご説明くださった天野さんのお話によれば、「つるのおんがえし債」を購入されたお爺さんが孫に「元気くんはおじいちゃんが作ったんだよ」と誇りを持っていたことが、とても印象的だったそうです。

「つるのおんがえし債」はとても反響が大きく、元気くん1号の倍率は4倍以上になりました。
応募が多かったのは、おそらく住民の方々にとって家中川と水力発電は昔から思い入れがあったからでしょう。
そうした住民と発電所の結びつきの強さが、出資への人気にも反映されているのではないでしょうか。
他の地域でもこういったケースがあるのか、興味がわきました。


元気くんの設置まで

小水力発電所を建設する前には、水利権(水を利用する権利)を取らなくてはいけません。

水利権を取るには川の流量調査などを行ない、国に計画書を提出する必要があります。

家中川では水利権を得るのに1年近くかかったとのことです。加えて、元気くん1台の建設には約1年かかりました。
1号の建設費は約4300万円、2号は約6200万円(主に防音対策のため増額)、3号は約3500万円使われました。
建設費は「つるのおんがえし債」や他の補助金で賄われました。

2号と3号は住宅地に建設されているため、元気くんの電気系統の機材の設置場所に困ったそうです。
市営の元気くんは市の土地にしか建てられないので、機材はすべて川の上の空間に設置されていました。
しかし、2号の機材は構造上置き場がなかったため、少し離れた公園に設置されています。 



(写真:ミュージアム都留の正面にあるマイクロハイドロ。手のひらサイズの実験用です) 


ゴミ対策

小水力発電の問題点は、川を流れるゴミが水車に絡まったりしてしまうことです。

元気くん1号と3号で使われている逆洗浄式除塵システムは、一日5回自動で作動します。
発電時には元の水路は堰止められるので、行き場をなくした水がバイパス水路の方へ流れ出します。

水車の手前には金属製のスクリーンがあり、ここで大きめなゴミ(缶やレジ袋など)は水車に接触する前に引っ掛かります。
この引っ掛かったゴミをスクリーンから外すためにまずスクリーンが上がり、ゴミを落とします。

次に堰が上がって水が元の水路へ逆流すると、ゴミも一緒に元の水路へ流れていきます。
しかし時にはゴミがスクリーンを通り抜けてしまい、水車と川底間の狭い場所にたまったり、元気くん1号の松材製のブレードに挟まって、ひびを入れてしまったりすることもあります。

一方、元気くん2号はゴミ対策をしていません。
なぜなら、2号は水が水車の上部を流れ落ちていくだけなので、ゴミも一緒に下流へ流れていくからです。

逆洗浄式除塵システムを使えば、故障などをある程度予防することは出来ますが、ゴミが元の水路を辿って川へ戻ってしまうことに、少し問題があるように感じます。
一度引っ掛かったゴミを川から出すことが出来れば、スクリーンも短い距離で複数設置する必要はなくなるし、最終的に海にまで流れ着き、海洋汚染につながってしまうことも防げるのではないでしょうか。
今後このような小水力発電を積極的に取り入れていくためにも、河川へのゴミのポイ捨て啓発運動や、クリーンアップ運動などを推進していかなければならないと、改めて感じました。


騒音問題と防音対策

小水力の主な問題はゴミと音だそうです。

私たちが元気くんを訪れた日は全機停止していたため(下記自然災害参照)、音の影響がどれほどあるのかは分かりませんでしたが、3号付近の水流はかなり勢いがあり、それに伴い生じる音も大きく、会話は聞き取るのがやっとでした。

そのため、元気くんにはいろいろな防音対策がなされていました。
具体的には、2号の水車本体の中空部全体に防音シートを貼ったり、3号の水路の壁に小さな穴を開け、空気が壁に当たって出る爆発音を防いだりしていました。

1号は、夜間は人がいない都留市役所と谷村第一小学校の間に設置されているので、特に防音対策はされていないそうです。
2号と3号は住宅地にありますが、ご近所の方にはご理解を頂いていて、防音対策の結果苦情がくることもなく、中には以前よりも元気くんが設置されてからの方が川の音が小さくなったという人もいるそうです。


自然災害

家中川は大雨の際(今年の夏のゲリラ豪雨など)には、下流での氾濫を防ぐために上流を堰止めています。

この場合、水が家中川に流れなくなるので勿論発電は出来なくなります。
しかしそれも、元気くんを守るためではなく、川を守るために行なっているとのことでした。

その他、8月中旬には落雷により1,2,3号とも電気系統が故障してしまったそうで、私たちが見学した際も、残念ながらまだメンテナンス中でした。(10/1には復旧されたとのことです)
製造元がドイツということもあり、部品の入手に時間を要したとのことでした。


人口河川への設置

先述の通り、家中川は人工河川のため、生態系への影響を心配する必要がなく、また元々整備されていたので、比較的設置が容易であったとのことでした。
しかし、その分街中に流れている川のために、運用の妨げになるゴミが多くあり、その撤去、美化・啓蒙活動に苦心されたそうです。



まとめ

小水力発電所の建設と維持管理には難しい点がいくつもあるようですが、魅力もたくさんあると感じました。

CO2(二酸化炭素)を出さない、水にはお金がかからないなど自然エネルギーの代表的なメリット以外にも、小水力発電を人が見える所に置くことによって、小水力や自然エネルギーが身近な存在となり、興味を持ってくれる人も増え、環境教育にもなるでしょう。

実際、都留市では設置後ポイ捨てがかなり減り、目に見えて川がきれいになったそうです。

実際に、元気くん1号が完成した2005年度から2013年3月末までで、国内外から10,000人を超える視察者が訪れているそうです。
このような地域活性化の模範的なケースが、自然エネルギーの更なる活用と、各地の活性化へ連鎖してつながっていけばいいな、と感じました。


研修の準備や視察中、詳しく元気くんについて教えて下さった天野さんをはじめとする都留市エコハウスの方々、本当にありがとうございました!

(写真:お世話になったエコハウスのスタッフさんと、ミュージアム都留にて集合写真。ありがとうございました!)


★見学者大歓迎の都留市エコハウスは、企業や成人向けの事業説明・現地説明コースや子どものためのコースを行っています。
注意:見学は事前予約が必要です。
詳しくはこちらをクリック。


私たちは同じ日に、山梨市で行なわれている木質ペレットを利用した取り組みも視察させて頂きました。
そちらのブログもどうぞご覧ください。 

★自然エネルギー現場紀行のバックナンバーはこちら:


また、以下にはもっと詳しく知りたい方向けに、元気くんの詳細などを記載します。




水車の種類


元気くんシリーズはみな開放型(周りが覆われていないもの)です。

これは主に見学者に水車が回っているところを見てもらい、小水力の仕組みを知ってもらうためです。
密閉型の方が静かですが、ゴミの排除が難しいことが難点だそうです。

また、1号に採用された開放型下掛け水車は都留市民になじみがある形だったそうです。
(詳しくは下記「都留市と家中川」をご参照ください)

2号の開放型上掛け水車は、設置場所がもともと小さい滝で落差が大きかったため採用されました。
3号に採用された開放型らせん水車は、水の流れを妨げることがないため、河川の生態系への影響が殆どありません。しかし、もともと家中川は人口の川なので外部から魚が入ってくることもなく、殆ど魚はいないそうです。

(写真:「元気くん3号」。写真上部からの流水が赤い矢印の方向にくるくる回ります)


回転速度

普通、私たちが考える昔ながらの水車というのは、回転が遅いと思います。
それではなぜ、元気くんシリーズの回転速度はこんなに速いのでしょう。

それは増速機(ギアボックス)という、ブレードからの回転を発電機に必要な回転数までギアを用いて増速させる機械を用いることで、回転数を飛躍的に上げているからです。


発電方法

水路式とは、もともと流れていた水路とは別に水路(バイパス)をつくり、発電時には水がバイパスを通るようにするものです。
流れ込み式の元気くん2号は、発電時には水が水車の上部に流れてきて水車を回します。
発電しない時には水の流れを変え、水が水車の手前で落ちるようになります。

(写真: 元気くん2号に水があたる直前には段差があります。川の流れが強すぎて、そのままでは2号を傷つけてしまうので、水流を和らげるために工夫したものです)


最大出力

水車の出力に最も影響するのは、水量と落差です。
水量と落差は、どちらも多ければ多いほど出力が大きくなります。
また、元気くん3号は傾斜が殆どない場所に建てられたので、落差は川底の一部を高く上げることで生み出したそうです。


メンテナンス

元気くんシリーズは月に一度、山梨県内の日本小水力株式会社と安田電気により、半日ほどかけてメンテナンス(引っ掛かったゴミの除去、1号機のブレード損傷の点検※、電気系統のチェックなど)が行われています。

それに加え、年に一度は機械を止めて全点検を行なっています。
メンテナンスには1年で約15万円かかるそうです。水車は一般的に平均20-30年間もつといわれていますが、ヨーロッパでは50年ほど作動している水車も存在するようで、メンテナンスをしっかりと行ないながら、長く使っていきたいとのことでした。

※なお、ブレードは36枚あり、1枚のブレードは8枚の松材で作られていて、松材1枚あたり2000円で交換出来ます。


スタッフ

元気くんシリーズの運営には多くの人が関わっています。
元気くんの管理にはエコハウススタッフが3人、そして都留市産業観光課2人が携わっています。
メンテナンスや点検は専門業者に委託しています。

【自然エネルギー現場紀行シリーズのブログはこちら】

自然エネルギー現場紀行 小水力 in 山梨編

自然エネルギー現場紀行 風力 in 静岡編 

自然エネルギー現場紀行 小水力発電機 in 長野編 

自然エネルギー現場紀行 太陽光 in 長野編 

自然エネルギー現場紀行 太陽光 in 鹿児島編