こんにちは、海洋生態系を担当している花岡和佳男です。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会が、3月25日から30日まで横浜市で開幕されていました。温室効果ガスの排出に関する問題はもちろんですが、魚介類が食文化に深く根付く島国である日本にとって、海を取り巻くたくさんの問題とどのように向き合うかも、大きなポイントです。

気候変動による異常気象や海面上昇などはすでに広く報道されていますが、普段見ることのできない海の中、実は今こんな悲劇が現在進行中です。

気候変動による海の3つの悲劇

悲劇1:「海の熱帯林」サンゴ礁が危ない

世界の海に生息する約50万種の動物のうち約25%が生息するサンゴ礁。海水温度の上昇に伴い、この「海の熱帯林」「海のオアシス」が、消滅の危機にあります。例えばもし熱帯雨林で木々が一斉に枯れたらオランウータンやトラが死んでしまうのと同じで、サンゴが死ぬと、たくさんの魚や綺麗なヒトデや鮮やかな貝などが、一気に住みかや産卵場所を失います。外洋の生き物も産卵場所や幼魚が育つ場所としてサンゴ礁を使う場合が多く、その消滅は海洋生態系だけでなく私たちの食や職にも致命的なダメージを与えるとされています。

生きたサンゴは鮮やかな緑や紫やピンク等の色をしていて一面が多様な生き物で溢れていいますが、抜け殻となったサンゴは真っ白で周りの海も空っぽです。

悲劇2:生態系ピラミッド崩壊のカウントダウン

海の生態系の屋台骨となっている植物プランクトンや動物プランクトン、また貝類や甲殻類、棘皮動物などは、海水が酸性化するにつれ、骨格や殻を生成することが難しくなっていくとされています。殻は、人間で言う骨が肉の内側でなく外側についているようなもので、これがないと海の中で体を形作れずふにゃふにゃな状態、生きていけません。例えばウニに殻がなければ海の中でどう生きていけるか、想像してみてください。

食物連鎖の下位に属するプランクトンが生息・繁殖できなくなれば、それらを食べる子魚たちも、その子魚を食べる大きな魚たちも、生きていくことができません。海は空っぽになり、もちろん私たち人間が食べる魚も、なくなってしまいます。

悲劇3:魚の小型化による大打撃 

それらに加え、酸素濃度の変化による魚の小型化の可能性も報告されています。魚が小さくなると、それを食料とする人間にとっては、同じ数の魚を獲っても食べられる量が少なくなります。海の中の魚の数自体が減っている状態では、漁獲する魚の数を増やすことでサイズを補うこともできません。爆発的人口増加で動物性タンパク質の需要が急増する中、魚一匹のわずかな体長の変化が、世界の漁業とそれに依存する社会に大打撃を与えます。

これら気候変動に由来するものに加え、過剰漁業、海洋汚染、富栄養化など、様々な要因が複合的に重なり合い、海の生態系は危機的状況にあります。

 

「海洋保護区」と「持続可能な漁業」が、海を脅威から守る

私たちの暮らしを支える海を守り子どもたちに引き継ぐには、日本をはじめすべての国や地域が、再生可能エネルギーを増やし温暖効果ガスの排出を抑えることが急務。ただ、仮にすべての国や地域が出来うる最高の決断をし、直ちに全速力で行動したとしても、気候変動は直ぐにはおさまらず、その間も海は壊れ続けてしまいます。

そのため、国際協力の下で海の生態系の包括的な管理保全措置を緊急に講じ、生態系の回復力を強化することが必要です。具体的には、海の要所に海洋保護区を設立し、同時に保護区外での漁業を持続可能なレベルに抑える取り組みです。

震災以来漁業が自粛されている福島の海では、今は震災前の3倍もの量の魚が網にかかっています。当たり前のことですが、魚は獲りすぎなければ海で繁殖し成長し、増えます。

特に二ホンウナギやクロマグロなど、絶滅危惧種や生息数が激減している種は、しばらくは漁業や消費を自粛して生態系や生息数の回復を最優先とする措置が必要です。早く手を打たなければ、絶滅危惧種リストはこれから次々と増え、食卓にのぼる魚は次々と減ってしまいます。

 

海を守る3つのプレイヤー

プレイヤー1:国際機関や政府

国際機関や政府の遅すぎる動きは、海の生態系が破壊されるペースにまったく追いつけていません。世界の漁業は持続可能なレベルの2.5倍もの規模で行われているとされており、日本近海でも、資源水準が「低位」に評価される魚種が全体の43%もを占めており、個体数の回復が急務です。

IPCC総会が開催されたのと同じ週、水産庁は「資源管理のあり方検討会」を始めました。しかし依然として乱獲の黙認を続ける方向で、生態系や生息数を回復させるにはほど遠く、気候変動から海を守るどころか、追い打ちをかけています。資源管理を行う立場にある水産庁のあり方検討会から始めなくてはいけない、先の遠い状態です。

主要漁獲国であり消費国である日本こそ、いつまでも「漁業者の経営も考えて…」「海外と日本とは事情が違うから…」なんてナンセンスなことを言っていないで、それこそ漁業や和食を次世代に残すためにも、持続性最優先の資源管理を率先して行い、その上で国際協力を仰ぐべき立場にあります。

プレイヤー2:スーパーマーケット

政府が動かない中、カギとなるのは、日本の食卓にのぼる魚の約70%を販売するスーパーマーケットです。スーパーマーケットは、消費者の需要に適った商品やサービスを供給することで収益を得るため、「お客様の声」にとても敏感です。それに競合スーパーだけでなくコンビニなど他チャネルとも消費者の争奪戦をしているので、ブランドイメージもとても大切にします。今は世界中から魚を漁り薄利多売を繰り返していますが、この魚介類調達を持続可能なものにすれば、サプライチェーンに影響を与え、海の生態系の回復に大きく貢献します。市場の方向性が固まれば、行政も後追いするようになり、国際機関にも積極的に働きかけるようになります。

では、具体的にどのように消費者の力を使えば、変えられるのか。

プレイヤー3:魚を食べ続けたい、残したい、消費者

まずは、1人ひとりが持続可能性や環境負荷を考慮した魚の選択購入をすることです。絶滅危惧種や乱獲された魚が売れなくなれば、スーパーマーケットはそれらを調達し続ける理由がありません。どの魚を避けてどの魚を買えばいいのか困ったら、持続可能性や環境負荷を考慮したお魚選びができる日本初の便利な無料アプリをダウンロードして使ってください。

そして、たくさんの「お客様の声」をスーパーマーケットに届けましょう。多くの店舗には用紙や投函箱が設置されていますので、そこに「絶滅危惧種や乱獲された魚は売らないでください」「十分な資源管理がされた魚を積極的に売ってください」と記して、投函してください。グリーンピースは大手スーパーや業界団体に「持続可能で安全な魚を売ってほしい」という「消費者の声」を届けるプロジェクトを展開中。ご参加・拡散をしてください。

 

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 Blog posted by: 花岡和佳男