こんにちは。海洋生態系担当の花岡和佳男です。
「和食」を代表する魚で、日本で最も多く食べられているウナギ、二ホンウナギが、いよいよ国際自然保護連合(IUCN)が近日中に発表するレッドリスト改訂版に掲載され、国際的に絶滅危惧種として指定される見通しです。
二ホンウナギは、環境省が2013 年2月に「近い将来に野生での絶滅の危険性が高い」として絶滅危惧種に指定している種で、天然ウナギの漁獲量データを基にした3世代(12から45年)の減少率は72から92%と想定されており、資源の減少が非常に深刻な状態であることが指摘されてきました。
今回二ホンウナギを国際的に絶滅危惧種に指定する見込みのIUCN自体には、貿易や消費を規制する拘束力はありません。と言うと、「まだ食べられる」とホッとされる方もいらっしゃるかもしれません。しかし食べられなくなるかもしれない本当の理由は「規制されるか」「拘束力があるか」ではなく、絶滅危惧種二ホンウナギが「消費するだけの量が残っていない」ということ。
このまま絶滅危惧種の大量生産・大量消費を続けていけば、私たちは「土用の丑の日」や、ユネスコ無形文化遺産に認定された「和食」の代表格であるウナギ料理を、次の世代に残せそうにありません。
そもそも、なぜ二ホンウナギは絶滅危惧種になってしまったのでしょうか。
薄利多売ビジネスが後押しした二ホンウナギ絶滅危惧種への道
現在のウナギ食の主流は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで売られているパック詰めにされた加工商品。薄利多売型のビジネスモデルにより、老舗の専門店は相次いで閉店に追い込まれ、ウナギはハレの日のご馳走から安価で手軽に消費できる食材へと姿を変えました。その結果、現在、世界のウナギ生産量の約70%を消費する日本で食されるウナギの 99%以上が絶滅危惧種、という事態に陥っています。
ではそのスーパーマーケットは、今回二ホンウナギがIUCNで絶滅危惧種に指定されそうなことについて、どのように考えているのでしょうか。
大手スーパーマーケット、IUCNレッドリストに掲載されても絶滅危惧種二ホンウナギの販売を継続
国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、2014年6月2日から9日にかけて、国内大手スーパーマーケット15社を対象に、ウナギの調達方針におけるアンケート調査を実施しました。
回答を得た12社の全てが、絶滅危惧種であるにも関わらず二ホンウナギを主力商品に据えており、IUCNのレッドリストに記載されても同種の販売を即中止しない意向を示しました。
その理由や背景に、「日本の文化を守るため」と回答するスーパーマーケットが複数ありました。しかし、絶滅危惧種の薄利多売と日本食文化の継承は、相反するものがあります。
各社とも持続可能性を優先した調達方針がない実態が明らかとなり、自然界のウナギ資源や食文化の持続性よりも、短期的利益を優先する姿勢が、改めて浮き彫りとなりました。
詳しくは、アンケート調査の結果レポート:「薄利多売で進むウナギ絶滅への道」
ウナギ食文化を次世代に残すには
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様々なしがらみの中で機能不全の状態が続く行政が、資源回復と持続性の確保を最優先した資源管理/漁業規制に舵を切るためにも、食卓に上がる魚介類の70%を販売するスーパーマーケットは、まずは第一ステップとして、絶滅危惧種の取り扱いを一時見合わせ、資源回復を優先させる取り組みを積極的に始めることが求められます。
また消費者も、資源量や資源管理の有無を考慮した選択消費を行う必要があります。「ウナギは日本の食文化」であることを盾にして持続可能なレベルを超えた消費を続ければ、食文化を自らの手で滅ぼしてしまうことになりかねません。
さらに消費者は、ウナギを取り扱う小売りや飲食店に対して「ウナギを子どもたちにも残せるように、絶滅危惧種の販売はやめてください」「持続性が確保されたウナギを販売していください」という「消費者の声」を届け、小売りや飲食店の成長を応援していくことが大切です。
TAKE ACTION !
- ウナギを始めとする「和食」を食べ続けながら子どもたちに残していくため、正しい情報を基にして、私達一人一人に何ができるかを考えましょう。レポート「薄利多売で進むウナギ絶滅への道」。
- ウナギをどうしても食べるなら、絶滅危惧種の薄利多売を続けるスーパーやコンビニやファーストフード等を避け、はれの日に専門店でいただきましょう。どのようにして豊かな生態系や「和食」を子どもたちに残していけるかを、家族や仲間、そしてお店の人とも会話してみましょう。
- 魚を海に貯めて増やして、食べながら子どもに引き継ぐプロジェクト、「おさかな貯金」に、参加しましょう。「消費者の声」で、食卓にのぼる魚の約7割を売るスーパーマーケットを変えることが、魚の資源管理をする行政を動かすことに繋がります。
- 自然界や「和食」から姿を消しているのはウナギだけではありません。お買い物の際に「おさかなアプリ」を使いましょう。日々の食卓を持続可能な魚介類で彩れるように、お買い物の際に環境負荷を考慮したお魚選びをしましょう。
今回は絶滅危惧種二ホンウナギにフォーカスしましたが、次回のブログは二ホンウナギの激減を受けて「救世主」として商社や小売りの注目が集まる「代替ウナギ」をスーパー各社がどのように見ているのか、に焦点を当てます。
二ホンウナギがIUCNのレッドリストに記載された場合の同種の取り扱いについて、大手スーパーマーケット各社の考え一覧
スーパーマーケット
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二ホンウナギがIUCNのレッドリストに記載された場合の同種の取り扱いについて、大手スーパーマーケット各社の考え(グリーンピースが各社の回答を要約。回答全文はレポート「薄利多売で進むウナギ絶滅への道」を参照)
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グリーンピースのコメント
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イオン
(本社千葉県)
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日本の食文化を後世に残すため、我々が取り組む課題は多い。ウナギに代わる新メニューの提案、トレーサビリティの消費者への提示、ウナギ生息環境保全活動、消費者への啓発活動などに取り組みつつ、資源・環境保護に配慮しながら、二ホンウナギの販売を続ける。
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二ホンウナギは絶滅危惧種であり、大量生産・大量消費を続けるべき種ではない。資源回復の明確な兆しが見られるまでの調達を一時見合わせ、他社を先導することが、最大手に求められる取り組みである。
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イトーヨーカドー
(本社東京都)
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資源回復を考慮した、より持続性のある調達方法が必要。資源回復を考慮し、通年での取扱数量を限定。資源回復の観点から動向を注視していく。
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「資源回復の観点から動向を注視」すれば、今は取り扱いを一時見合わせ、資源回復を優先する必要があることは明白。絶滅危惧種の薄利多売は、資源回復と相反する。
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ユニー
(本社愛知県)
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スーパーマーケットが絶滅危惧種を販売することは、伝統食文化の継承と相反することで困惑。伝統食文化を守りながら持続可能な資源活用を目指すため、消費者・関係省庁と連携して協議していく必要がある。
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絶滅危惧種の販売を積極的に中止して、むしろそれをブランディングに活かすべき。資源管理優先の漁業規制に踏み込めない行政の動きを待つばかりでは、すぐに二ホンウナギは自然界からも食卓からも姿を消す。
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ダイエー
(本社東京都)
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消費者の購買動向に大きな影響力を持つ小売りの立場として、資源確保に生産者や製造者と共に取り組む。代替商品開発、商品の小規格化などを進め、今後の取り扱いについて慎重に検討していく。
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スーパーが「消費者の購買動向に大きな影響力を持つ」からこそ、スーパーが率先して資源回復を優先させることが、資源回復に大きな効果をもたらす。
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西友
(本社東京都)
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ワシントン条約の対象種の取り扱いは今後も行わない。IUCN・環境省のレッドリストの改定に向け政府や漁業管理機関が発表する情報を注視し、これらの情報に基づき検討を続け調達を行っていく。
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現時点で取り扱いを一時見合わせ、資源回復を優先させれば、ワシントン条約による貿易規制を受けずにすむ可能性が高まる。
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ライフ
(本社大阪府)
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IUCNがレッドリストに記載しても、必要範囲内での取り扱いを継続予定。ワシントン条約で貿易規制対象種に指定されたら、規制内容に基づき対応。昨年から今年にかけての水揚げが多い。ウナギの生態を含めて不明点が多く、正確な資源状態の把握が必要。
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「昨年から今年にかけての水揚げが多かった」のは、歴史的低水準にある近年の漁獲量との比較であり、深刻な状態にあることに変わりはない。正確な情報を基に調達を行う体制を整える必要がある。
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イズミ
(本社広島県)
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一部のスーパーマーケットで販売を抑制しても、消費者の需要や漁獲量が変わらない限り、問題解決は難しい。行政主導を求める。取扱量は今後減少するだろうが、今後も販売できるよう、実効性のある規制を検討する時期に来たと思う。
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行政が資源管理を主導してこなかったことにより現状があるため、スーパーが率先して独自の取り組みを行うことは急務。それに加え、行政主導を求める旨をスーパー各社や業界団体が行政に更に強く要請することで、行政を動かすことができる。
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アークス
(本社北海道)
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これまでスーパーは消費者の嗜好する商品の品揃えに重点を置き、水産資源の持続性の観点を十分に考慮した対応は行ってこなかった。今後、取り扱いの縮小・停止を検討する必要がある。
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取り扱いの停止を示唆した唯一の回答。「水産資源の持続性の観点を十分に考慮」して、他社を先導してほしい。
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ヨークベニマル
(本社福島県)
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状況を見極めて対応する。行政の指針および7&I HDグループの調達方針に沿った方向で持続性のある魚介類への構成を高める。
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見極めるべき状況は、環境省が絶滅危惧種に指定し、国際機関が絶滅危惧種に指定しようとする今のこの現状である。他社の動きを見合っている時間はない。
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平和堂
(本社滋賀県)
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ヨーロッパウナギの先例を鑑み、持続性を担保する対策を共有する必要がある。ワシントン条約の改定時の際には必要な対策を検討する。
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「ヨーロッパウナギの先例を鑑み」れば、絶滅危惧種の取り扱いを一時見合わせる決断が必要なことは明らか。同じ過ちを繰り返すべきでない。
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マルエツ
(本社東京都)
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ウナギ蒲焼は我が国の伝統的な食文化の一つであり、お客様のニーズの大きい食材として認識。IUCNがレッドリストに記載しても、資源・環境保護に配慮しながら販売していく。
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安価で手軽に消費できるウナギ加工品のニーズは、スーパーにより作られた面が大きい。「伝統的な食文化」を大切にし「資源・環境保護に配慮」するならば、絶滅危惧種の取り扱いを一時的に見合わせて資源回復を優先させる決断が必要。
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フジ
(本社愛媛県)
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回答なし
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取扱商品の原材料や環境の持続性の確保について企業としてのコメントをできない状態にある。第三者機関や消費者の質問に真摯に向き合うことは、スーパーとして最低限の責務。
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イズミヤ
(本社大阪府)
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回答なし
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取扱商品の原材料や環境の持続性の確保について企業としてのコメントをできない状態にある。第三者機関や消費者の質問に真摯に向き合うことは、スーパーとして最低限の責務。
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オークワ
(本社和歌山県)
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これまで安易に販売してきてしまったという思いはある。ただ、現在はIUCNもワシントン条約も対象種としていないので、されてから判断する。
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薄利多売ビジネスモデルにより和食の代表格が姿を消そうとしている責任や反省があることは評価。資源回復を優先させる決断が必要。
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バロー
(本社岐阜県)
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回答なし
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取扱商品の原材料や環境の持続性の確保について企業としてのコメントをできない状態にある。第三者機関や消費者の質問に真摯に向き合うことは、スーパーとして最低限の責務。
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