先日、和歌山の田辺市でマッコウクジラが湾に入り込んで出られなくなった出来事がありました。地元の人たちがなんとか出してあげられないかと心を痛めていたのですが、二週間後に自力で出ていくことができ、ヘリコプターで追いかけて外海に消えていくところまで確認して、はじめて皆が胸を撫で下ろしたという一件です。


(c) Greenpeace

私はオーストラリア滞在最終日にシドニー湾沖でホエール・ウォッチングに参加して、ザトウクジラ3頭が私たちの船の近くまできて力強く優雅に泳ぐ姿に感動しながら、田辺市の人たちのクジラに対する共感的な気持ちとそれにともなう行動は、クジラを身近に感じているオーストラリアをはじめとする外国とまったく変わらないと思いました。

そして、その田辺市の一頭のマッコウクジラを多くの日本人が心配したエピソードと、田辺市が捕鯨で有名な太地町と直線距離で約50kmしか離れていないということを、私のオーストラリア滞在中の約20近くにおよぶ取材やミーティングでお話ししたところ、多くの方がかなり興味深げに聞いていらっしゃいました。

私はあまりにもこの問題に深く関わるポジションにいるので、スタンスとして「クジラは賢い動物だから」「クジラはかわいいからかわいそうだ」という意見は活動に反映しないようにしています。私の個人的な調査捕鯨反対への主な動機は、「政府や業界の腐敗から日本を守ること」です。そして、これはグリーンピースが調査捕鯨の中止を求める姿勢にもつながっています。

グリーンピースは捕鯨問題を環境問題としてとらえています。捕鯨推進派の「欧米社会はクジラがかわいいし、賢い動物だからと言って反対している」というプロパガンダはグリーンピースに関するかぎり的外れです。


プロフェッショナルなアクティビストとして、私もこの部分だけは今回のオーストラリアでいろいろな議論に巻き込まれても、一歩も譲っていません。「クジラがかわいいから捕鯨に反対」というだけでは調査捕鯨の中止につながらないと、オーストラリアの人々には「その議論はひとまず横においた方がいい」と話してきました。すべての人が納得するわけではないのですが、私の仕事は、日豪両国のあいだにクジラに対して大きなギャップがあることを認識してもらい、捕鯨問題の本質は政府の腐敗にあることを知ってもらう点にかかっていますから、その目的は一歩も二歩も前進したと思っています。



(c) Greenpeace


オーストラリアにも調査捕鯨や捕鯨産業の内情についての詳細が伝わっていないこと、そしてやはり発想や視点が日本とは大きく異なることから、捕鯨問題の受けとめ方や意見は人それぞれです。このたびの訪問でいろいろな出会いがあり、考えさせられたので、次回はその話にふれたいと思います。(Photographer:Jonas Liebschner)

ホエール・ウォッチングで考える(その3)へつづく