イオン放射能自主検査からみるグリーンピースの企業への働きかけ

AEON

昨日、スーパーマーケット業界1位のイオンが「放射能“ゼロ”宣言」を発表した。

「ゼロ」は現実的に達成するのは難しいと思うが、ゲルマニウム半導体検出器で検出できる限界を少しでも超えたものは販売を見合わせるという姿勢は、これまでとは比べ物にならないほど画期的なものだ。

政府が定めた「食品の暫定基準値」をスーパー最大手が事実上無視することを決め、消費者のニーズに合わせるとしたわけだから政治的な影響も大きい。

イオンはさっそく自主検査の結果をウェブサイトで公開しはじめ、例えば水産物の結果で「めじまぐろ」からセシウム137が11Bq/kg検出されたため販売を見合わせている。政府の暫定基準が500Bq/kgだから、その約50分の1で販売を見合わせたことになる。

このイオンの取り組みについての詳細はこちらを読んでいただくとして、今回はグリーンピースがなぜ、そしてどのように企業に働きかけているかを紹介したい。


「サプライチェーンリアクション」

 
グリーンピースは、環境問題を解決するための企業の役割を重視している。これは日本だけではなく、世界中のグリーンピースの考えでもある。

それはなぜか?それは、より複雑化する環境問題において政府や国連が動くことよりも、企業が動くことの方がより早く、実質的な効果をもたらすという理由からだ。

たとえば、政府に「放射能汚染の食品暫定基準値を下げてほしい」と訴えるのも手だが、企業の顔色を見ながら暫定基準値を堅持しようとする政府は非常に動きが遅い。そこで、より市民に近い企業に市民の声を届けることによって、企業にまず変わってもらおうとするのだ。

もちろん、1社だけ変わっても社会を変える力にはならない、そのために業界最大手の存在が大きくなる。

横並び、または業界意識の強い日本の企業にとって、最大手が動くかどうかは非常に大きな要素で、最大手が動くことでライバル企業、業界団体が動き、さらにはサプライチェーンが動いていく。

これを私は「サプライチェーンリアクション」と呼んでいる。つまり消費者に近い企業を変えることで、生産までの仕組みを変えていこうという戦略だ。

もちろん、政府がきちんと機能していればこのような企業への働きかけは必要ないのだが、解決のスピードが重要視される環境問題では現実的に社会を動かせるこの戦略を用いるのが必要と考えている。

 

「NGOと企業の緊張感のある関係」

このような企業への働きかけができるのは、企業との緊張感のある関係を構築できるかどうかにかかっている。

グリーンピースが企業や政府から資金援助を受けないのはこれが理由だ。ひもつきになることで遠慮しなければいけなくなることを避けている。

実際の交渉で、企業に動いてもらうには、「利益」があることを示すのはもちろんだが、同時に何もしないときの「リスク」が高いと判断してもらうことも重要だ。

たとえば、イオンとの交渉の中でも、放射能自主検査をすることのメリットを強調しながらも、グリーンピースはイオン製品など大手スーパー5社の商品抜き打ちテストをして、購入店舗名まで含めて記者発表しながら交渉を行っている。

このような緊張感のある企業との関係を構築することが、各企業の本業で社会貢献をしてもらう力になる。良い取り組みを行った企業に対しては、グリーンピースもしっかりと評価しそれを広報する。

松下電器(当時)とグリーンピース・ジャパンの共催セミナー

日本では、グリーンピースが松下電器(現:パナソニック)に働きかけフロンも代替フロンも使わない冷蔵庫の開発に成功したというストーリーはCSR (Corporate Social Respoinsibility)の良い例として語り継がれている。

また最近では、ナイキ、H&M、Puma、ユニクロなどの衣料品を独自調査し、有害物質が含まれることを企業に示しながら交渉を続け、衣料品における有害物質全廃を目指したポリシーを採用してもらった。

これらの大企業が中国などで有害物質全廃に取り組むことで、まさしくサプライチェーンリアクションが起き、最終的には中国政府などの規制強化にもつながるだろうと予想される。 

今回のイオンの件については、グリーンピースの目的は、「イオンに変わってもらう」ことだけではなく、「イオンに変わってもらうことで業界全体、流通、生産における検査の強化」にある。検査の強化で安心なものが流通できれば、被災地を応援することにつながる。

これからは、イトーヨーカドー、ユニー、セイユー、ダイエー、そして業界団体がどのように動くかに注目だ。

これらの企業に放射能自主検査をしてほしいという方は、こちらから署名に参加できる。

 

このブログは、事務局長の佐藤潤一が書いています。

Twitterでも発信しています⇒  @gpjsato