大飯原発でも隠されるSPEEDIデータ

東電福島第一原発事故後の対応で、さまざまな隠ぺいが話題になり続けている放射性物質拡散予測システムSPEEDI。

今回、グリーンピースの調べで、SPEEDIを管轄している文部科学省が、現在、重要なデータを隠ぺいしている疑いがあることがわかった。

それは、再稼働で話題になっている大飯原子力発電所を含む福井県の原発における放射性物質拡散予測データだ。

滋賀県が3月上旬にSPEEDIデータを国に要請していた

以前にもブログで紹介したが、昨年、滋賀県は独自に福井県にある大飯原発と美浜原発の2か所で福島原発事故と同規模の事故が起きた際の放射性物質拡散シミュレーションを行っている。

100以上の気象条件において放射性物質拡散シミュレーションを行い、それらすべてのデータをレイヤーのように重なり合わせたうえで、どの地域がどの程度汚染される可能性があるかを示したものだ。

そのシミュレーション結果は、琵琶湖にも相当の汚染が拡散されるというものだった。これを根拠に滋賀県知事は、大飯原発の再稼働判断にあたって「地元」としての権利を得たいと政府に主張している。きわめて妥当な主張だ。

さらに、今年からSPEEDIの使用を許された滋賀県は、3月上旬に文科省に対し福井県の原発におけるSPEEDI拡散予測を要請していたのだ。しかも予測の条件は、昨年滋賀県が行ったシミュレーションと同様に、福島原発事故と同じレベル。

滋賀県の担当者は、グリーンピースの問い合わせに対して、3月上旬に要請したにも関わらず未だに文科省から回答がないと答えている。

文科省、「福井県の了承がとれていない」

3月14日、平野文部科学大臣は、国会（参議院予算委員会）でSPEEDIのシミュレーション結果は「地元の自治体の要請に基づいて出す」と答弁している。

3月上旬に滋賀県が要請したSPEEDIデータを文科省が速やかに公表していないとしたらこの答弁は虚偽となり、批判は免れない。

国会で全原発について福島原発事故規模でSPEEDI予測を実施・公開するように求めている福島みずほ参議院議員は、文科省にこの件で問い合わせた。すると文科省は「データの公表について福井県の了承がとれていない」と返答したという。

文科省がこのデータを速やかに公表しなければ、福井県の了承がないことを理由に、「再稼働」という政治的な理由で公表を遅らせていると疑われても仕方がない。

92.6%が、再稼働前に放射性物質拡散予測を希望

グリーンピースが委託実施した日本全国3000人対象のネット世論調査では、「原発で事故が起きたら居住地域にどのような放射能汚染があるか原発の再稼動前に知っておきたい」との回答が92.6％を占めた。

再稼働の判断が下される前に原発事故が起きた際のリスクについて多くの人が情報提供を求めているという結果だ。これも、福島原発事故を考えれば当然の結果だ。

本当の「地元」はどこなのか？

政府は、大飯原発再稼働への了承を得る「地元」の範囲をおおい町と福井県に絞るという方針らしい。しかし、本来の「地元」は、「原発事故によるリスクを引き受けなければいけない範囲」と考えるのが当たり前だ。

ましてや、福島第一原発事故の経験でもわかるように、住民が引き受けなければならないリスクは大きい。税金120億円以上をつぎこんだSPEEDIというシステムが、今こそ活用できるとすればリスクコミュニケーションと「地元」の範囲設定だと思う。

15分で計算できることが売りだったSPEEDIだが、滋賀県が文科省に要請してから少なくとも3週間が経過している。

参考：　グリーンピースは、昨年からSPEEDIをリスクコミュニケーションに使うべきと考え、全自治体での利用とデータの住民への公開を求めてきました。SPEEDI検証シリーズ、ぜひご覧ください。

（0）グリーンピースの要請受けて、全原発SPEEDIデータ　文科省がウェブに公開（2011年11月25日）

（1）「SPEEDI」をリスクコミュニケーションに使う（2011年11月30日）

（2）SPEEDIの過小評価と滋賀県の独自シミュレーション（2011年12月9日）

（3）初公開! 玄海原発事故SPEEDI、1時間で有明海・佐賀市・福岡市汚染の可能性 (2011年12月22日）

（4）京都府がSPEEDIデータを活用へ　大きな一歩（2012年2月3日）

（5）大阪、滋賀は今こそSPEEDIを使え (2012年3月17日）

（6）大飯原発でも隠されるSPEEDIデータ（2012年3月27日）

（7）高浜原発事故で、京都が放射能汚染地域に?! （2012年4月3日）

（8）３か月も隠ぺいされ続ける大飯原発SPEEDIデータ（2012年5月18日）

（9）初公開、大飯原発事故で、京都観光地も汚染の可能性（2012年5月25日）

（10)　大飯原発：福井県が黒く塗りつぶした放射性物質拡散予測図（2012年6月19日）