明日5月24日、「クジラ肉裁判」の第一回控訴審が13時半から仙台高裁で行われます。私も、今日から仙台に入り明日の裁判に出廷します。

この控訴審に合わせて、クジラ肉裁判の特別サイトを用意しましたので、「クジラ肉裁判ってなに?」という方は、まずこちらをどうぞ。

スペシャルページ「クジラ肉裁判 - 知る権利はゆずれない」


政府の情報隠ぺいに市民やNGOはどうやって対抗する?

福島第一原子力発電所の放射能漏れのニュースで政府が情報を隠そうとしているのを目の当たりにするたびに、「クジラ肉裁判」の意義がより重要になると感じています。

「クジラ肉裁判」というと、捕鯨問題の裁判というイメージが強いかもしれませんが、ここで争われているのは「捕鯨の是非」ではありません。この裁判で争われているのは、「市民の知る権利」や「市民が政府の不正を暴く権利」がどこまで認められるかです。なぜなら、この裁判では、税金が投入されている調査捕鯨という事業において、グリーンピースというNGOがそれを暴くために用いた手法を罰する必要があるかが問われているからです。

この裁判の結果は、今起きている福島原発に関する情報公開度を問う時にも当てはまります。政府や東京電力の情報が信頼できないと感じる人が多い中、税金の無駄遣い、人命に関わるような情報を得るために、市民やNGOはどこまで行動することができるべきなのでしょうか?


「知る権利」の行使はどこまで認められるべきか?

たとえば、福島県の学校の校庭使用の基準を文部科学省が年間被ばく量20mSv以下としていることに不安を感じた学校の親が、学校から禁止されているにも関わらず校庭内に入り、土を持ち出し、それを測定して実態がより深刻であることを公表するという行為をしたとします。

その結果、その親は土を持ち出した行為が「窃盗と建造物侵入」にあたるとして逮捕・起訴され、さらに懲役刑を受けたとすれば、あなたはどう思いますか?

クジラ肉裁判で青森地裁が下した判決によると、「公益にかなう行為であっても、他人の権利を決して侵害してはならない」という趣旨ですので、この親の行動が子供たちを助けたいという「公益」にかなうものであっても、その部分はまったく考慮されず有罪になってしまうのが現状です。


国際人権法の基準で考えると

上記の例でも、国際人権法の基準で考えてみると、結果はまったく違うのです。子供を助けようという親たちは、決して自分の利益のために行動したわけではありません。多くの子供を助けたい、政府に十分な対策をとってほしいという気持ちで動いたわけです。

このような場合、国際人権法の考え方では、「学校に親が平和的に侵入して土を持ち帰るという行為を取り締まって得られる社会の利益」と、「子供の危険性を社会に知らせることで社会が得られる利益」を比較して判断します。

その結果、親が学校に侵入することを厳しく取り締まるより、子供の危険性を社会に訴えることのほうが、民主的な社会には必要であって、処罰すべきではないという結論に達するのです。これが、日本も批准している国際人権(自由権)規約という条約の考え方です。


「知る権利はゆずれない」

私は、この裁判を通じて「NGO、市民、ジャーナリストが法を犯してよいということを求めているのではない」と繰り返してきました。私は、「公共の利益のために行動する市民、ジャーナリスト、そしてNGOを、不正や政府の情報隠ぺい体質そのものよりも厳しく罰することは、本来司法が目指すべき民主的な社会につながらない」ということを述べてきたのです。ようするに、「刑法の条文に触れたらそれを機械的に罰するのではなく、民主的な社会で本当に罰する必要があるのかを個々の事例で協議する」そういう司法制度であってほしいのです。

不正を指摘する市民、NGO、ジャーナリストが刑罰に触れたとして厳しく罰すれば、市民は政治にかかわることをやめ無関心になり、むしろ民主的な社会から遠ざかる萎縮効果をあたえてしまうのです。

クジラ肉裁判でも、青森地裁は、調査捕鯨船で不明朗なクジラ肉の取扱いがあり、それが私たちの一連の行動で改善されたことを認めながら、私と鈴木に「懲役1年、執行猶予3年」という厳しい懲役判決を下しました。

さらに、2010年12月になって水産庁は、水産庁の職員ですら調査捕鯨船からクジラ肉をもらっていたことを認め、職員5名を懲戒処分としました。

私たちが指摘したかった調査捕鯨のクジラ肉にまつわる不正は、これである程度改善されたと言えるでしょう。しかし、不正を起こした船員や水産庁職員は、まったくその責任を問われなかったか、もしくは簡単な内部処罰で済まされてしまいました。

すでに事件が発生して3年以上が経ちますが、残ったものはその不正を指摘した私たちの懲役刑という厳しい処罰に対する刑事裁判だけです。

「不正や情報隠ぺいを指摘する人を厳しく罰することと、不正や情報隠ぺいそのものを厳しく罰すること、どちらが本当の民主的な社会なのか」この問いを問い続ける裁判にするため、無罪を主張してきたいと思います。なお、一部新聞報道で報道されたグリーンピースが仙台高裁で「無罪主張を撤回していく」ということはありません。地裁での主張と変わらず無罪主張をしていきます。


(追加情報) 水産庁の隠ぺい体質

ここに、水産庁から情報開示した一つの書類があります。 

2010年12月に調査捕鯨船の運航会社である共同船舶株式会社から水産庁の職員がクジラ肉を受け取っていたとして、関与した職員5名を懲戒処分としたことの内部調査報告書です。肝心なところはすべて黒く塗りつぶされています。自ら不正があったことを認めながら、その内容や個人名などはプライバシーとしてまもられる。それが日本の現状です。

水産庁から情報開示した一つの書類