エスペランサ号はスピッツベルゲン島の北側、北緯80度の海へ向けて航海を続けています。私たちの船を漁船と期待しているのか、数羽の海鳥が船のまわりを飛んでいます。この60年で、タラやマグロなど大型魚種の90%が世界の海から姿を消し、このまま世界で過剰で破壊的な漁業を続けると、あと30年で食卓にのぼる魚はいなくなるという科学者もいます。1970年代以前から日本で魚を主なタンパク源として生活してきた方には、なんとなく想像がつくのではないでしょうか。



私自身、海辺の近くで育ち、60~70年代、食卓にはほとんど毎食、海産物がのぼっていました。地元の漁師さんたちが水揚げしてきた魚はその日は刺身で、次の日になれば煮物か焼いて、たくさんあって食べきれないときは干し物や節にして保存し、どれもおいしくいただいたものです。豊富な魚介類がかわるがわる食卓にのぼり、舌にひろがる新鮮な刺身の甘さ、香ばしい焼き魚の匂い……魚料理を堪能した記憶があります。ところがいつの間にか魚は肉より値段が高くなり、「魚がない」「高くて買えない」という親のつぶやきをよく耳にするようになりました。それから30年が経ったいま、魚の種類が少なくて値段が高くなっただけでなく、それぞれの種でサイズは小さくなり、スーパーには昔はなかった輸入魚介類が数多く出回るようになりました。これほど大きな変化のあった30年です。「あと30年で魚は食卓から消える」という話もうなずけます。

あと数十年後、魚を獲り尽くした空っぽの海を前にして、「昔はここにお魚という生き物がいてね……」と子どもたちに語る日が近づいています。その日が来ることを避けられるか、つまり持続可能な漁業を支援して海洋資源の管理を実現できるかどうかは、いまの私たちに委ねられています。そのひとつの大切な節目となるのが、今年10月に日本で開かれる第10回生物多様性条約締約国会議(CBDCOP10)です。この会議の議長国である日本政府がリーダーシップを発揮して、海洋生物にとって重要な区域を保護する海洋保護区を設立するよう求めましょう。



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