6月17日に第4回公判前整理手続きがありました。前回の公判前整理手続きを受けたブログ報告でも書きましたが、今回の協議内容のメインは検察側の証拠開示です。

 

本題に入る前に、ちょっとその仕組みを紹介します。

 

日本の刑事裁判では、検察側が容疑者(起訴された後は被告人)を起訴するまでにどのような証拠(物品、供述調書、電話記録などなど)を集めて起訴したのか、弁護側はその全貌を知ることができません。ようするに検察側は、被告人を公判で有罪にするのに十分だという証拠だけを裁判所と弁護団に提出すれば良いのです。よって、被告人の罪が軽くなるような要素の証拠が捜査段階でもしあったとしても、検察側の意思で隠しておくことができてしまうのです。また、どんな証拠を持っているかのリストすら提示する必要がありません。

 

私はこの制度をはじめて知って、かなりびっくりしました。

 

このため、弁護側は公判前整理手続きの過程で、たとえば「Xについての証拠は検察側がもっているはずだ」と推測して、その開示を検察側に求めるしかありません。しかし、検察側は「Xについての証拠は関係ない」としたり、また開示する部分としない部分を選ぶことが許されてしまうのです。

 

公判前整理手続きが通常よりも長くかかっている理由は、まさしくこの部分にあります。私たちの弁護団は、クジラ肉について船員らの供述調書の開示が必要だと求めてきましたが、検察側は少しずつしか開示しないのです。

 

それでは弁護側が、検察側には証拠開示を求めても開示されない証拠があるはずだと推測した場合はどうすれば良いのでしょうか?

 

その場合、弁護側は裁判所に「裁定」を求めます。つまり、検察側と弁護側でのやりとりで証拠開示の決着がつかないため、裁判官に開示すべきかどうかを決めてもらうのです。しかし、これが始まると裁判は長期化してしまいます。そこで裁判官は審理促進のためにできるだけ検察側に任意で証拠開示をするように促します。

 

前回の第3回公判前整理手続ではこれが行われ、裁判官が検察側に、私たちが確保した箱に入っていたクジラ肉の所有者や、それにかかわるその他の船員などの調書を証拠として開示するように促しました。

 

裁判官からのこのような意向を受けて、検察側が開示した証拠はかなりの量でした。しかし、よくよく見てみると多くの重要な部分が白く消されているのです! 開示証拠の内容は決まりがあって、ここでは詳しく述べることはできませんが……矛盾だらけの調書でした。

 

6月17日 プレスリリース



「お土産鯨肉」の代金についての説明がまた変わった

――第4回公判前整理手続での証拠開示で




 

さて、この開示された証拠について今回の公判前整理手続の中で議論したやり取りで、とても気になった言葉があります。弁護側の「どうして白抜きになっているのか」との質問に、検察側はこれらの開示は「サービスだ」というのです。つまり任意で開示するサービスだから開示する部分は自らが選ぶというのです。

 

被告人の人生が左右される裁判で、検察官が証拠開示を「サービスですから」と言ってしまう。被告人の立場で公判前整理手続に同席していて、検察官が人を起訴することの重大さを忘れているのではないかとしみじみ感じた瞬間です。

 

裁判員制度でも同じ制度が採用されます。検察側が手持ちの証拠をすべて開示するという大前提がなければ、裁判員たちは結果として検察側が選んだ事実の断片だけをみて、人の人生を左右する重大な結論を迫られることにもなりかねません。

 

次回の公判前整理手続は8月4日です。次回までに検察官が証拠開示を進めてくれないということであれば、弁護側は裁判官の「裁定」を求める方向になるでしょう。そうなると、公判はさらに延期されてしまいます。

 

すでに、昨年の6月20日に逮捕されてから1年です。