2020年最新放射線調査
東京電力福島第一原発事故により拡散した放射性物質の汚染状況調査報告 第30回目調査
グリーンピースでは、東京電力福島第一原発事故発生直後の2011年3月26日から27日の第1回から継続的に30回、おもに福島において放射性物質および放射線調査を行っています。
今回の第30回目調査は、2019年10月16日から11月5日に、2015年から調査を続けている飯舘村の民家、2017年から調査を始めた浪江町の帰還困難区域の民家や避難指示が解除された区域、2019年に初めて調査した大熊町の民家、放射能の移動を見るために阿武隈川川岸、そしてオリンピックで使用されるため、外部から問い合わせが増えていた福島市や楢葉町で実施しました。
詳しくは調査報告書『終わらない汚染福島県 浪江町、飯舘村、大熊町、福島市、阿武隈川河川区域および楢葉町における東電原発事故放射線調査』 2020年3月をご覧ください。
主な調査地点(その他)
調査結果から言えること
今回の調査は、台風直後に実施され、大雨後に放射線レベルが劇的に減少している一方で、雨水の流れ着く先でホットスポットが形成されていることがわかりました。放射能は消えたわけではなく、移動していました。
原発事故は、除染をすれば終わるものではありません「除染完了」という実績作りのためではなく、暮らしを守るための政策が必要です。
詳しくは調査報告書『終わらない汚染福島県 浪江町、飯舘村、大熊町、福島市、阿武隈川河川区域および楢葉町における東電原発事故放射線調査』 2020年3月をご覧ください。
プレスリリース:大雨などが引き起こす放射能再汚染のリスク ーー政府は除染とモニタリングの継続を
ブログ:動きまわる放射能–グリーンピース放射線調査報告
署名:「国連の専門家による調査を実現させてください」
調査方法
グリーンピースの放射線調査チームは、以下の調査方法を採った。
1. 歩行サーベイ:
一定パターンで歩行しながら測定
- 地表から高さ1メートルの空間放射線量率を、高効率のエネルギー補償型ヨウ化ナトリウム(NaI)シンチレータであるRT30(Georadis 社製/セシウム137計数 2,000 cps /μSv.h-1)で1秒ごとに測定。
- 一定パターンで、できる限り格子状に歩行して計測(放射線が局所的に高いホットスポットは探索しない)。
- 民家の敷地・周辺をゾーン分けし(畑、道、家屋周辺の森など)、それぞれのゾーンで測定。一つの民家あたり5〜10 程度のゾーンを設定し、1ゾーンあたり最少で100、中央値で200〜300カ所を測定した。測定地点の総数は一つの民家あたり3,000〜5,000カ所。
- ゾーンごとに測定値(平均、最小、最大)を集計。
2. ホットスポット:
空間放射線量が高いホットスポットと要注意地点を特定し測定。
- 地表から高さ10、50、100センチメートルにおける空間放射線量率をNaI シンチレータ(RadEyePRD-ER)で測定。GPS 位置座標は手持ち型のGarmin Montana 650 で取得。
- 測定値はゾーンごとに集計。
3. 車両走行サーベイ:
より広い範囲を測定するために、車両の地表 1メートルの高さに、RT30(Georadis 社製)と位置座標収集用GNSS受信機(GNSS Trimble R1)を積載し、交通事情が許す限り時速20キロメートル(最高でも時速40キロメートル)で走行した。放射線量を毎秒測定し、毎秒記録される位置座標と同期した。
調査地域
浪江町帰還困難区域
- 浪江町 下津島・赤宇木・114号線
- 大熊町 野上山神
避難指示が解除された地域
- 浪江町 高瀬川・小学校周辺
- 飯舘村 南部
- 阿武隈川川岸
- 福島県福島市
- 宮城県亘理町
- あづま球場
- 福島市街
- J ヴィレッジ周辺
- 大熊町役場
- 大野駅
調査結果
帰還困難区域
浪江町 下津島 菅野氏宅
東電福島第一原発から北西約30キロメートル
政府のモデル除染が実施された家。2017年、2018年、2019年と調査している。
2017年と2018年には放射線レベルの最大値と平均値に大きな差はなかったが、2019年10月の測定では放射線レベルが前年と比べ多くのゾーンで大幅に減少した。大雨の影響が考えられる。一方で敷地外に雨水の流れる水路ができており、放射性物質が水とともに移動したと思われる。敷地外の窪みに再汚染が起こっていた(図参照)。地表面から1メートル、50センチメートル、10センチメートルの高さでそれぞれ毎時3、4.8、14マイクロシーベルトのホットスポットが形成されていた。
国道114号線沿い
東電福島第一原発から北西約25キロメートル
森から雨水が流れており、その流れの先にホットスポットがあった。雨水の移動経路はそのまま放射能の移動経路と推測された。
ホットスポットの最大値は、地表から1メートル、50センチメートル、10センチメートルでそれぞれ毎時7、11、31マイクロシーベルトだった。
避難指示解除区域:
浪江町 高瀬川
浪江町 樋渡/東電福島第一原発から北北西約7.5キロメートル
小学校周辺
小学校 浪江町 苅宿/東電福島第一原発から北西約11.5キロメートル
三方を森に囲まれた小学校。向かいの森と森沿いを通る道路を調査。
道路沿いに泥つきの葉や小枝が吹き溜まっている場所が多数あり、そうしたところがホットスポットとなっていた。大雨により、森から放射能を含んだ泥が付着した葉や枝が運ばれたとみられた。道路沿いのホットスポットの最大値は、地表から1メートル、50センチメートル、10センチメートルでそれぞれ毎時1.3、1.8、2.9マイクロシーベルトだった。
飯舘村 安齋氏宅
(元居住制限区域)
東電福島第一原発から北西35キロメートル
阿武隈川 川岸
宮城県亘理町/東電福島第一原発から北約75キロメートル
福島県福島市/東電福島第一原発から北西約60キロメートル
あづま球場、福島市街、Jヴィレッジ、大熊町役場・大野駅
東京オリンピック・パラリンピック開催を踏まえ、聖火リレー出発地点のJ ヴィレッジ(楢葉町、広野町)周辺での調査も実施した。原因は不明だが、格段に高いホットスポットがJ ヴィレッジ隣接の駐車場で見つかり、グリーンピースからの通報を受けて、東京電力は局所的な除染を実施した。
あづま球場
福島市/東電福島第一原発から北西約70キロメートル
周辺と比べて放射線レベルが数倍高い「ホットスポット」は探索しても見つからなかった。参考値として測定した値のうち最大の値は、地表から1メートル、50センチメートル、10センチメートルでそれぞれ毎時0.11、0.19、0.48マイクロシーベルトだった。
福島市街
東電福島第一原発より北西約60キロメートル
J ヴィレッジ周辺
双葉郡楢葉町/東電福島第一原発より南約20キロメートル
J ヴィレッジに隣接した駐車場に、地表面で毎時71マイクロシーベルトのホットスポットがあった(地表1メートル、50センチメートル、10センチメートルではそれぞれ毎時1.7、6、32マイクロシーベルト)。計測後にデータをまとめ、環境省など関係者に通報、広範囲の除染と長期的な対応を求めた。その後、東京電力が該当箇所は除染したものの、グリーンピースが求めたような広範囲にわたるも
のではなかった。なお、なぜこれほど高いレベルの放射線が存在していたのかは不明である。
参考:グリーンピース・ジャパン プレスリリース:大雨などが引き起こす放射能再汚染のリスク ーー政府は除染とモニタリングの継続を「福島県のJヴィレッジ周辺で放射能ホットスポットを確認 ー 政府に速やかな除染を要請」
(2019年12月4日)
「Jヴィレッジで再度ホットスポット確認 ー 恒久的な除染とモニタリングを」
(2019年12月17日)
調査継続のためのご支援ありがとうございます
グリーンピースは、東電福島第一原子力発電所事故が起きた直後の2011年3月末から放射線調査チームを結成し、福島で放射能汚染の実態調査を行ってきました。
調査には、グリーンピース・ジャパンのスタッフに加え、ヨーロッパやアジアから専門家やキャンペーンのスタッフ、さらにプロのフォトグラファー・ビデオグラファーも参加して、記録や映像を世界中に発信しています。
こうした調査や活動は、全て市民のみなさまのご寄付のおかげです。
一人ひとりのご寄付が、政府や企業からの援助を受けずに、独立した調査とキャンペーン活動を可能にしています。
ぜひ、グリーンピースをご寄付で支えてください。