第3回目調査


 

調査の背景

福島第一原発からは、大量の放射性物質が、大気だけでなく海洋にも流出。
放射性物質のうち海水に溶け込んだものは海流で広く拡散し、微粒子の形で海中にとどまる物質は海底に沈み、長期間汚染が続く可能性があります。

中でもセシウム137は約30年にわたって海中にとどまるとして、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)も「沈殿が疑われる日本の海岸地域では、長期にわたる調査が必要だ」と指摘しています。実際に福島沖*で、魚から国の暫定基準値を上回る放射性セシウムが検出されています。
 

日本政府への海洋調査許可申請について

 

2011年4月28日、「虹の戦士号」を使用した福島第一原子力発電所周辺における海洋調査について、日本政府から許可が下りましたが、許可内容が調査海域を領海外(沖合約22キロより外)に限定するなど不十分であることから、「虹の戦士号」を東京湾沖に停泊させ許可の再考を求めていました。

2011年5月1日「海洋調査の申請に関連する日本政府の対応について」記者会見配布資料

*2011年7月11日 訂正: 三陸沖→福島沖
 

調査の目的

 

 

調査の日程


 

調査場所・範囲

 

沖合(虹の戦士号): 日本政府から許可が下りた領海外(沖合約22キロより外)において、福島第一原子力発電所周辺海域を中心に、宮城県石巻港から千葉県銚子港までの沿岸から沖60kmまでの範囲。
警戒区域を除く。
沿岸: 宮城県気仙沼市本吉町日門港から、千葉県銚子市銚子港の海岸沿い。
福島第一原子力発電所周辺の警戒区域を除く。
 

調査対象と内容

魚、海藻、貝類をのサンプリングを行い、放射性物質の測定とのちに核種分析。
 

作業方法と使用した放射線測定機材

 

 

調査結果

 

2011年5月12日発表(沿岸からの海洋調査)

複数の海藻から高濃度の放射性物質を検知し、日本政府に対し福島第一原発周辺での海 藻類の緊急調査ならびに、それに伴う漁業関係者への損害補償を早急に行うよう要請しました(注1)。

福島第一原発から50キロ離れた沖合で採取した海藻アカモク(ホンダワラ科)などから1キログラムあたり最高で13,000 ベクレル以上の放射性物質を検知(注2)

また、沿岸海域においても独自サンプリング調査を行った結果(注3)、福島第一原子力発電所の南約30㎞から65kmの場所に位置する久ノ浜(ひさのはま)、四倉(よつくら)、江名(えな)、勿来(なこそ)などの漁港で譲り受けたアカモ ク、コンブ、フクロノリなどの海藻サンプルからも、1キログラムあたり最高で23,000ベクレル以上の放射性物質が検出されています。

グリーンピース・ジャパンの海洋生態系問題担当の花岡和佳男は、「近接県には、国内ワカメ生産量の約7割を占める一大産地があり、また、海藻類の収穫が来週にも始まろうとしている地域があります。
しかし、政府や都道府県による海藻類の調査はほとんど行われていません。
早急な調査と対策が必要
です」と語りました。

さらに「漁業関係者は、放射能被害における損害補償の話の進展もなく、漁業再開の見当もつかないままの不安な日々を過ごしています。
収入源である漁業を奪われ、漁協から借金をして食いつないでいる人もいます。
政府や東京電力は、未調査海藻類収穫の一時中止と早急な調査、さらには漁業関係者が被る被害の全額補償をセットで実行すべきです。」と訴えました。

注1)2011年5月12日付で提出した日本政府への要請書 >>
注2)沖合での海洋調査(調査船「虹の戦士号」での調査)による海藻類の結果 >>
注3)沿岸からの海洋調査による海藻類の結果 >>

参考資料

福島第一原子力発電所を中心に実施した海洋の放射能汚染調査において、エゾイソアイナメなどの魚やカキなどの貝からも、暫定規制値を超える放射性物質を検出。

日本政府に対して水産物に対する調査の拡大、水産関係者の被害に対する全額補償、放射能汚染水の海洋環境への放出禁止などの5項目を要請(注1)しました。

調査船「虹の戦士号」で行った海洋調査(5月3日から5月5日まで)と、沿岸からの海洋調査(5月2日から5月9日)の結果(注2)、エゾイソアイナメ(福島県小名浜港で採取)から1kgあたり857Bqのセシウム(Cs-134 + Cs-137)、カキ(福島県四倉港で採取)から同740 Bqのセシウム、マナマコ(福島県久ノ浜港で採取)から同1,285 Bqのセシウム、アカモク(福島県江名港で採取)から同127,000 Bqのヨウ素(I-131)および同1,640 Bqのセシウムなど、複数のサンプルから暫定規制値を超える放射性物質を検出しました。
これらの水産物関は、日本政府の調査には含まれていない、もしくは十分に調査が行われていないものです。

海洋生態系問題担当の花岡和佳男は、「私たちが5月12日に要請した後(注3)、ようやく厚生労働省が福島県内での海藻類、貝類などの調査結果を5月19日に発表しましたが、海洋汚染の状況を把握するためにはまだ十分ではありません。

この状態を放置していることは、漁業復興や食品安全の面でも大きな問題で、政府の海洋汚染に対する危機感が伝わってきません」と話しました。

さらに、「私たちが現場で出会った多くの漁業関係者が、グリーンピースの海洋調査のためにサンプルを提供してくれました。彼らは自身の漁場から高い数値が出てしまうことを不安視しながらも、風評被害を止め漁業再開の目途を立たせるため調査の強化を望んでおり、県や政府が調査に後ろ向きなことに怒りを感じています。政府や東京電力は、漁業関係者や消費者の安全性を確保するためにも、日本有数の漁場であるこの海域の漁業を守るためにも、一刻も早くこの要請の実現に取り組んでほしい」と訴えました。

注1)2011年5月26日に日本政府に提出した要請書 >>
注2)海洋調査による海産物の放射性物質データ >>
注3)2011年5月12日付で提出した日本政府への要請書 >>

アクロ研究所[フランス原子力安全機関(ASN)認定機関]からの調査報告書 >>

ベルギー原子力研究センター(ベルギー政府による運営)からの調査報告書 >>

地方自治体との関係

グリーンピースは3月26日より、2度にわたり福島県に放射線調査チームを派遣し、福島県南相馬市の理解を得て、周辺の放射能汚染の実態をモニタリング調査いたしました。
このたびの海洋調査も、南相馬市の理解を得て実施しました。

詳しくは、海洋生態系問題担当の花岡和佳男のブログをご覧ください >>


調査チームメンバー紹介


ヤン・ヴァンダ・プッタ (ベルギー出身)
オランダ、デルフト工科大学を卒業し、ロシア、ウクライナ、スペイン、ベルギー、フランスで放射能汚染の環境調査に参加した豊富な経験を持つ放射線の専門家


イケ・トゥーリング(オランダ出身)
グリーンピース・オランダ 放射線安全アドバイザー
オランダ、デルフト工科大学で化学を専攻し、自然エネルギーの修士号を取得。
フランスのラ・アーグ再処理工場などで放射能汚染の環境調査に参加した経験を持つ放射線のエキスパート。


ヤコブ・ナミンガ (オランダ出身)
オランダ、デルフト工科大学を卒業し、ウクライナ、スペイン、フランスで放射能汚染の環境調査に参加した経験を持つ放射線の専門家


花岡和佳男
グリーンピース・ジャパン 海洋生態系問題担当
米国、フロリダ州工科大学在中に海洋環境および海洋生物学を専攻し、マナティーやウミガメの保護活動に取り組む。
卒業後、モルディ ブでの海底調査や、マレーシアングロ林を伐採しないエビの養殖施設立ち上げメンバーどを経て、2007 年よりグリーンピス・ジャパ海洋生態系問題担当のタッフとなる。


宮地大祐(広島県出身)
グリーンピースが世界の有志を募って核実験場に船を出して反対活動を行っていることを知り、その行動力と使命感に共感。
2007年よりグリーンピースジャパンにて活動を開始。


野田沙京
グリーンピース・ジャパン 海洋調査コーディネーター
2001年よりグリーンピースに参加。
核問題では、試験運転開始前の青森県六ヶ所村再処理工場周辺で放射線サンプリング調査に参加するほか、東京、広島、青森で”核のない世界へ向けて数々のアクティビティをコーディネートしている。


他虹の戦士号乗組員など


 

大切なご支援ありがとうございます

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