気候変動は、現代の最も重要な課題です。近年、連続して起きている未曾有の熱波や山火事、豪雨や洪水、海の生物の死滅、極地の氷の融解、生態系の崩壊などは、私たちがすでにどれほど危険な領域に突入しているかを痛感させます。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の調査によると、温室効果ガス(GHG)の排出量を早急かつ大規模に削減しなければ、温暖化を1.5℃未満、あるいは2℃に抑えることはできないとされています。

この予想は、GHGの排出量が多い産業が大きな責任を負うことを意味しますが、自動車産業は、その中でも最も重要な産業の一つです。世界規模で見ると、燃料の燃焼による直接的なCO2排出量の24%を輸送機関が占めており、その中でも乗用車は45%と、最も大きな割合を占めています。運輸部門の脱炭素化に向けた取り組みが行われなければ、2050年のGHG年間排出量は、2020年に比べて90%増加することになります。

本報告書では、市場の80%を占める大手自動車メーカー10社の目標と行動を検証し、脱炭素化に向けた効果的なステップを踏んでいるかどうかを評価しています。調査では、脱炭素化の取り組みを開始した事例はいくつか見られましたが、ほとんど十分とはいえず、今後さらに加速していく必要があります。

主な調査結果:自動車メーカーが取り組むべき3つの中心課題

1. 内燃機関を早期に廃止する

現在、路上を走る車両の99%が化石燃料を使用していますが、2050年までに道路交通から排出されるGHGを完全に脱炭素化することが何よりも重要です。調査の結果、内燃機関(ICE)の廃止を、現在の目標よりも前倒しする必要があることがわかりました。主要な市場では2030年までに、ヨーロッパなどの市場では、さらに早い2028年までに廃止する必要があります。

全体として、2035年よりも早くICEの廃止を計画している企業はありませんでした。ダイムラー、フォード、日産、ルノー、ステランティス、トヨタ、フォルクスワーゲンなど、自動車グループ10社のうち7社は、どの市場でもICEの完全廃止時期を決めていません。

グリーンピースは、言葉よりも行動を重視します。そのため、今回の評価では、2016年から2020年の間に実際に販売された電気自動車(EV)の数と、総販売台数に占めるEVの割合を重視しています。

電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCEV)の販売台数実績を見ると、これらの伝統的な自動車メーカーが、化石燃料からの迅速な移行に完全にコミットしておらず、準備もできていないことがわかります。トヨタやステランティスなどの多くの企業は、プラグインハイブリッド車(PHEV)の排出削減レベルが、公式の予測値よりも実際には相当低いにもかかわらず、自社の車両の二酸化炭素排出量を削減する手段として、依然としてPHEVに頼ろうとしています。

自動車メーカーは、ICEの完全な廃止時期を早めるなど、より野心的な計画を立てるだけでなく、早ければ2030年までに、EVの世界販売シェアを現在の一桁から100%に引き上げるため、より積極的な行動を取る必要があります。

2. サプライチェーンの脱炭素化も必要

EVは、特に自然エネルギーで充電した場合、乗客が利用する際のGHG排出量を削減するための解決策として、極めて重要な役割を果たします。しかし、EVを製造するサプライチェーンでは、GHG排出が多く発生します。

今回の調査対象の企業の多くは、カーボンニュートラルの目標を掲げていますが、実際の計画を見ると、10社中8社は具体性に欠け、1.5℃目標に適合しない炭素削減計画となっています。これらの企業には、フォルクスワーゲン、トヨタ、ヒュンダイ・キア、ステランティスが含まれます。

3. 資源の持続可能性

化石燃料から電気自動車への移行には、より多くの電池や電子機器が必要になります。これらは資源を必要とし、環境や社会に大きな影響を与える鉱物の採掘や加工に依存しています。自動車メーカーは、電池の再利用や、電池に含まれる金属を回収して再利用することで、資源の循環を図る必要があります。また、より少ない資源しか使わない、より優れた電池技術の開発が望まれます。このような開発が行われずに、電気自動車の市場が業界の期待通りに成長した場合、2050年には一部の鉱物資源の需要が供給を上回ると予測されています。

10社の中で、日産だけが、新規資源の使用量を減らし、代わりに再生材を使用するという明確な目標を持っています。また、どの企業も、再使用や再利用の能力開発について、本来必要とされる規模での投資は行っていません。

自動車メーカーへの提案事項

  1. 大手自動車メーカー各社は、気候変動の緊急事態に対処するため、それぞれの世界的な規模と市場占有率に見合った社会的責任を負うべきです。グリーンピースは、世界の大手自動車メーカーに対し、2030年までに主要市場(米国、中国、韓国、日本)において、ICE車の販売を終了することを求めます。これは、道路交通の低炭素化を達成し、気候変動の最悪の影響を回避するために欠かせません。一方で、そのような移行の過程では、労働者の声が反映され、彼らの利益が守られるようにしなければなりません。
  2. EVへの移行が完了したら、それで終わりではありません。電気自動車は、カーボンフリーのエネルギーが増えてこそ、環境にやさしい解決策になりえます。したがって、自然エネルギーの供給量を抜本的に増やす必要があります。また、電池の再使用・再利用に必要な能力を確保するためのインフラ整備も必要です。自動車メーカーや電池メーカーの研究開発は、電池の性能向上を目指すだけでなく、電池のライフサイクル全体の環境負荷を考慮し、資源消費量や二酸化炭素排出量、その他の環境負荷を削減し、再使用・再利用の効率を向上させることが目標になります。
  3. 自動車の製造段階におけるカーボンフットプリントでは、鉄鋼が最大の割合を占め、ライフサイクル全体の炭素排出量の半分を占めています。世界の炭素排出量に占める鉄鋼の割合は、ますます大きくなっていますが、すべての鉄鋼生産を脱炭素化することはまだ実現できていません。したがって、気候を救うためには、多目的スポーツ車(SUV)などの不必要に重い車の生産を直ちに減らして、鉄鋼の生産と消費の増加を抑制する必要があります。一般的に、平均的なSUVやピックアップトラックは、平均的な自動車よりも20%多く鉄鋼を使用しています。自動車メーカーは、鉄鋼消費量の増加を抑制するために、より多くの資源を必要とする車の生産を削減するとともに、ゼロカーボンスチールの技術開発を早急に進めるための投資を行うべきです。
  4. 過去数十年にわたる電気自動車の拡大は、主要市場で実施された各種支援政策によって促進されました。これらは、電気自動車のモデルの大幅な拡大を促しました。しかし、ICEを廃止するという名目で、自動車の市場自体が拡大することには注意が必要です。ICEの段階的な廃止には、市場全体の規模の縮小が伴わなければ、気候変動にとって意義のある変化は生まれません。究極的には、真のゼロカーボンモビリティの未来には、自家用車の数を大幅に減らし、より効率的な公共交通システムの導入、カーシェアリングの選択肢の拡充、都市の再設計により徒歩や自転車のためのスペース確保、そして、移動自体を減らすことが必要です。自動車メーカーは、これまでのビジネスモデルーより多くの車をより速いペースで販売することで、利益を得るーを根本的に見直す時にきています。また、政府は、世界を住みやすい未来へと導くための、より良い経済戦略を考案すべきです。

報告書『Auto Environmental Guide 2021』(英語版)

1 Greenhouse Gas Emissions from Energy: Overview, Emissions by sector. IEA. 2019. https://www.iea.org/reports/greenhouse-gas-emissions-from-energy-overview/emissions-by-sector

2  Transport sector CO2 emissions by mode in the Sustainable Development Scenario, 2000-2030. IEA. 2019-11. https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/transport-sector-co2-emissions-by-mode-in-the-sustainable-development-scenario-2000-2030

3 VISION 2050 – A strategy to decarbonize the global transport sector by mid-century, ICCT. 2020-9. https://theicct.org/sites/default/files/publications/ICCT_Vision2050_sept2020.pdf

4 Plug-in hybrids in new emissions scandal as tests show higher pollution than claimed, Transport & Environment, 2020-11. https://www.transportenvironment.org/discover/plug-hybrids-new-emissions-scandal-tests-show-higher-pollution-claimed/

5  Qiao Q., Zhao F., Liu Z., Jiang S., Hao H. Cradle-to-gate greenhouse gas emissions of battery electric and internal combustion engine vehicles in China. Applied Energy, Volume 204, 2017, Pages 1399-1411. https://doi.org/10.1016/j.apenergy.2017.05.041.

6  Greenpeace Germany internal report