「気候危機」「気候変動」「温暖化」いろいろな言葉を聞きますが、実際どのような影響があるのでしょうか?実は、私たちの食を支える日本の農業にもすでに影響が出ています。 千葉県で有機農業をされている林 重孝(はやし しげのり)さんに直接聞いてみました。

農園での林さん(ご本人提供)

お金儲けだけではなく安全で美味しい食物を作りたい

ー林さんが有機農業を始めたきっかけは何ですか?

農家に生まれ、農薬や化学肥料をたくさん使用した栽培方法を見てきました。市場に出荷する際は見た目が第一です。サツマイモは発色剤で光沢をつけ、大和芋は漂白剤に半日つけて真っ白な状態にしてから出荷をしています。

ビジネスのために、農薬や化学肥料などをたくさん使用した綺麗な見た目の食物より、少し見た目は悪くても安全で美味しいものを作りたい、という思いが有機農業を始めたきっかけです。

有機農業と気候変動

ー農業を行っている上で気候変動の影響はありますか?

1980年から有機栽培を始め今年で41年目になります。始めた当初は10月17日に初霜が降りたこともありますが、今は11月10日過ぎくらいに初霜が降りるので20日以上も遅くなりました。最低気温も2度ほど高いです。雨の降り方も昔と変わりました。降らないときは全く降らず、降るときは短期的、そして集中的に降っています。これは熱帯地方の雨の降り方に似ていると思います

このような影響で種まきの時期も変わってきます。例えば大根は8月31日から9月1日にまいていましたが、温暖化の影響で今まで通りだと、まだ気温が暖かく虫がついて収穫できません。今は2週間ほど遅れて種まきをすることで収穫を可能にしています。

撮影:瀧岡健太郎

ー気候変動の影響を受ける中で有機農家の強みはありますか?

有機農家は異常気象に強いと思います。実際に平成の大冷害と呼ばれ、全体的な米の収穫量が減った年に、有機農家では平年並みの収穫量がありました。その理由の1つが堆肥だと考えています。堆肥は保水性、排水性どちらも備えている為、干ばつにも強いのだと思います。

更には、化学肥料には肥料の3要素(窒素、リン酸、カリ)ないし5要素(カルシウム、マグネシウム)の成分しか含まれていませんが、堆肥には微量であっても入っていると良い成分が10種類ほど含まれています。これが植物を強くしているのだと考えています。

皆さんがよく見る中央分離帯に育つ植物は、化学肥料で育てると排気ガスなどですぐに枯れてしまいます。枯れないで育つのは、土手の草を堆肥に使用しているからです。堆肥を使用することで、食物は強く育ちます。有機農家ではこの堆肥を毎年農地に入れていますが、土の中にどのような微生物がいるのかを調査しました。その結果、驚くほどに多種多様な生物がすんでいることがわかりました。化学肥料を使うとすむ微生物は限られています。この微生物が、野菜が強く育つ要因になっていると思います。

撮影:瀧岡健太郎

有機農業を続けていくことが気候変動に対する農家の責任

ー気候変動の軽減を期待されている再生農業ですが、有機農業とどのような関係がありますか?

有機農業は二酸化炭素を減らすことができると考えています。その理由のひとつとしては、化学肥料や農薬は化石燃料を使用しているからです。堆肥を使うことで二酸化炭素の排出を減らすことにつながります。実際に国からも有機農業が推進され、助成金も出るようになってきています。

ー農家として気候変動に対して取れるアクションはありますか?

農家としてできることは、有機農業を続けていくことだと思います。そのためには、気候変動に対して工夫しながら収穫を続けていくことが大切だと思います。従来と同じように栽培しても、植物が育たなくなっています。種まきの時期を遅らせたり、耕しや方もスキで深く耕したり、育てる品種を見極めながら試行錯誤をしていくことで、今までと同じように収穫ができるようになります。こうして有機農業を続けていくことが農家としてできることだと思います。

ー有機農業を続ける理由は?

食べ物は本来、安心安全で美味しいのが一番だと考えているからです。お金儲けをするなら農業ではない業種でも良いと思いますが、農業を続けていくからには安全性を第一に考えて続けたいです。有機農業を始めた当初は虫だらけ、病気だらけで収穫ができませんでした。5年ほど経つとようやく収穫ができるようになりました。堆肥には即効性がありません。害虫を殺さないことで、その天敵であるクモやアマガエルが増え、バランスが取れた状態になり、初めて作物が育つようになります。そして、農地は南傾斜か北傾斜か、水はけ具合などコンディションが異なるため、自分の土地にあった品種などを見つけることが大切です。このような試行錯誤は難しいですが有機農業を続ける楽しさのひとつでもあります。

撮影:瀧岡健太郎

ー最後に、このインタビューを読んでくださっている方に一言お願いします

有機農業を普及させたいという思いで研修生の受け入れを始めました。ここでの生活は、お風呂もストーブも薪を使用していて、カーボンニュートラルです。有機農業を学びにくる研修生には、農業技術だけではなく、ここで体験できる生活も学んでほしいです。

(林さんの農園の詳細はこちらからご覧いただけます)

インタビューを終えて

グリーンピースの学生インターンとして、インタビューさせていただき、有機農業を行う方から現場の声を聞ける貴重な時間となりました。

普段スーパーで買い物する際は、並んでいる野菜を無意識のうちに見た目で選んでいることに気づきました。手に取った野菜は安全で美味しいのか、ではなく、見た目が良ければ美味しいだろうという固定概念があったのかもしれません。

しかし、今回の林さんのお話は、食の安全について再度認識する機会となりました。

有機農業で育てられた食べ物を選択することが、個人でもできる環境問題への取り組みになるのだということも知りました。塵も積もれば山となるという言葉がありますが、些細な事でも大勢が取り組めば環境問題解決への第一歩になると確信しています。

林さんが農家としてできることについてお話ししてくれましたが、SDGsの中のひとつである「つくる責任つかう責任」はまさにこのことなのではないでしょうか。

私たちの食を守るためにも、気候変動を止めるための最大限の行動が必要だと感じました。一人ひとりの生活の中で二酸化炭素を抑えられる選択をすることに加え、政府が温室効果ガスを大幅に減らすための方針を定めて、舵を取るよう、私たちも声を届けていかなければいけません。原発なしで二酸化炭素ゼロを目指すことを求める署名はこちらから。

グリーンピース学生インターン 渋川沙貴

リベラルアーツで準学士号を取得し、現在は学士号の国際関係開発学部に在籍中

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