気温上昇を1.5℃に留めるためには私たちは、2050年までのCO2排出量を400ギガトンに抑えなければなりません。今のペースで排出し続ければ、12年で使い切ってしまう量です。各産業は、排出量を数値に収められるように、2050年までにゼロエミッションを実現を目指すことになります。

現在世界のCO2排出量の1/4を排出する運輸・交通部門では、トヨタなどの大手自動車メーカーが、今の計画通りにガソリン車を販売すれば、この排出量を大きく超過してしまうことがわかりました。ガソリン車・ハイブリッド車を作り続けると、1.5℃以上の気温上昇を招くだけでなく、自動車メーカーの経済的なリスクにもなります。

人類が作れるガソリン車は、あと3億1500万台

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、気候変動対策を話し合う国連の国際会議・COP27の首脳級会合で、こう訴えました*

「我々は後戻りできないところに、危険なほど近づいている」

世界気象機関(WMO)はCOP27初日に報告書を発表し、2015~2022年までの8年間は、観測史上最も暑い8年間だったことがわかりました。今年の世界平均気温は、産業革命前を1.15℃上回ると推定されます*

取り返しのつかない気候危機を防ぐために、私たちは地球の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃までに抑えなくてはなりません。そのためには、温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする必要があります。

オーストラリア・シドニー工科大学持続可能な未来研究所による研究は、気温上昇を1.5℃に抑えるために段階的にCO2排出を実質ゼロにするまで、あとどのくらいCO2を排出する余地があるのか、人類に残された「炭素バジェット」を試算しています。

この研究によれば、2050年までのCO2排出量を400ギガトンまでに抑えれば、67%の確率で温暖化を1.5℃に抑えることができます

現時点で世界中で34.8ギガトンのCO2が排出されているので、もし今のペースで排出し続ければ、12年でこの炭素バジェットを使い切ってしまいます*

グリーンピースは、この炭素バジェット分析をベースに、温室効果ガスの1/4を排出する運輸・交通機関で、特に大きな排出源となっている乗用車について、あとどのくらいこの産業分野からCO2を排出する余地があるのか、そして、各自動車メーカーの乗用車生産計画がその炭素バジェット内に収まるかどうかを調査しました。

持続可能な未来研究所のモデルでは、産業分野ごとに許された排出量の割り当ても算出されており、交通手段の分野では、小型車で53ギガトンまでに抑える必要があるとされています。これを新たなガソリン車の製造から廃棄までにかかるCO2量に換算すると、いまから2040年までに、ガソリン車は3億1500万台まで追加販売が可能ということになります。

炭素バジェット以上にガソリン車販売を計画する自動車メーカー

しかし、現時点の見積もりでは、自動車業界全体が2040年までに予定しているガソリン車の販売台数は、少なくとも6億4500万台から7億7800万台の間になると予想されます。

これは、温暖化を1.5℃に抑えるために追加販売が可能な3億1500万台を、3億3000万台から4億6300万台も超えることになります。

CO2排出量に換算すれば、2020年〜2050年の累積で、中国全体の年間CO2排出量の3.5〜5.1倍に相当する98〜116ギガトンに上ります。これだけ超過すると、他の産業分野での排出削減だけでは、400ギガトンの炭素バジェット内に収める可能性は極めて低くなります。

日本企業は?

今回グリーンピースは、オーストラリア・シドニー工科大学持続可能な未来研究所とドイツのベルギッシュ・グラートバッハの応用科学大学自動車管理センターとともに、トヨタ、ヒョンデ・起亜、フォルクスワーゲン、ゼネラル・モーターズの大手4社について、ガソリン車の生産予定が炭素バジェットに沿っているかどうかを調査しました

トヨタは、2040年までに9400万台〜1億1000万台のガソリン車を販売すると予測されています。これは、気温上昇を1.5℃に保つための目標台数を、5500万台〜7100万台多く販売する見込みになります。

調査対象の4社の中で、トヨタが最も超過が大きいという結果になりました。

100%EV化をためらうトヨタ

グリーンピースは今年のトヨタ社の株式総会に、ゼロエミッション車へのシフトを加速させることを訴えるために、株主として参加した(2021年6月)

ホンダやボルボ、ジャガーなどのトヨタのライバル会社が、ガソリン車を廃止することを発表していますが、トヨタは消極的な姿勢を見せ、ガソリンを使うハイブリッド車の生産を続ける方針を貫いています

1990年代、トヨタは世界的なヒットとなったハイブリッド車・プリウスで大成功を収めました。当時としては画期的な技術で、トヨタは車業界を一変させ、炭素排出量を減らすことで環境面でも大きな貢献を果たしました。

しかし、それから30年経過した今、ハイブリッド車は最も環境に配慮した車ではなくなっています。

生産から廃棄まで、すべてのライフサイクルで排出されるCO2量を見ると、ハイブリッド車はガソリン車よりわずかにCO2排出量が少ない程度で、電気自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、ガソリン車、ディーゼル車を比較しても、電気自動車が、生産から廃棄までを通して最もCO2排出量が少ない車です。

出典:Transport & Environment発表資料より。左から、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車。

トヨタの経済的なリスクとは?

8年後の2030年には、バッテリー式電気自動車が世界の新車販売の52%を占めると予想されています。トヨタも、ゼロエミッション車に移行しなければ、需要変化に対応した競合他社に、シェアを大きく奪われる恐れがあります。日本の自動車産業の世界的な地位を維持できなければ、全体で550万人にもなる雇用を守ることも難しくなるでしょう。

すでに株式市場では、電気自動車への移行を前提とした自動車メーカーの再評価が始まっており、世界トップ12社の自動車メーカーは座礁資産や財務問題により、合計約2兆ドル以上の損失を出すリスクを抱えている、と評価されました。

地球と従業員を守るためにトヨタにできること

世界最大の自動車メーカーであるトヨタが、ガソリンを使うハイブリッド車ではなく、EVへシフトすることは、気温上昇を1.5℃に抑えることに大きく貢献するだけでなく、歴史ある企業を守り、トヨタにプライドを持つ従業員の雇用を守ることにつながります。

グリーンピースは、こうした国際的なネットワークを活かした調査の結果をもとに、メディアに情報提供し、企業の担当者と対話を重ねることで、企業とともに脱炭素を実現することを目指します。

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