【第1回】市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞 報告

市民が選ぶ!
カーボンゼローカル大賞
【第1回】
市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞
報告
「市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞」の第1回目となる表彰式が、2025年10月28日に東京・新橋で行われました。今回は、市民から「住民のことを第一に考えた気候対策を実施している」と推薦された自治体を対象に、審査員会が評価をし、各賞を決定しました。
今回は「パートナーシップ賞」「市民実感賞」「突破力賞」「審査員特別賞」の4部門を設け、各部門において著しい成果をあげている7自治体を表彰。その中でも優れた取り組みに大賞が贈られました。

多数のセクターが協働した優れた取り組み
「パートナーシップ賞」
市民や企業、他部局などとの協働が優れた事例に贈られる「パートナーシップ賞」には、熊本県球磨村、東京都葛飾区、京都府福知山市の3自治体が選ばれました。パートナーシップ賞では、地域内の多様な主体が連携し、脱炭素施策を地域課題の解決と結びつけて進めている点が評価されています。地域の特性や、セクターとの関係性を活かした協働が、それぞれの施策をより独自性のあるものにしています。
熊本県球磨村 ― 脱炭素を軸とした地域再生と官民連携モデル
2020年の豪雨で甚大な被害を受けた熊本県・球磨村では、元の状態に戻す「復旧」ではなく、将来の暮らしを守る「復興」を目指しました。復興にあたり、林業の競争力強化、ソーラーシェアリングによる荒廃農地の再生など、脱炭素施策を地域再生の中心に据えて、新たな地域価値の創出につなげています。

球磨村の取り組みの特徴は、民間企業との連携のあり方にあります。近年の人口減少や地域経済縮小といった村が抱える課題に対し、再エネ導入や省エネ診断など「単発」で続けてきた取り組みを継続して実施する体制をつくるため、球磨村と連携協定を結ぶかたちで2018年に球磨村森(しん)電力が設立されました。民間企業が自社の事業を前提に地域に参入するのではなく、まず地域に存在する課題を共有し、「その課題を解決するために企業が何ができるか」という視点から協働が進められました。地域エネルギー事業を収益事業としてだけではなく「まちづくりへの貢献」として捉えたことで、持続性のある取り組みを実現しました。
中山間地域である球磨村は、その最大の産業である「林業」、被災により村外に出た村民を含む人々の「定住」、コミュニティ維持・生活基盤のひとつである「営農」、そして教育・医療など住民サービスの「公共」という4つのセクターにおいて、再エネの導入を軸として、2050年までにゼロカーボンを実現することを掲げています。すでに村内の主要な施設に設置されているオンサイト太陽光発電では、球磨村の民生部門の電力需要に対し、約47%に相当する発電量を達成(2025年8月時点)。2028年までに、さらにソーラーシェアリングなどを導入することで村内の電力需要の80%を賄うことを目指しています。
今回、球磨村の代理で登壇した球磨村森電力の中嶋崇史代表取締役は、地域エネルギー事業は「地域の課題解決の手段」と話します。地域固有の資源と課題に即した球磨村の取り組みは、再エネ導入x民官パートナーシップによる可能性を具体的に示してくれています。
東京都葛飾区 ― 地域とともに進める脱炭素のまちづくり
年々増える猛暑日や異常気象の影響が深刻化するなか、四方を河川に囲まれた葛飾区では、2019年の東日本台風(台風19号)の豪雨で約2万人近くの区民が避難を余儀なくされました。この経験を踏まえ、葛飾区は都内基礎自治体で初めて、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す「ゼロエミッションかつしか」を2020年に宣言しました。また、23区全体にゼロカーボンに向けた連携を提案・実現し、地域脱炭素社会の構築に大きく貢献。2023年にCOP28 がアラブ首長国連邦で開催された際には、葛飾区長が特別区長会を代表して赴き、自治体が連携する取り組みを発信するなど、脱炭素施策を牽引する存在となっています。

葛飾区の環境施策の特徴は、地域社会と行政が一体となって、地域課題の解決を図る点にあります。同区の木下雅彦環境部長は「気候変動対策は、私たちの健康で快適な暮らしを守る取り組みでもあり、地域のレジリエンスの強化にも大きく貢献している」と力強く語りました。
葛飾区では、太陽光発電システムや蓄電池の助成を行い、同時設置であれば助成金が加算される仕組みにしており、災害時にも活用できるエネルギーの地産地消を推進。さらに、窓や壁などの断熱改修への助成に加え、2023年度からは高い断熱性能を持つ新築住宅への助成も新設しました。公共施設についても、学校を含む新築の際はネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の標準化を目指すなど、生活の質の向上が気候変動対策とつながっています。
また、区内の学校で断熱ワークショップを定期的に開催し、学びの場を通じて学校と地域が連携。さらに、高断熱健康住宅の普及に向け区内の設計事務所や工務店との協働で省エネや断熱技術に関する勉強会などを開催。さまざまな取り組みを通し、住民・企業・行政がそれぞれの立場で支え合い、安心して暮らせるまちづくりの仕組みが少しずつ根づいています。
京都府福知山市 ― 脱炭素と防災、市民ファンドがつくる地域循環モデル
洪水や土砂災害など、過去に度重なる水害を経験してきた京都府福知山市。地域の脱炭素化に取り組むことは、結果として災害の軽減や防止などの地域課題の解決につながる ― この理念のもと、福知山市はレジリエンス強化のための脱炭素施策の推進に加え、事業費の一部に市民出資を活用した「オンサイトPPA* 事業」を市内7カ所で展開(2025年現在)。地域内での資金循環を生み出す仕組みとしても機能しています。地域新電力等との5者による連携協定に基づき、市が公共施設の屋根を貸し、地域新電力によって設置された太陽光発電設備から得られる電力を市が活用しているのです。

同市エネルギー・環境戦略課の梅田健太さんは、「地域脱炭素を率先して進めていくことで地域が注目され、魅力発信やブランド力の強化につながる」と話します。市民ファンドの出資者へ、地域の未利用資源を活用した特産品をリターンするなど、地元産業の振興にも寄与しています。
また、オンサイトPPAを実施した施設で、市の防災部署と連携し車中泊イベントを開催するなど、非常時における太陽光パネルや蓄電池の活用を体験してもらうことで、家庭や学校で温暖化防止への関心を高めるきっかけにもなっています。こうした取り組みを通じて、防災意識の拡がりだけでなく、再エネのメリットが地域と市民間に循環しています。
* オンサイトPPA事業:需要家の敷地内に事業者が太陽光発電設備を設置し、需要家がその電力を使用して事業者に電気料金を支払う仕組み。事業者は設置や運用にかかる費用を電気料金で回収する。
市民の暮らしに根ざした取り組み
「市民実感賞」
地域の住民が日々の暮らしの中で行政の取り組みを実感することができる事例、「市民実感賞」は、東京都世田谷区が選ばれました。
東京都世田谷区 ― 学校現場の教育環境向上から始まる脱炭素
世田谷区では、区内すべての区立小中学校の教室および体育館にエアコンを設置し、教育環境の向上に努めています。しかし、ここ数年の異常な暑さには空調だけでは対応しきれず、特に体育館では十分に空調が効かないために、体調を崩す児童・生徒が増加するなど、学校現場からの危機感が高まっていました。こうした声を受け、学校現場と行政が連携し、学校施設の暑熱対策を進めてきました。

まず同区が取り組んだのは、大掛かりな投資ではなく、数多くある遮熱対策を比較して検討することでした。より効果的な対策を実施するために、遮熱カーテンや輻射熱反射シート、ガラスコーティングなど、最新手法を含む遮熱対策を比較検討し、効率的かつ効果的な対策を進めました。体育館については、構造やサイズの違いが大きいことから、タイプ別の分類や空調能力の検証も行いました。
実際の断熱効果を可視化するため、校舎の天井と窓からの熱の影響を検証する実証実験も実施。断熱対策をしていない教室と、天井断熱のみの教室、天井断熱と窓の二重サッシを施した教室の3教室の温室分析やサーモカメラを使った撮影を行い、断熱の重要性を認識しました。体育館においては、空調効果の範囲と断熱材の有無によって効果が大きく変わることが判明したため、適切な能力の空調設備を増設し、2027年度末までに全校の対策が完了する予定です。
同区の取り組みの出発点は「脱炭素施策を進める」ことではなく、「学校現場(生徒と教職員の健康)を暑さから守る」という現場の切実な課題でした。しかし、対策を進める過程で地元工務店を巻き込んだ学校断熱ワークショップや温暖化授業、普通教室でのサーモ撮影の実施など、児童生徒や保護者を含む地域の人々が一体となった取り組みへと発展しました。暑熱対策が単なる施設改善にとどまらず、生活に根ざした形への脱炭素意識の向上へとつながった好事例として評価された世田谷区の取り組みは、「暑さに強い学校づくり」を始めたい自治体にとって、最初の一歩のモデルとなっています。
独自性と長期的視点が光る
「審査員特別賞」
部門の枠にとらわれず、独自性や地域への貢献度が評価された事例を評価する「審査員特別賞」は、高知県黒潮町が受賞しました。
高知県黒潮町 ― 住民との直接対話で促進されるゼロカーボン
高知県南西部に位置する高知県黒潮町。人口約1万人という小規模な自治体でありながら、2021年に地球温暖化対策実行計画を策定し、「2030年までに2013年比で60%削減」という国の削減目標を上回る野心的な目標を掲げました。黒潮町は、エネルギー効率の悪い設備や断熱性の低い建築物を改善する「省エネ」を再エネ導入よりも高い位置に位置付けています。「穴の空いたバケツに水を入れてもたまらない」という考え方で、基盤となる建物や設備の性能を上げてから再エネを導入することを徹底しています。時間と費用はかかるものの、この順序が住民の理解と共感を得るうえで重要だと考えています。

黒潮町の脱炭素政策の大きな特徴は、住民一人ひとりと丁寧に向き合う姿勢です。同町は、近い将来発生すると言われている南海トラフ巨大地震で、日本一高い津波が到達すると想定されている地域のひとつ。地震・津波対策における「戸別津波避難カルテ」を町民の家庭一軒一軒を訪問して作成した経験を活かし、脱炭素対策でも「脱炭素カルテ」を作成。すでに町内全域を訪問しています。訪問開始直後は、警戒心が強い住民もいましたが、丁寧なコミュニケーションを積み重ねることで、信頼関係を構築。トップダウンではなく、住民とともに進める「参加型の脱炭素」を実現しています。住民の生活実感に寄り添いながら温暖化の危機意識を共有することで、行動変容への手応えも生まれています。
黒潮町では、脱炭素を特定の事業テーマにとどめず、産業・観光・防災・福祉と、町のあらゆる政策と常に関連づけています。それにより、再エネポテンシャルを最大化し、地域に根ざしたサステナブルなまちづくりを可能にしています。津波避難タワーに太陽光発電を導入し、災害時の環境整備をおこなったのも、脱炭素と防災が掛け合わせられた施策のひとつ*です。「巨大津波に備える防災の町」であると同時に、「最先端の脱炭素の町」である黒潮町。住民との密な関係を築きつつ、災害に強い地域を作るためにエネルギーのあり方を見直す実践は続きます。
* NHK「黒潮町 津波避難タワーに太陽光発電導入 暑さ対策など」(2025年8月21日)
制度的・組織的ハードルを越えた取り組み
「突破力賞」
「突破力賞」は、東京都と鳥取県が受賞。東京都は、太陽光発電への逆風が強まる中でも、全国に先駆けて「屋根置き太陽光発電設備の設置義務化」を実施した点が認められました。鳥取県は、国基準を上回る独自の断熱基準の策定に加え、地元工務店に向けた研修の実施や、住宅の質を正当に評価する仕組み「T-HAS」を整備するなど、独自の制度づくりが評価されました。
鳥取県 ― 県民の健康のための「省エネ住宅基準」を策定
建物部門が二酸化炭素排出の約3割を占める日本では、住宅の断熱は脱炭素に不可欠であり、2025年4月からはすべての新築住宅に省エネ基準(断熱基準を含む)への適合が義務づけられました*。一方で、日本では「省エネ=我慢」という認識が根強く、十分な断熱が進んでこなかった地域で、冬季の死亡率が高くなる傾向も指摘されています。

鳥取県は、冬の室温差で亡くなる方が比較的多い地域であったため、住民の健康を守ることを最優先に、2020年に独自の省エネ住宅基準「NE-ST」を策定。断熱・気密性能について、国の基準を上回る3つの段階で県が認定する仕組みです。家の気密性の改善による健康効果に加え、結露や劣化を防ぎ、建物の長寿命化にも寄与します。
補助制度についても、十分な予算措置に加え、申請期間を限定せず、事業者が施主に提案しやすい設定が普及を促進しました。これにより、新築木造戸建住宅に占める NE-ST性能を確保した住宅の割合は、制度開始時(2020年)からの4年間で3倍以上に増加しました。また、新築住宅だけでなく、既存住宅の断熱改修も取り組みを広げています。住まい全体の改修が難しい場合でも、生活空間に限定した「ゾーン改修」など、負担の少ない改善方法を提示しており、高齢化の進む地域に適した現実的なアプローチを行っています。
鳥取県では、断熱について数字や基準を示すだけではなく、誰でも利用できる断熱体感ハウスを通して「暖かい家の価値」を実際に感じることができる場を作り、導入につなげています。住まいの価値を再考し、住民の暮らしと健康に寄り添う「省エネ・断熱」の促進方法が、支持される施策の基盤となっています。
* 国土交通省「建築基本法・建築物基本省エネ法 改正法制度説明資料」(2024年9月)
東京都 ― 都市で実現する実装型の脱炭素アプローチ
日本の首都・東京における二酸化炭素排出量は、業務部門が約4割、家庭部門が約3割を占めており、7割超が建物でのエネルギー使用に由来するという特徴があります。排出の大半を建物が占める東京にとって、建物対策は喫緊の課題でした。2050年までに都内の建物の約半数(住宅では約7割)が建て替え時期を迎えると見込まれており、都は、脱炭素化の実現には新築建物の省エネ・再エネ導入促進が鍵だと考えました。

太陽光発電設備の導入量自体は増えているものの、都内の建物総数のうち太陽光発電設備が設置されているのは約4%* にとどまります。都はこの状況を「大きな可能性」とし、家庭部門に踏み込み、太陽光発電と断熱・省エネ性能の確保を一体で進めることを目指しました。制度の中核は、大手ハウスメーカーに対する義務付けです。都内では敷地が狭く密集している住宅が多いため、太陽光パネルの設置を新築住宅一棟ごとに一律には義務付けず、屋根面積が小さい住宅は算定対象から除外。また、事業者が当該年度に供給した住宅数に応じて、全体として一定量の太陽光発電設備を設置する、事業者単位の総量により柔軟に義務履行できる仕組みを導入しています。
制度設計と並行して、約50社の大手ハウスメーカーを何度も直接訪問し、説明や意見交換を重ね、制度施行後も足を運びました。担当の山口さんは「新しい制度ということもあり、最初はさまざまな受け止め方があった」と振り返りますが、徐々に事業者側の理解と協力が広がり、対話を通じて制度運用上の課題や要望を共有できる関係性が築かれました。さらに「東京エコビルダーズアワード」という表彰制度や、相談窓口・情報ポータルサイトの整備を通じて、業界と都民双方の理解と参加を積極的に促しています。地域の実情を踏まえた柔軟な設計と、関係者との丁寧な関係構築が、順調な制度運用を可能にしました。
* 東京都環境局「東京都太陽光現況調査」(2021年度公表)
大賞は東京都と鳥取県に
大賞を受賞した鳥取県と東京都は、国の基準や既存の慣行にとらわれず、地域特性を踏まえた独自のルールを策定しました。脱炭素を単独の環境政策にとどめず、健康や住宅の価値、都市構造などと結びつけた点に、広域自治体ならではの役割が表れています。審査員を務めた東京大学大学院の前真之准教授は「多方面から寄せられる意見を踏まえつつ制度を設計し、それを現場で機能する仕組みとして着実に実行している点が際立っている」と評価しました。

自治体だからこそできる
「生活起点の脱炭素」施策の重要性
カーボンゼローカル大賞で受賞した自治体の施策は、必ずしも「脱炭素」を目的に始まったものではありません。防災、健康、地域経済など、暮らしの現場が抱える課題に向き合うなかで、その解決策として「脱炭素」が軸となっていった取り組みです。こうした自治体の事例は、複数の課題を抱え、住民の満足度にどう結びつけるかを模索している他地域にとっても、有益な情報となるでしょう。
気候変動が私たちの生活に直接的な影響を及ぼしている昨今、単に脱炭素を目標とするだけでは社会は動きません。地域の特性を熟知し、住民と近い距離で課題解決に取り組む自治体発の実践は、今後さらに重要性を増していきます。カーボンゼローカル大賞は、今後も日本各地で奮闘している自治体の実践に光を当て、ネットワークをつなげていきます。
あなたのまちの優れた気候対策を
ぜひ推薦してください
「カーボンゼローカル大賞」事務局では、自薦・他薦を問わず、自治体の住民ファーストな気候対策を募集します。2026年度の第2回に向け、各地からの情報をお待ちしています。
シリーズ記事(グリーンピース・ジャパン):
・ 地域が動かす脱炭素の未来、「市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞」受賞7自治体の挑戦(1)ーー「パートナーシップ賞」受賞自治体の事例
・ 地域が動かす脱炭素の未来、「市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞」受賞7自治体の挑戦(2)ーー「市民実感賞」「審査員特別賞」受賞自治体の事例
・ 地域が動かす脱炭素の未来、「市民が選ぶ!カーボンゼローカル大賞」受賞7自治体の挑戦(3)ーー「突破力賞」「大賞」は鳥取県と東京都に
【お問い合わせ先】
メールアドレス: [email protected]
カーボンゼローカル担当
主催:カーボンゼローカル大賞実行委員会
(ISEP、グリーンピース・ジャパン、NPO法人グリーンズ、POW Japan)




事務局:グリーンピース・ジャパン
協力:気候ネットワーク、ゼロエミッションを実現する会