今年、日本のエネルギー政策を定める「エネルギー基本計画」が見直されます。そこで、エネルギー基本計画とはそもそも何か、私たちにどう関係があるか、よりよいものにするために私たちに何ができるか、についてお伝えします。

エネルギー基本計画とは

エネルギー基本計画は、国のエネルギー政策の基本的な方向性を示すものです。

「エネルギー政策基本法」に基づいて策定が義務付けられており、約3年に1回、必要に応じて見直すことになっています。

この計画で示される電源構成は「エネルギーミックス」と呼ばれ、目標のような意味合いを持っています。

国の気候変動対策に深く関わる

エネルギー政策についての計画ですが、気候変動対策に深く関係しています。

2023年に開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で、2035年の温室効果ガス削減目標をたてることが各国に宿題として課されています。

破局的な気候危機を回避するため、産業革命以前の平均気温からの上昇を1.5℃以下に抑える、というパリ協定の目標に向けて、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」の実現を掲げています。そして、世界の温室効果ガス排出量を2035年までに60%削減(2019年比)することが必要です。先進国の日本はもっと減らす必要があります。

日本も、2035年目標を遅くとも2025年2月までに国連に提出するよう求められています。いま、策定に向けて議論が進んでいる第7次エネルギー基本計画で、どれくらい温室効果ガスを削減するかも定まるため、提出する目標と連動しているわけです。そして「エネルギー基本計画」はあらゆるエネルギー政策の根幹であり、企業や自治体の方針にも影響を与えます。

これまでの「エネルギー基本計画」

原発は、推進→縮小→推進

もともと「エネルギー政策基本法」には、原発を推進する立場から、エネルギー政策の中に原発を明確に位置付ける、という目的がありました。したがって原発の推進が強調されてきましたが、2011年3月の東日本大震災に伴う原発事故をきっかけに、当時の首相が「エネルギー基本計画は白紙に」と発言。2012年夏の「国民的議論」を経て、「少なくとも過半の国民が原発に依存しない社会を望んでいる」と結論づけられます。2014年「第4次エネルギー基本計画」では、「原発依存度の低減」が明記され、原発縮小に転換しました。

しかし、2018年の第5次エネルギー基本計画では原発が「脱炭素化の選択肢」とされ、2021年の第6次エネルギー基本計画では「必要な規模を持続的に活用」となり、「新増設」にも含みを持たせる「原発完全復活」の計画となりました。

化石燃料は、重要→クリーン/高効率化→脱炭素型(?)

推進しているのは「石炭火力発電」も同じです。最初の計画では「石炭は重要なエネルギー」と位置付けていました。地球温暖化が認識されるにつれ、「化石燃料のクリーン化」として高効率化が目指されます。国際社会で石炭火力廃止への方向性が強まると「脱炭素型火力発電」へ置き換える、となりました。実際には「脱炭素型」の火力発電は存在しません。

再エネは、開発→導入加速→主電源化

再生可能エネルギーについては「第1次エネルギー基本計画」ではほとんど登場せず、第2次の計画で「開発・利用」となり、第3次の計画で「大量導入」という位置付けになりました。その後、2018年の第5次の計画から「主電源化」を目指すことになりました。しかし、電源構成の数値目標としては2030年で36〜38% と大変低いものになっています。

「エネルギー基本計画」これまでの変遷

2003年:「第1次エネルギー基本計画」「原子力の推進」「石炭は重要なエネルギー」「水素エネルギー」への期待

2007年:「第2次エネルギー基本計画 」「原子力発電を積極的に推進」「再生可能エネルギー/水素エネルギーの開発・利用」「化石燃料のクリーン化」

2010年:「第3次エネルギー基本計画」 「OC2削減手段として原発」2020年までに原発と再生可能エネルギーで50%(実質原発第推進)「将来においても化石燃料を利用」「石炭火力効率化」「再生可能エネルギーの大量導入」「水素エネルギー社会の実現」

2014年:「第4次エネルギー基本計画」「原発依存度の低減」を明記、原発縮小に転換 「再生可能エネルギー導入加速化」 化石燃料効率化

2018年:「第5次エネルギー基本計画」原発回帰「脱炭素化の選択肢」「再生可能エネルギー主電源化」化石燃料はガス利用へシフト、非効率石炭フェードアウト 

2021年:「第6次エネルギー基本計画」原発のさらなる推進「必要な規模を持続的に活用」火力発電のイノベーションを追求 非効率石炭フェードアウト(脱炭素型火力発電へ置き換え)  再生可能エネルギー主力電源化の徹底

国際的には、二酸化炭素(CO2)排出削減対策のない石炭火力発電は、2035年までに段階的に廃止することで合意しています。気候危機回避のためには、一刻も早く再生可能エネルギー100%へ舵を切らなければなりません。

わたしたちの暮らしとの関係

気候危機が回避できなかったら、どのようなことが起こるのでしょうか。今年もすでに全国各地で厳しい暑さが続いており、7月7日には静岡市で日中最高気温が今年国内で初めて40度に達したほか、8日にも和歌山県新宮市で39.6度、東京都府中市で39.2度のいずれも観測史上最高となる日中最高気温が記録されました。来年、再来年はもっと暑くなる可能性があります。すでに熱中症など私たちの健康に大きな被害がでています。またエアコンのための電気代は私たちの家計を直撃しています。いますぐ、CO2排出量の大幅削減策をとる必要があります。

© Taishi Takahashi / Greenpeace

気候危機を回避できるエネルギー基本計画とは

気候危機を回避するには、化石燃料を公正かつ速やかに段階的に廃止していくことが求められています。COP28では、「この決定的に重要な10年に行動を加速し、化石燃料から脱却する」と合意されました。

削減に最も大きな貢献ができるのは、省エネと再エネです。COP28では、「2030年までに世界の再エネ設備容量を3倍に、エネルギー効率改善率を2倍にする努力に貢献するよう各国に要請」することが合意されました。

日本のエネルギー計画にも、省エネと再エネの推進がしっかりと明記されなければなりません。推進するだけなく、再生可能エネルギー100%へのロードマップが描かれなければなりません。


脱炭素社会の早期実現をめざすNGOの連合体「ワタシのミライ」では、次のエネルギー基本計画にむけてのポイントを以下のようにまとめています。

©Daiki Tateyama  「ワタシのミライ」は、国のエネルギー政策の議論に若者の参加を求めました。

❶ 政策を決めるプロセスで、若い世代を含む市民参加を
政策を決めるプロセスに若い世代を含む多様な立場の市民を参加させ、民主的で透明なプロセスで行うこと。

第6次計画の策定時のような、最終段階でのパブコメ(パブリックコメント・意見公募)での意見の収集・反映では不十分。

各地での意見交換会、世論調査など、多角的な市民参加の場を設けるべき。

❷ 2030年・35年の削減目標は「1.5℃以内」やCOP28合意に整合するものへ

2030年の温室効果ガス削減目標を、1.5℃目標やCOP28合意に整合させ、先進国としての責任を果たせる水準に引き上げること。

「世界全体で2019年比で2035年までに60%以上削減」を大きく上回る、野心的な目標を設定し、遅くとも2025年2月までに国連に提出すること。

❸ 化石燃料や原子力には頼らず省エネと再エネで実現を

G7サミットでは「2035年までに電源のほぼすべてを脱炭素化する」目標で合意している。

原発は、気候危機対策にならない(省エネ・再エネに時間・資金を注入すべき)。

COP28で合意された「化石燃料からの脱却」と、「2030年までの再エネ設備容量3倍及びエネルギー効率改善率2倍」というグローバル目標に、先進国である日本として大きく貢献できる計画を。

決定的に重要なこの10年に実用化が間に合わず、実現可能性が不確実かつ高コストで、環境・社会への悪影響が懸念される化石燃料関連の新技術(水素・アンモニア、CCS等)には頼らないこと。

私たちにできること

気候危機を回避できるようなエネルギー基本計画に近づけるためにできることは、「仲間と力を合わせる」ことです。

「再エネ増やして、ホンキの気候対策を」署名に参加して、仲間といっしょに活動しましょう。

全国に、エネルギーについて勉強会を開いたり、行政や議員に省エネ・再エネの大切さを伝えに行ったり、広く一般に伝える活動をしている人々がいます。NGOの連合体「ワタシのミライ」が主催している「再エネ増やして、ホンキの気候対策を」署名にぜひご賛同ください。署名をすると、さまざまな活動情報を受け取けとることができます。