ガソリン暫定税率廃止が招く長期的な負担ーーガソリン安でCO2排出増、BEV普及停滞の懸念も

国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は9月3日、ガソリン税の旧暫定税率廃止について、以下の声明を発表しました。暫定税率をめぐっては、与野党が廃止することに合意したものの、財源をめぐる議論が続いています。
グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子
「物価高騰が続き、多くの国民の生活が苦境に追い込まれています。そのようななか、目に見えやすい形で短期的に物価を下げることが優先され、ガソリンの旧暫定税率を廃止するということが与野党間で合意されました。
8月末には、国立環境研究所がガソリンおよび軽油の暫定税率が廃止された場合、2030年までに国内の二酸化炭素排出が約610万トン増加する、という試算を出しています。これは、現在世界で進む化石燃料からの脱却と逆行することに他なりません。環境省がこの試算結果を受けてパリ協定の採択国として求められている排出削減計画の数値との整合性を求めている(注1)のは当然のことです。
ガソリン価格が下がると、需要が増え、炭素の排出量が増えることになるのは明白です。また、日本のガソリン価格は、G7のなかで米国とカナダに続く安さであることも指摘されています(注2)。産油国でない日本でガソリン価格を抑制することで懸念されるのは、運輸・交通部門からの二酸化炭素排出量を減らすために有効な手段であるバッテリー電気自動車(BEV)の普及が阻害されることです。これまでいくつかの国では、電気を充電した方がガソリンの燃料費よりも安価であるため、BEVの普及が進んできています。しかし、ガソリン代が下がれば、BEVを購入するというインセンティブが失われる恐れがあります。ガソリン価格低下に伴って二酸化炭素排出が増えることは、温暖化を悪化させ、すでに多くの人々が実感しているように、気候変動によって電気代や医療費の負担が増し、さらに生活が圧迫されることでしょう。
長期的に国民生活にゆとりをもたらすためには、ガソリンの旧暫定税率のような部分的な修正で暮らしを立て直すことは、持続的な対策とはいえません。むしろ、排出を抑える行動を促す炭素税を機能させ、その分を所得税や消費税の減税に活用するなど、脱炭素と暮らしの安定化を両立させる現実的な方策を検討するべきです」
以上
(注1)環境省「揮発油税等の当分の間税率の廃止の影響試算について」(2025年7月2日税制全体のグリーン化推進検討会追加資料)
(注2)日本経済新聞「ガソリン価格、暫定税率廃止ならカナダ並み 脱炭素に逆行」(2025年7月30日)