新型コロナ感染症と気候変動の関係は?
2019年の12月頃から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に急速な広まりを見せています。3月27日現在、日本では感染した人が1,387名、47名の方が亡くなっています。一方で、359名が退院されたという朗報もありました。感染された方々の一日も早い回復と、新型コロナウイルス流行の収束を願うばかりです。
また、短期的な感染防止の取り組みだけでなく、長期的には気候変動の影響下で、人間が直面する可能性のある感染症のリスクを認識する必要があります。

極端な気候による生息地破壊が、 ウイルスを運ぶ動物と人間との接触を増加させる
米国のニュースサイト「ザ・デイリービースト(The daily beast)」によると、気候変動の影響で森林火災や干ばつ、洪水などの異常気象が各地で頻発。一部の動物が生息地を失い、人間の居住地や家畜のいる地域に逃げ込み、人間が病原体にさらされる可能性が高くなると報じています。
1998〜99年にかけてマレーシアで爆発的に発生したニパウイルス(Nipah virus)は、脳炎による死者を100名以上出しており、病理学雑誌『マレーシア病理学刊行』に掲載された研究では、ニパウイルスの宿主がフルーツコウモリであることが指摘されました。
これは、森林火災やエルニーニョ現象により干ばつが発生し、フルーツコウモリが養豚場の果樹を餌にしなければならず、それが豚に感染して人獣に共通する感染症になってしまったとありました。

© Byron Ross / Greenpeace Drone stills around Kangaroo Valley following bushfires.
『獣医学ジャーナル』(Veterinary Science)は、過去80年間に出現した感染症は人獣共通感染症で、
・1980年代にHIVが類人猿に由来する可能性があること
・2004年から2007年にかけて鳥類で鳥インフルエンザが発見されたこと
・2009年には豚インフルエンザが発見されたこと
・台湾人に深い爪痕を残したSARSが発見されたこと
・近年ではコウモリが感染したエボラウイルスが発見されたこと
これらの72%までが野生動物に由来すると指摘しています。
従来、新たな感染症は一つの事象として扱われていましたが、人間が自然環境を大幅に改変し、既存の生態系を破壊し、生命と野生動物の境界線を曖昧にしたり、一部の国の文化によっては「野味(野生動物を食すること)」の習慣があることから、野生動物が運んだり感染したりする未知のウイルスに接触する可能性が出てきました。
英BBCは、米国際開発庁(USAID)の委託を受けた「PREDICTプロジェクト」によると、アジアやアフリカの野生動物には、MERSやSARS*に似たコロナウイルス92種を含む1000種類の未知のウイルスが存在するとしています。
アメリカ・バージニア州のパブリックラジオは、気候変動や森林伐採もウイルスの拡散に影響を与えており、湿度などの気候条件によってウイルスの拡散速度が変化すると報告しています。
*MERS 中東呼吸器症候群
SARS 重症急性呼吸器症候群
地球温暖化によってデング熱の範囲が拡大、人体の発熱防御機能が効かなくなる
蚊をはじめとし、血を吸う昆虫が人獣共通感染症の媒介者であることは注目に値することです。気候変動に伴い、蚊の移動範囲が徐々に拡大し、アフリカや東南アジアから亜熱帯・西半球に広がったチクングニアウイルス(Chikungunya virus)、アフリカからアメリカ大陸に急速に広がったジカウイルス(Zika virus)、ウガンダからカナダに達した西ナイルウイルス(West Nile virus)など、世界中でウイルスを媒介しています。

著名な医学雑誌『ランセット』(The Lancet)の2019年の年次報告書によると、地球温暖化、海水温度の上昇、降雨パターンの変化、湿度の上昇などが、マラリアやデング熱などを媒介する蚊にとって整った繁殖条件を作り出しており、デング熱の感染が最も深刻だった10年のうち9年は2009〜2019年の間に発生していたとのことです。
「現在の世界の平均気温が産業革命以前と比べて1.1度上昇していることから、ウイルスなどの病原体による感染症の増加につながる可能性がある」
ジョンズ・ホプキンス公衆衛生大学院の微生物学と免疫学の教授であるアルトゥーロ・カサデバル(Arturo Casadevall)氏は、自然環境の温度が上昇すると、「自然淘汰」を経験した病原体が人の体温に適応しやすくなり、病原体に対する人体の発熱を防御するシステムが効かなくなると述べています。
地球を守ることは、私たちの健康を守ること
医学雑誌『ランセット』はまた、近年に生まれた子どもたちが気候変動により深刻な生存危機に苦しむことを指摘しています。
人間が現在のライフスタイルを維持している場合、次世代は産業革命以前の温度よりも4度高い環境で生きなければならず、食糧不足、飲料水の安全性、大気汚染などの問題に直面したり、極端な暑さ、激しい嵐や病気による生活費や心理的負担が増えたりする可能性があるとしています。
(参考文献:Lancet、権威あるジャーナル:気候変動は次世代の健康に影響を与える)
短期的には、新型コロナウイルス対策として、衛生面に注意しながら感染防止に最大限に注力する必要があります。
そして、長期的には、化石燃料の使用量を減らし二酸化炭素の排出量を減らすために、個人や企業、政府が気候変動の問題にも取り組むことで、地球の温度上昇を1.5度以内に抑え、さまざまな感染症を含む大規模災害を回避することができるのです。
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