公正で建設的な議論で”1.5度”守れる目標の設定を〜2035年温室効果ガス削減目標に向けて〜
この投稿を読むとわかること
今、私たちの暮らしにとって重要な目標が決定しようとしています。これから日本が2035年、2040年に向けてどれくらい温室効果ガスを削減するのか、議論されてきました。しかし、環境省・経産省が出した案は、世界で目指す最低目標水準よりも低いものでした。さらに、その審議のあり方にも大きな問題が・・・。国際的にも低い削減目標、審議のあり方に問題がある中、どのような数字を目指すべきか、私たちができることは?解説します。
いよいよ温室効果ガス削減目標(NDC)が決まりそう…1.5度目標に整合しない案が出ています
最近、日本の2035年や2040年の温室効果ガス削減目標(NDC)について報道がよくみられるようになってきました。
その数字は、「2035年度までに2013年度比60%減、2040年度までに同73%減」。
これは、世界中の人が協力して目指さなければならない「1.5度」の目標と整合しない数値です。
1.5度目標は、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃より低く抑える努力をしよう、という国際的な目標です。1.5℃を超えると、グリーンランド氷床の崩壊、永久凍土の広範で急激な融解などを含めた4つのティッピング・ポイントを超えてしまう可能性が高くなるということが指摘されています。
政府が示す「2013年度比60%減」は、2019年比で51%減にとどまり、気候変動に関する政府間パネルIPCCが求める1.5度整合にとどまるために必要な、「世界全体で2019年比60%削減」から、大きく下回っています。これを日本政府が使う2013年度比率で換算すると、2035年までに最低でも66%となります。
つまり、今、環境省・経産省が出している案は、世界が最低限目指すべき平均目標値より低いということになります。確かに国によってその時の基準の違いはあるものの、先進国として、途上国にそれ相応の削減努力を求めるのであれば、技術と資金がある日本はきちんと世界平均を超える割合削減することが、求められるのは当然です。
昨年、岸田前総理大臣も出席したCOP28においても、今後の対策強化に向けて、1.5度目標を達成するためには、世界全体で2025年までにGHG排出をピークアウトさせ、2030年までに43%、2035年までに60%を排出削減(2019年度比)する必要性が認識されました。なんとこの内容には日本政府も合意しています!
本来、日本が目指すべき目標は?
2035年において66%の削減(2013年度比)が最低限のラインであることはわかりました。
しかし、日本のこれまでの歴史的な排出量なども踏まえた本来の責任や、これから削減できる技術力や経済力などのキャパシティを踏まえた、科学者・研究機関が示す日本の2035年の削減目標は、81%です。
非常に高い目標を突きつけられていると思います。しかしこれと向き合わなければ、この先のさらなる被害の拡大を防ぐことはできません。
他国では、すでに野心的な目標を掲げています。たとえば、今年11月に開催されていたCOP29において、イギリスはこれまでの1990年比で2035年までに温室効果ガスを78%削減するという目標を更新し、81%を目指すことを発表しました。
日本は再エネ導入による温室効果ガス削減のポテンシャルは十分にあるので、あとは、勇気ある政治的決断が求められます。
もうひとつの大きな問題:重要な議論が省庁側の結論ありき?委員の意見が止められる?
さらに、ここで皆さんと共有したい大きな課題がもうひとつあります。
それは、報道にもある通り、「決め方」の問題です。
11月25日に開催された審議会において、気候変動対策検討小委員会の池田委員から問題提起がありました。
池田将太委員は、ハチドリソーラー株式会社代表取締役 兼 ハチドリ電力事業責任者です。池田委員が、前回の委員会を止むを得ず欠席する際、意見書を環境省に送ったところ、”今回の(池田委員の)コメントは控えさせていただきたい”と連絡をもらった、と発言しています。
つまり、池田委員が「忌憚のない意見を」と言われて意見を提出したにもかかわらず、環境省は省庁側のシナリオありきで、意見書の提出を断ったと理解できるような趣旨です。
もしそのような意図がなかったとしても、事務局側が委員の自由な発言を制約したことは事実であり、これは大変問題のある進め方です。
また、”実際には「議論が行われる場」ではなく、コメントを3分で述べるだけ。”と池田委員の発言にもあるように、私たちの命や暮らしに関わる非常に重要な目標値について、本来専門家たちが「議論」をするべき場において、事前の予告なしに次期NDC案の方向性が突然示され、これまで全く議論ができていない中で、「2035年60%削減(2013年比)」という方向性が示された、ということになります。
この問題は、今年5月、水俣病の患者・被害者団体などと伊藤元環境大臣との懇談の場で、発言途中にもかかわらず発言時間を超過したという理由で、マイクの音が切られた問題にも似た性質があると伺えます。同じ問題を繰り返していると世間に受け取られてもおかしくありません。
そして、Climate Integrateが示す通り、そもそも日本のエネルギー政策を決めるにあたって、あまりにも委員構成に偏りがあることについても、多くの団体が指摘しています。
委員の多くは化石燃料を中心にした既存システムからの脱却に対して「消極的」なメンバーであり、50代以上・男性が多くを占めています。
私たちにとって非常に重要な温室効果ガス削減目標の設定については、これまでの延長・結論ありき・短時間で決めず、今からでも公正な議論に基づいて決定されることを強く望みます。
私たちにできること
エネルギーは私たちにとって必要不可欠なものでありながら、つい難しいテーマとして敬遠しがちですが、専門家ではない私たちが、生活者としてできることがあります。
それは、意思決定ができる方に声を届けること、そしてこの問題を広めて話題にすることです。
3つ、ご紹介します。
1)各政党の温暖化調査会・対策本部の議員に応援メッセージを送る
現在出されている経産省・環境省からの案は、この後与党が合意すれば、最終的に環境大臣・経済産業大臣が決定します。与党には合意を踏みとどまってもらい、野党にはこの問題をそのまま進めることのないようしっかり議論していただくよう、「1.5度に整合するNDCを」と応援メッセージを送りましょう。
▼参考文例
XXX議員、突然のDMを恐れ入ります。私は気候変動について、とても危機感を持っています。1.5度目標を守れないと、たとえばグリーンランド氷床の崩壊など、その後人間がどんなに頑張っても後戻りできないポイントを超えてしまう恐れがある、と聞いています。1.5度を守ることは私たちの命や暮らしを守るために絶対に必要だと思います。 そしてそんな重要な会議の場で、若手の委員の方(ハチドリ電力池田社長)の発言が止められたこと、議論がしっかりされず短時間で結論ありき決まってしまいそうなことも聞きました。これを聞いて、重要な目標について、そのように進められるのは非常に残念です。公正で建設的な議論が必要だと思います。 日本も1.5度目標を守るために、2013年度比60%ではなく、66%以上の数字を出すよう、何卒お願いいたします。 これは温暖化対策をご担当されているXXX議員にしかお頼みできません。 党内でのリーダーシップを期待しております。 応援しています! |
送り方① FAXで送る
送り方② SNSがあれば、DMで送る
〜各政党の宛先〜
◎自民:環境・温暖化対策調査会 会長:井上信治さん
FAX番号 国会事務所:03-3508-3328 地元事務所:0428-32-8183
Web:https://www.inoue-s.jp/
◎公明:地球温暖化対策推進本部 会長:谷合正明さん
FAX番号 国会事務所:03-6551-0922 地元事務所:086-262-7722
Web:https://www.m-taniai.net/
◎立憲:環境・エネルギー調査会 会長:田嶋要さん
FAX番号 国会事務所:03-3508-3411 地元事務所:043-202-1512
Web:https://k-tajima.net/
◎国民:エネルギー調査会 会長:浅野哲さん
FAX番号 国会事務所:03-3508-3231 地元事務所:0294-21-3014
Web:https://asanosatoshi.com/
◎維新:政務調査会長 青柳仁士さん
FAX番号 国会事務所:03-3508-3989
Web:https://aoyagi-h.com/
◎れいわ:共同代表 櫛渕万里さん
FAX番号 国会事務所:03-3508-3383 地元事務所:03-5875-5138
Web:https://kushibuchi-mari.jp/
◎共産:田村貴昭さん カーボンニュートラルを実現する会
FAX番号 国会事務所:03-3508-3355 地元事務所:092-526-1802
Web:https://tamura-takaaki.com/
2)あなたの選挙区の国会議員にメッセージを送る
地域の有権者の声を聞き、国政に反映させるのは、国会議員の仕事です。
役割・担当分野が異なる議員さんもいますが、「環境・エネルギーの担当の人にもぜひ伝えてほしい」とお願いしましょう。
▼参考文例
XXX様 XXX市に住むXXXです。 温室効果ガス削減目標について、報道を見ました。 しかし環境省・経産省が出しているNDCでは、日本の責任・能力を踏まえると、1.5度目標に整合しません。 特に2035年目標においては、これは2019年比で51%にとどまり、気候変動に関する政府間パネルIPCCが求める1.5度整合にとどまるために必要な世界全体で2019年比60%削減から、大きく下回っています。 2013年度比ならば、最低限でも66%減が必要です。 そして本来の日本の責任・能力を踏まえれば、81%削減が必要というデータも出ています。 審議の場で、若手の委員の方(ハチドリ電力池田社長)の発言が止められたこと、議論がしっかりされず短時間で結論ありき決まってしまいそうなことも聞きました。重要な目標について、そのように進められるのは非常に残念です。公正で建設的な議論が必要だと思います。 エネルギーのあり方、温室効果ガスをどれだけ減らすか、などは私たちの暮らしに直結する問題です。温暖化によってすでに多くの影響が出ている中で、とても危機感を持っています。 この件について、国会できちんと議論をしてほしいです。 党内の担当の方にもよろしくお伝えいただけますと幸いです。 よろしくお願いいたします。 |
送り方:
①メール/フォーム/FAXで送る
②追い電話してみる
③会いに行ってみる
調べ方:
インターネットで「XXX県XXX市XXX(自分の市区町村名) 衆議院議員」と検索。
衆議院議員の名前がでてきます。
最近選挙があったので、下記のサイトでも簡単に調べることができます。
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/(当選した方を探してみてください)
議員のウェブサイトへ行き、電話番号や、メールアドレス、SNS(FacebookやInstagramなど)、フォームなどがあれば、そちらにメッセージ送ったり、電話をかけてみましょう。
地元の事務所が近い方は、会いに行くこともできますのでぜひ試してみてください。(2名以上で行くことをお勧めします)
3)SNSでこのことを話題にする
X、Instagram、Facebookなど各種SNSで、今回の池田委員の問題提起や、NDCのことを話題にして、問題を認知する人を増やし、更に話題にしていきましょう。
最後に:でもこれで、「終わり」じゃない
NDCが決まってしまう前に、できることをアクションした方は、まずは自分と、仲間を褒め合いましょう。
仮に結果として今回現れなかったとしても、肩を落とすことなく、少しひと休みしたら、次のアクションに繋げていきましょう。
あなたの今回の一歩は、気候変動をなんとかしたいと思う人々の多種多様なアクションの中の一部であり、みんながそれぞれ起こした小さな変化が、やがて大きな変化に結びついていきます。これまでも変化は起こっています。だからこそ、これからも変化を起こしていくことができます。
これからも、グリーンピースとともに、活動していきましょう。