IPCCの海洋と雪氷圏に関する新報告書、気候変動対策の加速と海洋保護は不可欠と指摘ーーグリーンピース「前例のない行動を」
[2019年9月25日 モナコ]気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は本日、海と雪氷圏に関する特別報告書を発表しました。この報告書は、各国政府が気候の緊急事態に対処し、世界の海洋を保護する取り組みを、緊急に拡大、加速する必要性を強調しています。
約7,000の論文をもとに100人以上の主要な気候科学者によって執筆されたこのIPCCレポートは、気候変動が海洋と雪氷圏(地球の雪と氷に覆われた地域)に及ぼす影響の深刻さに関して、これまでで最も包括的な評価を提示しています。
本報告書について、グリーンピース東アジアの気候変動ポリティカルアドバイザー、テヒュン・パークは次のように述べています。
「科学が示していることは、背筋が凍るほど恐ろしいと同時に説得力があります。人為的な炭素排出が世界の海洋に及ぼす影響は、予測よりはるかに大規模に、かつ急速に発生しています。地球にもたらされる最悪の結果を防ぐために、政治は前例のない行動を求められています。
気候変動対策と海洋の回復力を高めることは連携して進めていくことが必要であり、政府も企業も解決策がなんであるか承知しています。 各国政府は化石燃料の利用を放棄するという決定的一歩を踏み出し、地球の温度上昇を1.5度未満に抑えられる削減目標を、来年までに提出しなければなりません 。同時に、 世界の海の少なくとも30%を海洋保護区として守ることができる強力な世界海洋条約(注1)を採択する必要があります」
本報告書は、地球の海洋や縮小しつつある雪氷圏に、不可逆的な変化が起きる可能性や脅威が増していることを指摘しています。北極の氷のレベルが衛星観測記録で史上2番目に少ないレベル(長期的な最小面積の平均よりも約210万平方キロメートルも少ない)に達したことなどもその表れです。(注2)
IPCCはまた、各国政府が地球温暖化の最悪の影響を緩和し、影響に対する回復力を高める助けとなるような政策的な解決策も提示しています。報告書では、現在の海洋と雪氷圏のガバナンスシステムが、行政的な境界や区域ごとの断片的なものにとどまり、効果的な海洋保護ができていないという課題を指摘しています。
海洋生態系キャンペーンの担当者、グリーンピースUKのクリス・ソーンは、 次のように述べています。
「今週の国連の気候変動行動サミットに集った世界のリーダーは、気候変動を気遣う素振りは見せました。しかし、それが気候の緊急事態に対処し、強力な地球海洋条約を構築するという野心的なコミットメントによって証明されない限り、根本的な対策を求めて世界中で気候ストライキを展開し、街頭に繰り出した何百万人もの若者たちを裏切ることになります。
このIPCC報告書は、気候危機の中をさまよっている政府を目覚めさせる新たな警鐘です。 世界の指導者が今後数年間に下す決定は、今後数世紀の人類の未来に大きな影響を与えることになります」
IPCC特別報告書のその他の知見:
- もし地球温暖化が3度を超えた場合、海面は2100年までに1メートル近く上昇する可能性があるが、世界の政府がとっている政策は、今そこに向かっている。この場合沿岸地域から何百万人もの人々が立ち退かなければならなくなる。
- 海面温度が上昇し、海洋がより酸性に傾くと、海洋生物と海洋生態系は大きな試練に直面することになる。 地球温暖化が合意された1.5度の目標に抑えられたとしても、暖水性のサンゴ礁の最大90%が失われると予測されている。
- 今世紀のあいだに広範囲にわたる永久凍土の融解が予測されている。北極・亜北極域の永久凍土には、現在の大気中の炭素のほぼ2倍に相当する1兆4600億~1兆6000億トンもの有機炭素が含まれている。
- 今世紀の終わりまでに、海の熱波(海水温がその海域の記録上も極めて高い状態が5日以上続くこと)の頻度は、19世紀の終わりに比べて50倍に増加する可能性がある(気温上昇が3〜5度の場合)。
写真はこちらから入手できます。
(注1)現在保護の枠組みのない、国の管轄権を超えた海域の生物多様性(Biodiversity Beyond National Jurisdiction:BBNJ)を保護するための条約として、現在国連のもとで2020年の採択を目指して政府間の会合が進められている。暫定的にBBNJ新条約とも呼ばれる
(注2)アメリカ雪氷データセンター( National Snow and Ice Data Center)は、2019年の北極海の氷の最小面積は415万平方キロメートルだったことを発表した。