グリーンピースポジションペーパー京都議定書の実施
国連気候変動枠組条約第4回締結国会議(1998年11月2~13日、於ブエノスアイレス)に向けてGREENPEACE Internationalが作成した「Implementing the Kyoto Protocol Greenpeace Position Paper」の日本語暫定訳(1998年11月6日、グリーンピース・ジャパン作成)
ブエノスアイレスに「賭け」られている問題とは?
ブエノスアイレスで開催される第4回締約国会議(COP4)において大きな論点となるのは、京都議定書および気候変動枠組条約の批准と、実施に向けた努力に弾みを付けるためには何をなすべきかということである。COP4では、具体的な作業を示した行動計画、その達成の明確な期限、および補助機関への明確な実行責任の配分を定めなければならない。
[INDEX]
要 旨
京都議定書の批准および実施のタイムテーブル
京都議定書の抜け道を塞ぐ
科学的裏付けを得る
排出量に関するコミットメントの適切性に関する
第2回見直し
将来の地球規模の排出削減目標を導き出すための
エコロジー的限度の策定
公正かつ公平な排出量割当システムの検討
土地利用変化と林業:吸収源
柔軟性メカニズムに関して環境的な観点から
健全な基本原則およびルールを確立する
排出量取引
共同実施
クリーン開発メカニズムを真にクリーンで
グリーンにする
不遵守制度
京都議定書における土地利用変化および林業
発展途上国の参加
要 旨
緊急の課題として京都議定書を批准、実施するためのタイムテーブル
ブエノスアイレスに集う各国大臣達が発さなければならない主要な政治的メッセージは、京都議定書を批准するということ、そして各国は議定書の条項を実施するために緊急の課題として国内的措置を講じるということである。
京都議定書は、附属書I諸国に対し、2005年までに約束の履行に関して実証可能な進展を示すよう求めている。2008年から2012年の間に求められている削減量を考慮すれば、COP4では、許容可能な最低限の実証可能な進展とは排出量を2005年までに1990年レベルと同等かそれ以下に削減することである、と定める必要がある。
第2次国別報告書の第2回集計(FCCC/CP/1998/11)では、附属書II諸国では排出量が増加し続けていることが示された。COP4では、排出量が増加している附属書I諸国は、この増加を抑える対策を緊急に講じ、削減を開始しなければならないと決議すべきである。
抜け道を塞ぐ
京都議定書の抜け道を塞いだり限定したりするという点についても、進展がなければならない。吸収源やクリーン開発メカニズム(CDM)、排出量取引、共同実施に関する実施細目の策定に対しても、抜け道対策を組み込む必要がある。
さらに、COP4では、緊急の課題として、京都議定書の排出量に関するコミットメントに国際的な航空輸送および海上輸送の燃料を含めるために必要なステップを踏み出す必要がある。新しい抜け道を許してはならない。
交渉に科学的根拠を与える
京都議定書の交渉最終段階では、さまざまな分野において、科学的考察は背後に押しやられていた。
地球規模の排出削減要件の分析の手引きとするために気候変動に対する長期、短期の限度を設定するという提案は脱落し、排出量に関するコミットメント自体も科学的な根拠なく定められ、複数の吸収源(土地利用変化および林業)の取り扱いは科学的根拠よりも政治に左右され、科学的な有効性に疑問があるにも関わらず地球温暖化係数(GWP)の使用のような方法論的問題に重きが置かれた。
COP4では、科学的根拠に根ざして京都議定書および気候変動枠組条約を議論するという基本を再び確立すべきである。
科学上および技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)の作業計画には、エコロジー的観点から見た気候変動の限度を定義する準備を含めるべきである。この限度は、第2期約束期間の排出削減に関するコミットメントを策定するために利用することができる。
環境という観点において健全な柔軟性メカニズムの原則およびルールの策定
排出量取引、共同実施およびCDMに関して、環境から見て健全な原則およびルールを設け、運用開始前に合意する必要がある。特に、2000年から開始されるCDMに関して、このような合意を形成する必要がある。COP4では、CDMに関して早まった決定をしないように注意する必要がある。
クリーン開発メカニズムを真にクリーンかつグリーンなものとする
COP4では、再生可能技術や効率の高い最終利用技術の採用が促進されるように、CDMに関する基本原則や基準を確立する必要がある。
気候変動防止と矛盾しない技術移転
COP4では、MDB貸付と条約の目的との間に矛盾が発生しないようにする努力を改めて開始しなければならない。政府の輸出保証便宜が、気候変動防止目的と一致する、エネルギーおよび輸送部門の民間プロジェクトに対して与えられるように、附属書I諸国が対策を講じるよう、COP4で具体的措置をとる必要がある。
不遵守制度についての交渉を開始
京都議定書では法的拘束力のある義務と排出量取引の使用が強調されているが、不遵守に対する罰則は定められていない。柔軟性メカニズムの始動に伴う緊急の課題として、不遵守制度に関する交渉を開始し、不遵守に対する罰則規定の策定に結びつけるべきである。
京都議定書の批准および実施のタイムテーブル
ブエノスアイレスに集う各国大臣達が発さなければならない主要な政治的メッセージは、京都議定書を批准するということ、そして各国は議定書の条項を実施するために緊急の課題として国内的措置を講じるということである。
京都議定書は、附属書I諸国に対し、2005年までに約束の履行に関して実証可能な進展を示すよう求めている。2008年から2012年の間に求められている削減量を考慮すれば、COP4では、許容可能な最低限の実証可能な進展とは排出量を2005年までに1990年レベルと同等かそれ以下に削減することである、と定める必要がある。
第2次国別報告書の第2回集計(FCCC/CP/1998/11)では、ほとんどの附属書II諸国では排出量が増加し続けていることが示された。FCCC/CP/1998/11の第17条およびその脚注には、以下のように述べられている。
附属書I諸国からの温室効果ガスの総排出量(土地利用変化および林業を除く)は、全体として、2000年には1990年レベルを約3%下回り、2010年には約8%上回ると予想される。……附属書II諸国からの排出量は、2000年には5%、2010年には13%、それぞれ1990年レベルを上回ると推定される。……
このように、ほとんどの附属書II諸国は、排出量の長期的増加傾向を逆転させて2000年までに排出量を1990年レベルに戻すために必要な政策および措置を採択するという、第4条2(a)項で定められた拘束力のある義務を実施していない。また、前述の第4条2(b)項の文中には、次のような段落もある。
予測されている2000年の二酸化炭素排出量は、ほとんどの国について下方修正された。CO2排出量の上位5カ国の中で、(13)*1 米国だけは予測を上方修正した。
この増加を抑制し削減を開始するための措置を実施するためには、早急に行動を開始する必要がある。
COP4では、以下の事柄を採択すべきである。
条約の第4条2(a)項および(b)項の義務を履行するためには、附属書I諸国が現在とっている対策では不十分である。
2000年に排出量が1990年レベルを上回ると思われる附属書I諸国は、緊急の問題として、排出量の増加を抑制するための措置を講じなければならない。
附属書B諸国は、京都議定書の発効を待たずに目標達成のために必要な政策および措置の実施とる必要がある。
締約国は、京都議定書を第7回締約国会議(COP7)までに発効させられるよう、今後2年以内に京都議定書の批准を行うことを目指す必要がある。
2005年までに実証可能な進展を得るため、附属書B諸国は、排出量を2005年までに1990年レベルと同等かそれ以下にしなければならない。
京都議定書の抜け道を塞ぐ
京都議定書の抜け道を評価したところ、議定書で求められている名目5.2%の排出削減どころか、総産業排出量および大気中への排出量の両方で1990年レベルを上回ることもあり得るという予想が示された。
問題は3種類ある。
■ 割当量の膨張*2
京都議定書の吸収源に関する条項(第3 条3項、潜在的には第3条4項も)を利用すれば、各締約国は、排出量予算を膨張させることが可能である。クリーン開発メカニズムでも、附属書I諸国の割当量全体を大幅に増加させる可能性のあるメカニズムが規定されている。
これらの問題は、京都議定書の実施細目で対処することが可能である*3。吸収源の条項もCDMクレジットも、大気中への排出量の総量をこれらを採用しない場合よりも増やす結果になると思われる。
これらの問題に対して、COP4では、以下のような対策を講じることが可能である。
第3条3項の植林、再植林、および森林減少および第3条4項の追加的行動の定義を、SBSTAが「土地利用変化および林業に関するIPCC特別報告書」を十分に検討するまで待って決定する。同報告書は2000年5月までに完成する予定である。
CDMクレジットの使用に対して量的な制限を加えること、およびCDMプロジェクトに関して安全装置の追加性判断基準に合意すること(下記を参照)。
■発生源の除外*4
京都議定書の排出量義務には、国際的な航空・海上輸送による排出が含まれていない。第2次国別報告書の第2回集計(FCCC/CP/1998/11)によれば、「これらの排出量は、1990年から1995年の間に約10%増加しており、どのようなカテゴリーよりも増加率の大きな分野の一つである」。
COP4では、以下のような対策を講じることが可能である。
SBSTAに対して、緊急の問題として排出量の割当システム案および排出量を締約国の割当量に組み入れる方法を早急に検討し、COP5で報告するよう、要請する。
■ホットエアー*5
ホットエアーは割当量を膨張させるわけではないが、採用しなかった場合よりも排出量が増える結果になる可能性はある。
COP4では、以下のような対策を講じることが可能である。
締約国が排出量取引を通じて割当量を売却、または共同実施を通じて譲渡できる量の上限(コンクリート・キャップ)を低く設定する(下記を参照)。
科学的裏付けを得る
京都議定書の交渉最終段階では、さまざまな分野において、科学的考察は背後に押しやられていた。地球規模の排出削減要件の分析の手引きとするために気候変動に対する長期、短期の限度を設定するという提案は脱落し、排出量に関するコミットメント自体も科学的な根拠なく定められ、複数の吸収源(土地利用変化および林業)の取り扱いは科学的根拠よりも政治に左右され、科学的な有効性に疑問があるにも関わらず地球温暖化係数(GWP)の使用のような方法論的問題に重きが置かれた。
排出量に関するコミットメントの
適切性に関する第2回見直し
条約の第4条2(d)項で要求されている通り、附属書I諸国の排出量に関するコミットメントの適切性に関する第2回見直しがCOP4で行われる。さらに、気候条約の実施(条約第7条2(a)項)および京都議定書の条項(京都議定書第3条9項および第9条)の見直しのためのタイムテーブルを確定する必要がある。第3条9項では、第2期約束期間の排出量に関するコミットメントの検討を2005年までに開始するようCOP/MOPに求めていることに注意すべきである。
また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2000年か2001年頃にも第3次評価報告書を作成し、COP7ではその評価結果を検討できる見込みであることにも注意しなければならない。
したがって、第2回見直しは、京都議定書で採択された排出量に関するコミットメントの適切性を見直す機会であると同時に、気候変動枠組条約および京都議定書の核となる作業の科学的根拠を再構築する機会でもあると言える。
核となる仕事とは、危険な気候変動を回避できる排出削減量を割り出し、その削減量を締約国間で公平かつ公正に割り当てるための方法を考案することである。
割当の問題は、最終的には政治的、経済的問題であるが、科学的評価技術を選択肢に有効に反映させることが重要である。
IPCCで長年主導的な役割を果たしてきた前議長、ボーリン教授は、1998年初頭、京都議定書の排出量に関するコミットメントは大気中の二酸化炭素の安定化にはほとんど役に立たないであろうと指摘した(サイエンス誌)。言い換えれば、たとえ京都議定書が完全に実施されたとしても、危険な気候変動を防止することはほとんど不可能であるということである。
よって、第2期約束期間では、附属書I諸国が第1期よりも大きな排出削減を行なわなければならないことは明らかである。また、附属書I諸国以外の締約国の排出量の増加も減らさなければならないことは明らかである。
COP4では、以下の項目を採択すべきである。
京都議定書の排出量に関するコミットメントは、危険な気候変動を防止するには不十分である。
拘束力のあるタイムテーブルを設定し、京都議定書の排出量に関するコミットメントおよび気候変動枠組条約の一般的義務を見直し、修正するためのプロセスを確立する。 排出削減と第2期約束期間に関する全体的事項についての交渉は、IPCC第3次評価報告書作成後、遅くとも2001年までに開始されなくてはならない。
今後現れてくる気候変動の兆候を考慮に入れるため、京都議定書の排出量に関するコミットメントを2年に一度見直すプロセスを確立すること。
排出削減交渉の方向性を示すために、気温上昇速度や長期的な海面上昇など、短期、長期の環境目標を定義、合意するプロセスを確立すること。
将来の地球規模の排出削減目標を導き出すための
エコロジー的限度の策定
気候変動枠組条約は、締約国に対して危険な気候変動を回避するよう求めているが、どのような変動が危険であるかについては指定していない。排出量に関するコミットメントの適切性をよりよく評価し、将来の排出削減レベルと削減の時期に関する決定に資するために、COPは、これらの限界値を策定するプロセスを開始する必要がある。
排出量に関するコミットメント、技術移転をはじめとする、今後の気候政策を定めていくためには、予防原則に基づき、エコロジー的観点から見た長期的気候変動の限度を策定することが必要である。
IPCCは、危険の定義(したがってエコロジー的観点から見た気候変動の限度の定義)を政治的な問題としている。IPCCは、危険とは何かについての判断に関連する情報を評価したり、総括したりするが、COPに対しては何の勧告も行わないことになっている。
しかし、第3次評価報告書では、変動の限界値を特定したり、生態系や食糧、農業、また人間社会に関する変化の規模や変動速度の違いによる影響を特定したりすることとなっている。したがって、COPでは、危険な気候変動であるかどうかの判断基準を定めておき、第3次評価報告書が完成した時点で報告書の検討が可能なようにしておく必要がある。
COP4は、以下の方法により、エコロジー的限度の策定を行い、地球規模の温室効果ガス排出政策を導くことができる。
IPCCの第3次評価報告書の結果も考慮し、COP7に至る、2001年末までの排出削減交渉の方向性を明示する、エコロジー的限度に関する合意に向けた作業計画およびタイムテーブルを策定する。
SBSTAに、危険な気候変動の判断基準に関する問題点などを検討すること、およびその特定のためのワークショップを1999年に開き、COP5で進捗状況を報告することを要請する。
また、IPCCの第3次評価報告書に含めることができるように、この作業の結果得られた政策をIPCCに報告するよう要請する。
この問題をCOP5の議題にあげ、その後検討を行い、最終的にはCOP7で採択できるようにする。エコロジー的観点から見た気候変動の限度となる、温室効果ガス排出量の許容範囲の計算なども含まれる。
公正かつ公平な排出量割当システムの検討
気候変動枠組条約の第4条2(d)項並びに第7条2(d)項、および京都議定書の第3条9項および第9条で求められている見直しの一環として、また危険な気候変動を回避するために十分低いレベルで温室効果ガス濃度を安定化させるという目標を達成するため、許容可能な地球規模の排出量を公平かつ公正に配分する方法について検討する必要がある。
この問題に関する交渉は、排出削減の規模および京都議定書の第2期約束期間における対象範囲に関して妥結させなければならない段階となっている。
最終決定の段階では、この問題は本質的に政治的かつ外交的なものであるが、COP4では、この問題の科学的側面および技術的側面を検討するプロセスを開始し、今後のより政治的な交渉の準備を整える必要がある。
COP4は、SBSTAに以下を要請し、エコロジー的観点から見た気候変動の限度を策定し、地球規模の温室効果ガス排出政策を導くことが可能である。
公正かつ公平な排出量割当システムを評価するアイデアやモデルの評価を開始し、今後2年間で作業を完了する。途中、COP5で進捗状況を報告する。
ブラジル提案の検討作業を継続する。ブラジル提案も、公正かつ公平な排出量割当システムの評価に関するアイデアおよびモデルのひとつとして、今後検討する。
1999年中にIPCCに照会し、第3次評価報告書に検討結果を記載してもらえるように、政策課題を掘り起こす。
ブエノスアイレスに「賭け」られている問題とは?
ブエノスアイレスで開催される第4回締約国会議(COP4)において大きな論点となるのは、京都議定書および気候変動枠組条約の批准と、実施に向けた努力に弾みを付けるためには何をなすべきかということである。COP4では、具体的な作業を示した行動計画、その達成の明確な期限、および補助機関への明確な実行責任の配分を定めなければならない。
[INDEX]
要 旨
京都議定書の批准および実施のタイムテーブル
京都議定書の抜け道を塞ぐ
科学的裏付けを得る
排出量に関するコミットメントの適切性に関する
第2回見直し
将来の地球規模の排出削減目標を導き出すための
エコロジー的限度の策定
公正かつ公平な排出量割当システムの検討
土地利用変化と林業:吸収源
柔軟性メカニズムに関して環境的な観点から
健全な基本原則およびルールを確立する
排出量取引
共同実施
クリーン開発メカニズムを真にクリーンで
グリーンにする
不遵守制度
京都議定書における土地利用変化および林業
発展途上国の参加
要 旨
緊急の課題として京都議定書を批准、実施するためのタイムテーブル
ブエノスアイレスに集う各国大臣達が発さなければならない主要な政治的メッセージは、京都議定書を批准するということ、そして各国は議定書の条項を実施するために緊急の課題として国内的措置を講じるということである。
京都議定書は、附属書I諸国に対し、2005年までに約束の履行に関して実証可能な進展を示すよう求めている。2008年から2012年の間に求められている削減量を考慮すれば、COP4では、許容可能な最低限の実証可能な進展とは排出量を2005年までに1990年レベルと同等かそれ以下に削減することである、と定める必要がある。
第2次国別報告書の第2回集計(FCCC/CP/1998/11)では、附属書II諸国では排出量が増加し続けていることが示された。COP4では、排出量が増加している附属書I諸国は、この増加を抑える対策を緊急に講じ、削減を開始しなければならないと決議すべきである。
抜け道を塞ぐ
京都議定書の抜け道を塞いだり限定したりするという点についても、進展がなければならない。吸収源やクリーン開発メカニズム(CDM)、排出量取引、共同実施に関する実施細目の策定に対しても、抜け道対策を組み込む必要がある。
さらに、COP4では、緊急の課題として、京都議定書の排出量に関するコミットメントに国際的な航空輸送および海上輸送の燃料を含めるために必要なステップを踏み出す必要がある。新しい抜け道を許してはならない。
交渉に科学的根拠を与える
京都議定書の交渉最終段階では、さまざまな分野において、科学的考察は背後に押しやられていた。
地球規模の排出削減要件の分析の手引きとするために気候変動に対する長期、短期の限度を設定するという提案は脱落し、排出量に関するコミットメント自体も科学的な根拠なく定められ、複数の吸収源(土地利用変化および林業)の取り扱いは科学的根拠よりも政治に左右され、科学的な有効性に疑問があるにも関わらず地球温暖化係数(GWP)の使用のような方法論的問題に重きが置かれた。
COP4では、科学的根拠に根ざして京都議定書および気候変動枠組条約を議論するという基本を再び確立すべきである。
科学上および技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)の作業計画には、エコロジー的観点から見た気候変動の限度を定義する準備を含めるべきである。この限度は、第2期約束期間の排出削減に関するコミットメントを策定するために利用することができる。
環境という観点において健全な柔軟性メカニズムの原則およびルールの策定
排出量取引、共同実施およびCDMに関して、環境から見て健全な原則およびルールを設け、運用開始前に合意する必要がある。特に、2000年から開始されるCDMに関して、このような合意を形成する必要がある。COP4では、CDMに関して早まった決定をしないように注意する必要がある。
クリーン開発メカニズムを真にクリーンかつグリーンなものとする
COP4では、再生可能技術や効率の高い最終利用技術の採用が促進されるように、CDMに関する基本原則や基準を確立する必要がある。
気候変動防止と矛盾しない技術移転
COP4では、MDB貸付と条約の目的との間に矛盾が発生しないようにする努力を改めて開始しなければならない。政府の輸出保証便宜が、気候変動防止目的と一致する、エネルギーおよび輸送部門の民間プロジェクトに対して与えられるように、附属書I諸国が対策を講じるよう、COP4で具体的措置をとる必要がある。
不遵守制度についての交渉を開始
京都議定書では法的拘束力のある義務と排出量取引の使用が強調されているが、不遵守に対する罰則は定められていない。柔軟性メカニズムの始動に伴う緊急の課題として、不遵守制度に関する交渉を開始し、不遵守に対する罰則規定の策定に結びつけるべきである。
京都議定書の批准および実施のタイムテーブル
ブエノスアイレスに集う各国大臣達が発さなければならない主要な政治的メッセージは、京都議定書を批准するということ、そして各国は議定書の条項を実施するために緊急の課題として国内的措置を講じるということである。
京都議定書は、附属書I諸国に対し、2005年までに約束の履行に関して実証可能な進展を示すよう求めている。2008年から2012年の間に求められている削減量を考慮すれば、COP4では、許容可能な最低限の実証可能な進展とは排出量を2005年までに1990年レベルと同等かそれ以下に削減することである、と定める必要がある。
第2次国別報告書の第2回集計(FCCC/CP/1998/11)では、ほとんどの附属書II諸国では排出量が増加し続けていることが示された。FCCC/CP/1998/11の第17条およびその脚注には、以下のように述べられている。
附属書I諸国からの温室効果ガスの総排出量(土地利用変化および林業を除く)は、全体として、2000年には1990年レベルを約3%下回り、2010年には約8%上回ると予想される。……附属書II諸国からの排出量は、2000年には5%、2010年には13%、それぞれ1990年レベルを上回ると推定される。……
このように、ほとんどの附属書II諸国は、排出量の長期的増加傾向を逆転させて2000年までに排出量を1990年レベルに戻すために必要な政策および措置を採択するという、第4条2(a)項で定められた拘束力のある義務を実施していない。また、前述の第4条2(b)項の文中には、次のような段落もある。
予測されている2000年の二酸化炭素排出量は、ほとんどの国について下方修正された。CO2排出量の上位5カ国の中で、(13)*1 米国だけは予測を上方修正した。
この増加を抑制し削減を開始するための措置を実施するためには、早急に行動を開始する必要がある。
COP4では、以下の事柄を採択すべきである。
条約の第4条2(a)項および(b)項の義務を履行するためには、附属書I諸国が現在とっている対策では不十分である。
2000年に排出量が1990年レベルを上回ると思われる附属書I諸国は、緊急の問題として、排出量の増加を抑制するための措置を講じなければならない。
附属書B諸国は、京都議定書の発効を待たずに目標達成のために必要な政策および措置の実施とる必要がある。
締約国は、京都議定書を第7回締約国会議(COP7)までに発効させられるよう、今後2年以内に京都議定書の批准を行うことを目指す必要がある。
2005年までに実証可能な進展を得るため、附属書B諸国は、排出量を2005年までに1990年レベルと同等かそれ以下にしなければならない。
京都議定書の抜け道を塞ぐ
京都議定書の抜け道を評価したところ、議定書で求められている名目5.2%の排出削減どころか、総産業排出量および大気中への排出量の両方で1990年レベルを上回ることもあり得るという予想が示された。
問題は3種類ある。
■ 割当量の膨張*2
京都議定書の吸収源に関する条項(第3 条3項、潜在的には第3条4項も)を利用すれば、各締約国は、排出量予算を膨張させることが可能である。クリーン開発メカニズムでも、附属書I諸国の割当量全体を大幅に増加させる可能性のあるメカニズムが規定されている。
これらの問題は、京都議定書の実施細目で対処することが可能である*3。吸収源の条項もCDMクレジットも、大気中への排出量の総量をこれらを採用しない場合よりも増やす結果になると思われる。
これらの問題に対して、COP4では、以下のような対策を講じることが可能である。
第3条3項の植林、再植林、および森林減少および第3条4項の追加的行動の定義を、SBSTAが「土地利用変化および林業に関するIPCC特別報告書」を十分に検討するまで待って決定する。同報告書は2000年5月までに完成する予定である。
CDMクレジットの使用に対して量的な制限を加えること、およびCDMプロジェクトに関して安全装置の追加性判断基準に合意すること(下記を参照)。
■発生源の除外*4
京都議定書の排出量義務には、国際的な航空・海上輸送による排出が含まれていない。第2次国別報告書の第2回集計(FCCC/CP/1998/11)によれば、「これらの排出量は、1990年から1995年の間に約10%増加しており、どのようなカテゴリーよりも増加率の大きな分野の一つである」。
COP4では、以下のような対策を講じることが可能である。
SBSTAに対して、緊急の問題として排出量の割当システム案および排出量を締約国の割当量に組み入れる方法を早急に検討し、COP5で報告するよう、要請する。
■ホットエアー*5
ホットエアーは割当量を膨張させるわけではないが、採用しなかった場合よりも排出量が増える結果になる可能性はある。
COP4では、以下のような対策を講じることが可能である。
締約国が排出量取引を通じて割当量を売却、または共同実施を通じて譲渡できる量の上限(コンクリート・キャップ)を低く設定する(下記を参照)。
科学的裏付けを得る
京都議定書の交渉最終段階では、さまざまな分野において、科学的考察は背後に押しやられていた。地球規模の排出削減要件の分析の手引きとするために気候変動に対する長期、短期の限度を設定するという提案は脱落し、排出量に関するコミットメント自体も科学的な根拠なく定められ、複数の吸収源(土地利用変化および林業)の取り扱いは科学的根拠よりも政治に左右され、科学的な有効性に疑問があるにも関わらず地球温暖化係数(GWP)の使用のような方法論的問題に重きが置かれた。
排出量に関するコミットメントの
適切性に関する第2回見直し
条約の第4条2(d)項で要求されている通り、附属書I諸国の排出量に関するコミットメントの適切性に関する第2回見直しがCOP4で行われる。さらに、気候条約の実施(条約第7条2(a)項)および京都議定書の条項(京都議定書第3条9項および第9条)の見直しのためのタイムテーブルを確定する必要がある。第3条9項では、第2期約束期間の排出量に関するコミットメントの検討を2005年までに開始するようCOP/MOPに求めていることに注意すべきである。
また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2000年か2001年頃にも第3次評価報告書を作成し、COP7ではその評価結果を検討できる見込みであることにも注意しなければならない。
したがって、第2回見直しは、京都議定書で採択された排出量に関するコミットメントの適切性を見直す機会であると同時に、気候変動枠組条約および京都議定書の核となる作業の科学的根拠を再構築する機会でもあると言える。
核となる仕事とは、危険な気候変動を回避できる排出削減量を割り出し、その削減量を締約国間で公平かつ公正に割り当てるための方法を考案することである。
割当の問題は、最終的には政治的、経済的問題であるが、科学的評価技術を選択肢に有効に反映させることが重要である。
IPCCで長年主導的な役割を果たしてきた前議長、ボーリン教授は、1998年初頭、京都議定書の排出量に関するコミットメントは大気中の二酸化炭素の安定化にはほとんど役に立たないであろうと指摘した(サイエンス誌)。言い換えれば、たとえ京都議定書が完全に実施されたとしても、危険な気候変動を防止することはほとんど不可能であるということである。
よって、第2期約束期間では、附属書I諸国が第1期よりも大きな排出削減を行なわなければならないことは明らかである。また、附属書I諸国以外の締約国の排出量の増加も減らさなければならないことは明らかである。
COP4では、以下の項目を採択すべきである。
京都議定書の排出量に関するコミットメントは、危険な気候変動を防止するには不十分である。
拘束力のあるタイムテーブルを設定し、京都議定書の排出量に関するコミットメントおよび気候変動枠組条約の一般的義務を見直し、修正するためのプロセスを確立する。 排出削減と第2期約束期間に関する全体的事項についての交渉は、IPCC第3次評価報告書作成後、遅くとも2001年までに開始されなくてはならない。
今後現れてくる気候変動の兆候を考慮に入れるため、京都議定書の排出量に関するコミットメントを2年に一度見直すプロセスを確立すること。
排出削減交渉の方向性を示すために、気温上昇速度や長期的な海面上昇など、短期、長期の環境目標を定義、合意するプロセスを確立すること。
将来の地球規模の排出削減目標を導き出すための
エコロジー的限度の策定
気候変動枠組条約は、締約国に対して危険な気候変動を回避するよう求めているが、どのような変動が危険であるかについては指定していない。排出量に関するコミットメントの適切性をよりよく評価し、将来の排出削減レベルと削減の時期に関する決定に資するために、COPは、これらの限界値を策定するプロセスを開始する必要がある。
排出量に関するコミットメント、技術移転をはじめとする、今後の気候政策を定めていくためには、予防原則に基づき、エコロジー的観点から見た長期的気候変動の限度を策定することが必要である。
IPCCは、危険の定義(したがってエコロジー的観点から見た気候変動の限度の定義)を政治的な問題としている。IPCCは、危険とは何かについての判断に関連する情報を評価したり、総括したりするが、COPに対しては何の勧告も行わないことになっている。
しかし、第3次評価報告書では、変動の限界値を特定したり、生態系や食糧、農業、また人間社会に関する変化の規模や変動速度の違いによる影響を特定したりすることとなっている。したがって、COPでは、危険な気候変動であるかどうかの判断基準を定めておき、第3次評価報告書が完成した時点で報告書の検討が可能なようにしておく必要がある。
COP4は、以下の方法により、エコロジー的限度の策定を行い、地球規模の温室効果ガス排出政策を導くことができる。
IPCCの第3次評価報告書の結果も考慮し、COP7に至る、2001年末までの排出削減交渉の方向性を明示する、エコロジー的限度に関する合意に向けた作業計画およびタイムテーブルを策定する。
SBSTAに、危険な気候変動の判断基準に関する問題点などを検討すること、およびその特定のためのワークショップを1999年に開き、COP5で進捗状況を報告することを要請する。
また、IPCCの第3次評価報告書に含めることができるように、この作業の結果得られた政策をIPCCに報告するよう要請する。
この問題をCOP5の議題にあげ、その後検討を行い、最終的にはCOP7で採択できるようにする。エコロジー的観点から見た気候変動の限度となる、温室効果ガス排出量の許容範囲の計算なども含まれる。
公正かつ公平な排出量割当システムの検討
気候変動枠組条約の第4条2(d)項並びに第7条2(d)項、および京都議定書の第3条9項および第9条で求められている見直しの一環として、また危険な気候変動を回避するために十分低いレベルで温室効果ガス濃度を安定化させるという目標を達成するため、許容可能な地球規模の排出量を公平かつ公正に配分する方法について検討する必要がある。
この問題に関する交渉は、排出削減の規模および京都議定書の第2期約束期間における対象範囲に関して妥結させなければならない段階となっている。
最終決定の段階では、この問題は本質的に政治的かつ外交的なものであるが、COP4では、この問題の科学的側面および技術的側面を検討するプロセスを開始し、今後のより政治的な交渉の準備を整える必要がある。
COP4は、SBSTAに以下を要請し、エコロジー的観点から見た気候変動の限度を策定し、地球規模の温室効果ガス排出政策を導くことが可能である。
公正かつ公平な排出量割当システムを評価するアイデアやモデルの評価を開始し、今後2年間で作業を完了する。途中、COP5で進捗状況を報告する。
ブラジル提案の検討作業を継続する。ブラジル提案も、公正かつ公平な排出量割当システムの評価に関するアイデアおよびモデルのひとつとして、今後検討する。
1999年中にIPCCに照会し、第3次評価報告書に検討結果を記載してもらえるように、政策課題を掘り起こす。