[イベント報告]新型コロナウイルス感染症で明らかになった一極集中型のリスク
新型コロナウイルス感染症は、人の命や社会のシステムなど今までの価値観を大きく変えました。これまでのシステムは正しかったのか、これから私たちはどう生きていけばいいのか、改めて考え直すきっかけになった人が増えたのではないかと思います。
6月30日、新型コロナウイルス感染症から見えた今の世界、そしてこれからの暮らしについて考えることを目的に、オンラインイベント「生物多様性と地域経済の専門家が語り合う、これからの暮らし#こんな社会で暮らしたい」を開催しました。
国立環境研究所で生物多様性を専門とされている五箇公一さんと、幸せ経済社会研究所所長 枝廣淳子さんをスペシャルゲストスピーカーにお迎えしました。お二人の視点が交差し、これからの暮らしへの新しい考え方やアイデアがたくさん見つかりました。
対立ではなく協調
まずは五箇さんと枝廣さんに、感染症の蔓延を受けた現在の世界や日本をどう見ているのか、お考えを聞きました。
枝廣さん
「人の移動にどれだけ頼ってきたのか、つくづく思い知らされていると感じています。文明が進化し、全体として良い方向に進んできたと多くの方が感じていた中で、新型コロナウイルス感染症が広まり、これまで通りのやり方で良かったのだろうか?と色々なレベルで問い直しが広がっています。人の移動ができなくなると、物も動かなくなるし、食べ物も動かなくなる。今まで、どれだけ人の自由な移動に頼ってきたのか、世界全体で痛感している、そんな世界かと思います」
五箇さん
「新型コロナウイルス感染症の影響で、グローバル経済の余波が見えてきたと思います。去年から、オリンピック・パラリンピックが開催されれば、人の移動がどっと起こる。そうすれば、新しいウイルス元年を迎える可能性があるだろうと懸念していたんです。ただ、オリンピックやパラリンピックの前に、こんなに強烈なウイルスが広まるとは予測していなかった。非常に強力な敵がやってきてしまった、と感じています」
枝廣さん
「日本の弱みとして出てきたのは、産業そのものを日本人ではない海外労働者に頼ってきた所だと思います。日本は極端に海外に頼るような産業構造になってしまっていた」
ここから、五箇さんが以前から指摘していた「対立ではなく協調」について、詳しく説明していただきました。
五箇さん
「コロナウイルスが蔓延して、どの国の責任でこういうことになったのか?と各国の対立構造・自国優先主義が強くなってしまっています。この構造を続けていると、世界的に広がってしまったウイルスに立ち向かっていけないんです。知性・理性を共有し、全人類でウイルスに立ち向かわなければいけない。自国優先主義という利己的な部分は一旦吐き捨てて協調しないと、自国の経済も崩れてしまいます。対立ではなく協調を取ることで、長期的に経済も回復に向かえる。この戦略に世界が目を向けてほしいです。国と国の対立が続けば、肝心な情報も流れなくなってしまい、ウイルスのコントロールも上手くいかなくなってしまうでしょう」
枝廣さん
「ウイルスは共通敵なんだから、小さいところでお互い争っている場合ではない。温暖化・海洋プラスチック汚染も同じように全人類の課題であるにも関わらず、自国主義がかなり強くなってしまっています。それに対して、新型コロナウイルス感染症はウイルスが強烈であることや感染拡大の速さから、共通敵として位置づけがしやすいのではないかと感じています」
ウイルスは全人類で解決していかなければならない、こんなに当たり前なことを私自身も忘れかけていた気がします。これからの未来、あらゆる垣根を超えて向き合っていかなければならない問題が増えていくことが予想されています。「対立ではなく協調」。誰か一人ではなく、皆が心に留めておくべき言葉だと思います。
ウイルスとの共生
ウイルスを克服することはできるのか?という今地球上の誰もが抱いている疑問について、生物多様性がご専門の五箇さんにご意見を伺いました。
五箇さん
「ウイルスは自然界になくてはならないパーツではあるけれど、新型コロナウイルスの場合はこのまま社会に置いている限り、常にそのリスクに脅かされていくでしょう。対面コミュニケーション・肌と肌の触れ合いなど、人間らしさを全部否定してしまう恐ろしい新型コロナウイルス。こういったウイルスは、人間社会にいつまでも生かしてはいけない。これからは、コロナウイルスの科学的コントロールを取りつつ、今後こういったウイルスを広めないために、本当の意味でのウイルスとの共生策は何なのかをしっかり考えていかなければならないと思います。我々は資源を取りすぎてしまったから、これ以上自然の奥地から搾取することを止めなければならない」
既存の経済システムに警鐘を鳴らしました。
エコロジカルディスタンス
人間の自然搾取について、お二人の視点をお話ししてくださいました。
枝廣さん
「これからは、『エコロジカル・ディスタンス』が大切なのではないでしょうか。人類が自然界のどこまで入って良いのか、地球は全て人間のものではないと線引きする、そういった知恵が人間に出てくるのかどうかが鍵だと感じています」
五箇さん
「人間は欲深い生き物。欲求を、循環性や持続性に向けていかなければ、人間社会そのものが持続できなくなるでしょう。ただ、今日・明日の生活も重要で、暮らしが切迫している人もたくさんいる中で、100年後の地球を考えていくのは非常に難しい部分です」
枝廣さん
「欲深さと節度、人間の持つ特性のバランスが取れるのか。そういう部分を考え直す機会になっていくと良いのではないでしょうか」
人間の特性をどうすれば良い方向に活かしていけるのか、様々な社会課題にとってかなり重要なポイントではないでしょうか。本当の意味で、人間らしさとは何か考えなければならない時期に差し掛かっていると思います。
一極集中型から地方分散型の社会へ
地域分散型社会の体制が確立ていれば、コロナ危機でここまでのダメージを受けることはなかったのではないでしょうか?現在の一極集中型から、地域社会に分散させることは現実的に可能なのでしょうか?
その答えについて、枝廣さんは「ニュー・ローカル」という考えを示しました。
枝廣さん
「今までの距離的・地理的・時間的制約を超えて、学び・つながり・ローカルのリアルをグローバルに伝え、またローカルに還元する仕組み。オンラインを利用することで可能になっていき、お金では測れない新しい暮らし方がこれから出てくるのではないでしょうか」
ただ、一極集中を完全に否定している訳ではありません。
五箇さん
「東京は文化・芸術の発信地として重要な機能を持っていて、人が集まった時に出るパワーもあるのだから、都市の機能は残していくことも重要です」と東京の都市としての意義についても語りました。
イベント後半では、地産地消について多くの議論がありました。それでは、なぜ地産地消が大切なのでしょうか。枝廣さんがお話しくださいました。
枝廣さん
「多くの方が、コロナが終われば元に戻れると思っていると思います。確かに、感染だけで考えればそうかもしれません。でも、それぞれの地域がそれぞれの地元の資源を活かして、そこで経済が回って、地域の人と思いを交換する経済社会の方が、もっと幸せだと思うんですよね。また地産地消は、『地消地産』とも言えるのではないでしょうか。それぞれの地域で必要なものをその地域で作る、ということ。暮らしに必要なものを外に頼ってしまうと脆弱なので、今回のように移動ができなくなると維持が出来なくなってしまいます。また、地域で経済が回っていく方が皆も安心だし幸せだと思うんです。そういった価値や試みがもっと広まっていくと良いなと願っています」
私たちにできること
130人を超える参加者のみなさんから、たくさんの質問をいただきました。ここでは特に私たちがこれからできることについてお答えいただいた回答をご紹介します。
Q1 個人としてできること、それがどう力になるのか?
五箇さん
「これからは地産地消!地元で回していこうという一歩を踏み出して。東京に住んでいる人は、日本という資源を優先するような生き方を考えていくことをしてほしい」
枝廣さん
「一人一人が出来ることは、自給率をつけることができないか?と考えていくこと。ベランダガーデニングや近所の人とのおすそ分けなどで、都市生活でも自給率を上げることができます」
Q2 企業、組織が取り組むべきことは?
枝廣さん
「多くの企業にはBCP(事業継続計画)に温暖化・ウイルスの項目が入っていません。これからそういった事態が起こった時に、事業をどうやって継続していくのか、ビジネスモデルを変えていけるのか、今のうちに考えていくことが重要であると思います」
未来への期待と不安
先行きがわからないコロナ危機に、モヤモヤを抱えていた参加者のみなさんからも、未来への期待を感じさせる感想をいただきました。
「今までは、”ワクチンさえできたら元の世界に戻るでしょ” と考える人に対して、上手く回答することができていませんでしたが、コロナウイルスが意味していることをより深く理解することができました。地域分散型のレジリエンスのある、ゆとりを残した未来の必要不可欠さを理解でき、これから進んでいく先とその理由が明快になりました」
「COVID-19を軽視・楽観視したい風潮・願望もあるなかで、慎重に自分を動かしていることを肯定してもらえた感じがして、安心感を覚えました。まずは慎重に動いてる人に同じく安心感を感じてもらえるように、意識的に寄り添っていきたいです」
コロナ禍が収束したあと、私たちはどんな社会を再構築して行くのでしょうか。これからの未来に少し緊張しています。五箇さんと枝廣さんの視点や考えに触れて、今が大きな分かれ道であると改めて感じました。私個人としては、地元の食材を意識的に摂取すること、自給率をつける一歩として、近所に住んでいる方とのおすそ分けを実践していきたいです。