時代とともに人はより長い距離をより速く移動する術を手にし、さらにその技術を発展させ続けてきました。

私たちは世界中を旅し、会えるはずのなかった人と出会い、遠く離れた場所で生産されたものを手にし、世界が繋がっていることを強く実感できるようになりました。
社会の発展はモビリティの発展と切っても切り離せないものです。

しかし今、世界にはこれまでとは明らかに深刻さの異なるアラーム音が鳴り響いています。気候変動の岐路にあって、車を始めとする移動手段のあり方にも大きな転換への決断が必要です。

今一度なぜ車が存在しているのかを問い直し、選び取るべき道をしっかりと見定めなければなりません。

大きな転換期を迎えている車の未来

人や物を運び送るために排出される二酸化炭素量は何年にも渡って着々と増加し続けています。

2020年度の日本における自動車やその他の交通機関が排出した二酸化炭素量は1億8,500万トンとなり、これは全体の10億4,400万トンのうち、17.7%を占めました。そのうち9割近くは自動車が排出した二酸化炭素です※1

IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化を1.5度以内に抑え、最悪の気候災害を防ぐために、2050年までに運輸部門の温室効果ガス排出量を90%削減することが必要であると発表しています※2

気候危機を回避するためには二酸化炭素の排出量を減らさねばならず、自動車の未来を正しく選ぶことは、地球の未来のために絶対に欠かせません。

もしも「環境よりも経済」、「命よりも利便さ」というように、優先すべきものを見誤り、間違った選択が行われてしまえば、私たちが失うものは人類の未来そのものであるかもしれないのです。

これほど車の未来を真剣に考えることが必要とされる時はありません。

世界の自動車台数が大幅に増加する可能性

世界で道路を走る車の台数変化の予測
参考:https://www.statista.com/chart/26237/car-use-by-continent/

現在、世界の自動車の新車販売台数は、半導体の不足や、ロシア政府によるウクライナへの侵攻、欧米を中心にした物価高などの影響で減少傾向にあります※3北米とヨーロッパをはじめとする先進国では2050年までに自動車の使用者数が減少し、新車販売台数が飽和状態になるという予測もあります。

しかし、その一方で中国やインドなどの人口が増加を続ける新興国での新車販売台数は、GDPの伸びとともに増えると考えられています。

国際エネルギー機関IEAは、インドの自動車保有率が2040年には2016年の8.8倍にまで拡大し、人口1,000人当たりの自動車保有台数が、20台から向こう24年間で175台にまで増えると予測しています※4

また、アジアでは交通手段として自動車がさらに普及し、車を利用する人の割合が2015年の28%から今後30年間で40%以上にも増加する可能性が指摘されています。

それは都市部と地方間のインフラ不平等によるもので、日本も例外ではありません。地方の公共交通の衰退が自動車がなければ生活が困難になる人たちを増やす可能性があるのです※3

こうした新しい自動車需要の高まりによって、世界の新車販売台数は2040年には高く見積もって1.3億台と、大きく増加する見通しがあり※5、世界の道路を走る自動車の数が30億台を超えるという予測もあります※6

先進国で少子高齢化の進行によって自動車台数が減っても、新興国での人口とGDP増加にともなう自動車台数の増加、さらに地域のインフラ格差が自動車需要を高めることで、総合的に車の数は大きく増える可能性が高いのです。

ゼロエミッション車と未来の二酸化炭素排出量のシミュレーション

予測される自動車市場の拡大を前にして、脱炭素実現の鍵を握るゼロエミッション車への転換に目を向けてみると、日本は残念ながら大きく乗り遅れている状態にあります。

ゼロエミッション車にシフトしないまま、販売自動車数が増えれば二酸化炭素排出量に影響してしまうことは避けられません。

ここで、グリーンピースの調査報告をもとに、3つの未来にわけた車から出る二酸化炭素排出量のシミュレーションをみてみましょう。

未来のシナリオは以下の3つです。

シナリオ(1)
先端技術を導入して、燃費向上とバッテリー式電気自動車を主としたEV化を積極的に進め、ゼロエミッションでない車(ガソリン車、ディーゼルICE車、プラグインを含むハイブリッド車)の新車販売を2030年までに廃止した未来

シナリオ(2)
燃費向上と新しい動力源の展開を進め、2035年までに、ガソリンもしくはディーゼルICE 車の新車販売を廃止し、それ以降は更なる変更を行わない場合。つまり、現在の政策のままの未来

シナリオ(3)
2021年以降、燃費技術の展開や、新車販売構成を変えず、消費者の車の買い替えにともなう燃費向上だけに頼って、積極的な環境配慮を行わない未来

(1)の未来では、新しく販売された車の平均二酸化炭素の排出量は2025年以降、急速に減少、2030年にゼロエミッション以外の車が廃止された後はゼロとなります。

続いて(2)の未来では、平均排出量は2035年になっても走行1kmあたり37gまでしか削減されず、その後も2045年まで数値は変わりません。これは、排ガスをまったく出さないわけではないハイブリッド車とプラグインハイブリッド車の販売終了期限が明示されていないことが原因です。

道路を走るすべての車の平均排ガス量を見ても、(1)では道路を走る車全体の年間二酸化炭素排出量が2050年には(3)の未来と比べて99%減少、(2)の未来と比べても97%と著しく減少していることがわかります。

少数の古いガソリン車やディーゼルICE車、ハイブリッド車が廃車されずに残ることを計算に入れても、新しく販売する車をゼロエミッション車に限ることで結果には大きな差が現れます※7

世界の保有自動車数が30億台に至る可能性が指摘される今、この差が環境破壊を加速させる致命的な違いとなってしまうことは明白です。

持続可能な車社会を実現するために

グリーンピースの報告書で世界の自動車メーカーの中で気候対策への取り組みで2年連続最下位となったトヨタ。グリーンピース・ジャパンは、トヨタの年次総会に際して、バナーを掲げて化石燃料車の生産中止と気候保護を呼びかけた。2022年6月撮影

「市場に乗り遅れられないから」、「マーケットを牽引するべき」、そうした理由はゼロエミッション化へ舵を切る本質的な理由にはなりません。車も経済も、それと引き換えに環境を破壊し、地球を人が生きられない状態にしていいほど重要なものではないからです。

しかし、実際にゼロエミッション車へのシフト、環境政策への投資は、新たな職を生みだし、日本の自動車メーカーを世界の自動車産業のけん引役へと位置付け続ける可能性を持っています。

さらに、グリーンピースの国際運輸キャンペーン担当者バーバラ・ストールは正しい未来設計が行われれば、電気自動車は再生可能エネルギーと密接に連携し良い相乗効果をもたらすことができると指摘します※8

その中でゼロエミッションへの転換にブレーキをかけようとすることは、車がなければ生活に支障をきたす人が増えてしまうかもしれない今、車を必要とする人に社会生活と引き換えに気候危機への加担を強いるようなもの。

日本の自動車メーカーにも、より環境負荷の低いゼロエミッション車を中心としたサステナブルな生産計画への迅速な移行を決断してもらう必要があります。

エンドユーザーとしての私たちの意見を企業を動かすために使いましょう。あなたの声でグリーンピースと一緒に企業の背中を押してください。

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