1月15日、軽質原油コンデンセート11万1千トンを積んでいた石油タンカー「Sanchi」が日本近海で沈没しました。正確な流出量を知ることは不可能ですが、コンデンセートがこの規模で流出した例は過去にありません。

1月27日頃、鹿児島県トカラ列島の宝島に油のようなものが流れ着いているという住民の方の報告があり、メディアが一斉に報道を開始しました。その範囲はいま、奄美大島や喜界島、徳之島、沖永良部島まで拡大しているようです*1。

海の生態系や、住民の人々への影響はどうなのるか、不安に思っている方が多いと思います。 そこで、グリーンピース・インターナショナル(本部)がもつイギリスのエクセター大学にある研究所、サイエンスユニットのポール・ジョンストン博士が現状からわかる範囲でお答えします。

(写真:グリーンピース・インターナショナル サイエンスユニットのポール・ジョンストン博士)

宝島に流れ着いている油はなに?

英国立海洋学センターのシミュレーションモデル*2で、宝島は、タンカー事故の影響を受けるリスクの高い地域と予想されています。現時点で宝島付近の海に漂流している油は、報道資料*3を見る限り、沈没した石油タンカー『Sanchi』による可能性が高いです。それはおそらく、海水と混ざり乳化した燃料油(重油)、もしくは、コンデンセートに含まれる重い残留物と思われます。

浜に打ち上げられている黒い塊は、重油の固まったもの、いわゆるタールボールと呼ばれる物質の可能性が高いです。

しかし、これが石油タンカー『Sanchi』のものかどうか証明するには、”指紋認証”のように、タンカー沈没地点で浮遊している燃料油の採取サンプルと照合分析をしない限り、確かめるのは不可能です。

 

海の環境への影響は?

最終的な規模の大きさを予測するのは不可能に近く、それに伴う環境への影響は予測不可能です。海洋哺乳類やウミドリは、漂流している油に曝露するリスクが高く、魚も汚染される可能性があります。

現時点でこの事故の影響で死んだ魚は確認されていませんが、魚類や他の海洋生物が、重油が含む有害物質である炭化水素に曝露し、有毒性の影響を受ける恐れがあることに疑いの余地はありません。

海洋哺乳類は原油を体内に取り組むことで腸や肝臓を傷めやすく、影響を受けないことは難しいでしょう。その有毒性は現時点では亜急性もしくは慢性のものとなっていると思われます。油の流出による影響は、その種類、量、経過時間および発生場所によって各々異なってきますが、良い油流出などあるはずもなく、悪影響の種類に多少の差があるだけです。

人への影響は?

重油であるタールボールには、多環芳香族炭化水素(PAHs)などの炭化水素といった有害物質が含まれますので、漂着した油の塊に有害物質が含まれるか調査をする必要があります。
コンデンセートには硫化水素などの有毒成分が含まれており、その揮発により大気汚染が引き起こされます。 さらに、これらの化学物質の燃焼および分解プロセスにおいて、一酸化窒素、二酸化窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物などの汚染物質が発生し、人が吸入したり皮膚に触れた場合に有毒となる可能性があります。
油の除去作業にあたる全ての人々は、有毒物質への曝露を防ぐために適切な防護具を装着しなければなりません。危険が伴う作業ですので、訓練を受けていない人々が除去作業に当たることはお勧めしません

影響をおさえるため、いまできることは?

事故の規模やその影響を測るために、視覚的かつ科学的な監視体制を強化する必要があります。そして、流出油が陸地に漂着することを防ぐために、機械による回収法をとることが最優先です。流出油に化学分散剤を用いることは最後の手段で、避けなければなりません。化学分散剤と蒸気による除去作業は、実際には有毒性やその影響を拡大させてしまう傾向があるためです。 海岸を汚染する流出油を除去するためには、機械による回収が最もダメージが低い方法です。

 

今後汚染は、どの程度広まるの?

実際に流出した油の量が把握できず、正確なデータが欠けているため、影響を判断することは予測不可能です。海上で、流出の影響について、監視を日々続ける必要があります。
ネット上では、英国立海洋学センターのシミュレーションモデルに基づき、ロイター通信が作成したインフォグラフ*4が話題になっています。そのインフォグラフを見ると、3カ月以内に、日本の広範囲の沿岸に油が到達すると伝えています。
重要なポイントは、このモデルは重油やコンデンセートではなく、約6000個の仮想”粒子”がタンカー沈没地点からどのように移動するかを予測したものということです。
恐らく、海に流出するとタールボール(油塊)に細分化される重油の動きに最も近いと言えます。全体として、このモデルはタンカーからの汚染水がどのように動くかを示すもので、実際の汚染のレベルを予測することはできません。
石油は、日本に到達するまでに、分散、蒸発、減成、希釈して薄まることが予想されますが、このことは、同モデルでは考慮に入れられていない、ということを留意する必要があります。
・事故によりこれまでに流失および今後流失が予想される油の量はどれくらいか
・短期的および中期的なモニタリングや状況分析の計画、影響を抑えるためにどのようなことが計画されているか
・どの省庁・行政機関が今回のような海洋汚染に関して、対処計画を作り、実行する責任があるのか
・漂着物による環境への影響について責任をもつのはどの省庁・行政機関で、この件についてどのような対処が検討されているか

グリーンピースは、政府に対して何をしてるの?

現在、海上保安庁と環境省に対して、下記のポイントなどについて質問状を送っています。また、影響の拡大を防ぐため、日本政府が除去作業を迅速に行うこと、視覚的かつ科学的な監視体制を強化するを提起しています。


また、回答が得られ次第、情報を共有していきます。

グリーンピース・ジャパン 広報チーム
*1 毎日新聞「原油流出1カ月、日本への影響は 被害懸念」(2月6日)
*2英国立海洋学センター「Sanchi Oil Spill ocean model simulation」(1月16日)
*3 朝日新聞「油状固まり7キロ、鹿児島・宝島に タンカー事故関連か」(2月1日)

*4 http://fingfx.thomsonreuters.com/gfx/rngs/CHINA-SHIPPING-SPILL/010060NC166/index.html

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