「桜が見られなくなる?」温暖化が変える日本の四季
日本の春を彩るソメイヨシノの開花に異変が起きています。温暖化を一因として桜の開花時期が年々早くなり、生育に適さない地域が拡大する可能性にも警鐘が鳴らされています。今年の開花全国予想トップは名古屋で3月22日。多くの地域で、入学式頃には葉桜となっていることが予測されます。日本の桜に何が起きているのでしょうか。
愛される日本の桜 ソメイヨシノ
春の訪れを感じさせる風物詩の代表といえば桜です。日本には、多くの種類の桜が生育しており、中でもソメイヨシノが一斉に開花する様子は日本のみならず世界からも熱い注目を集めています。桜には野生種、栽培品種をあわせると300にものぼる種類があるといわれますが*、日本で桜といえば多くの場合それはソメイヨシノを指します。
ソメイヨシノは江戸時代後期から明治初期にかけて、「染井の吉野桜」として、江戸染井村(現在の東京都豊島区駒込付近)の植木屋が販売したことが起源であるとされ、その名前が初めて文献に登場するのは1900年のことです*。
日本に存在するソメイヨシノは基本的に遺伝子が同一のクローンであるため、すべての株はほとんど同時に開花します。また、葉より先に花だけが開く性質も相まって、その淡い薄桃色の花弁が見渡す限り満開となる様子は実に見事なものです。
各地でのソメイヨシノの開花は、天気図の前線のように線状に南から北に向かって進み、桜前線と呼ばれます。桜前線の及ぼす影響は経済的にも大きく、開花時期には海外からの観光客も増加。コロナ禍の行動制限が緩和された2023年春の花見時期2カ月の国内経済効果は、約6160億円にのぼりました*。
開花時期、40年で約1週間早まる
多く人に愛される桜ですが、近年開花日に異変が起きています。東京での記録をさかのぼると、1960年から10年間の開花日の平均は、3月30日でした*。東京の標本木*の記録を見ても、1953年の観測開始から1990年までは3月下旬から4月上旬の開花です。開花から1週間くらいで満開を迎えて、その後の約1週間が見頃になると考えると、ちょうど入学式シーズンと重なります。
*気象庁の生物季節観測で、開花日などを観測するために定められた草木
2001年からの10年では、3月中旬に開花となる年も出現し、開花日の平均は1960年代と比べて約1週間早まって、3月22日となりました*。現在では桜は多くの地域で入学式を彩る花とはいえなくなっています*。
民間気象会社「ウェザーマップ」の3月18日の発表によると、今年の開花は名古屋で3月22日、東京都心で3月24日、仙台で3月29日と予測されています。関東から西では平年並みかやや早め、北日本では平年より早くなる見込みです*。
地球温暖化と桜の関係
開花時期が早くなっている原因の一つは、気候変動による地球温暖化です。気温が上昇し、春暖かくなる時期が前倒しになることで花芽の動きが早くなり、開花時期が早まっています。しかし、このまま温暖化が進んだ場合に、桜の開花時期もこのまま早まり続けるのかというと、話はそれほど単純ではありません。
ソメイヨシノの花芽は、開花の前年の夏にすでにつくられています。そのまま咲いてしまわないよう、秋から冬にかけては枝先で冬眠を迎えています。眠っていた花芽は冬季の厳しい冷え込みに一定期間晒されることで、休眠から目覚める「休眠打破」を迎えます。
その後、気温が上昇して開花するのが桜が咲くまでの過程です。ところが、温暖化がさらに進むことで、冷え込みが十分でないために休眠打破が起こらない可能性が出てくるのです。
桜が咲かない未来
これまで、日本国内でも、温暖な気候を一因として、奄美大島以南はソメイヨシノの育成に適していませんでした。そして、温暖化にともなって、桜の育成に適さない範囲は徐々に北上すると考えられています*。
地球温暖化の桜の開花への影響をシミュレーションした研究では、2032〜50年、2082〜2100年の期間、南九州を中心にした広範囲で、桜が開花はするも満開にならないという結果が報告されました。さらに、開花の南限が北に拡がり、種子島や南九州では、桜が開花しない地点が発生することが指摘されています*。
春になれば桜が花を咲かせる。文化や精神性と強く結びつき、当たり前に受け入れられてきた四季の光景の一つが脅かされています。
満開の桜を見るために来日する海外からの旅行者にとっても、桜が開花してから散り始めるまでの10〜14日間を予測することはより難しくなりました。
四季を愛するからこそ
日本には、その季節にしか見られない四季折々の景色が多くありますが、今、桜のみならず紅葉や雪景色など、美しい季節の景色の訪れが気候変動によって変貌しつつあります。
桜の異変は環境から私たちに向けられたSOSのメッセージです。温暖化の最大の原因は石油や石炭など化石燃料の燃焼などによって排出される二酸化炭素ですが、日本は現在も化石燃料を多く使い続けています。
私たちは石炭火力発電から脱却し、再生可能エネルギーを拡大させ、省エネをさらに進めていく必要があります。それは桜を深く愛する心を持つ市民としての選択と重なります。桜や四季への格別な思いは、気候変動への強い意識、具体的な行動として表すことができるはずです。
桜が春に花を咲かせる自然の仕組みは、このまま何もしなければ気候変動によって壊されてしまうでしょう。四季を守るためのアクション、環境を守るための行動を一緒に選びましょう。