「菅首相から、2030年温室効果ガス削減目標を2030年比46%にするとの発表がありました。私はこの数値を聞いた時、みなさん方大人に、『あなたたちの命と未来はいらない』と宣告されたように感じました。絶望しました。このNDC46%という目標は、気候危機から国民の命を守るという責任を放棄したように思います」

高校生や大学生を中心としたFridays for Future Japanのメンバーが、日本の新しい温室効果ガス削減目標が発表された翌日の4月23日、国会に参考人として出席し、こう訴えました。

学生たちが、ここまで危機感を訴えるのには、理由があります。

気候変動に関する研究機関が集まった共同プロジェクト「Climate Action Tracker」は、地球の平均気温上昇を1.5度までに抑えるためには、日本は2013年比で62%削減しなければならないと発表しています。

そもそも「国別削減目標(NDC)」とは?

2015年のパリ協定で、地球の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて2度までに抑え、できるかぎり1.5度未満を目指すことが合意されました。各国がどのくらい温室効果ガスを減らして国際目標に貢献するかを決めるのが、2030年までの温室効果ガスの削減目標、NDC(Nationally Decided Contribution  自国が決定する貢献)です。

日本は、2030年までの削減目標として、2013年度比26%減という目標を立てていました。

しかし、それでは到底気候危機回避に貢献できず、世界第5位のCO2排出国、すべての温室効果ガスを合わせても世界7位の排出国である日本には、より高い貢献が求められ、日本の市民社会だけでなく、世界からも批判の声が上がっていました。

グローバル気候マーチで温暖化を1.5度に抑えるための対策を求める学生たち。(2019年9月)

温暖化で平均気温が2度上昇すると何が起きる?

しかも、各国が掲げていた温室効果ガスの削減目標が実現できた場合でも、2100年には地球の平均気温は産業革命前と比べて2.3度から2.6度も上昇してしまうと予測されています*。そして、今までにすでに1.2度上昇してしまっています。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の研究では、2度上昇した場合、1.5度に抑えられた場合と比べて、熱波に襲われる人の数がさらに4億2000万人増え、海面上昇の被害を受ける人が最大1000万人増えると言われています。

豪雨に襲われた熊本県人吉市。(2020年7月)

46%減の新しい目標は、高い?低い?

そんな中、新たな削減目標が示されたのが、温室効果ガス排出大国が集まり、4月22日と23日の2日間にわたって行われたアースデー気候サミットです。

日本政府は、2030年までに、2013年と比べて46%減らすという新しい目標を発表しました。

小泉環境大臣が削減目標を50%程度まで引き上げるのを目指していたのに対して、梶山経産大臣は、自動車や鉄鋼産業の国外流出を恐れて、慎重な姿勢を見せたと報道されています*。46%削減が十分であるという科学的根拠は示されておらず、達成のための具体的な実行策も、まだ提示されていません。

Climate Action Trackerによる計算では、温暖化を1.5度に抑えるには、日本の場合2013年度比で62%減らすことが必要としています。気候変動の影響から私たちの暮らしを守るためには、さらに目標を上乗せすることが求められます。

イギリスは、1990年比で78%削減する(2035年まで)と発表し、EUでは1990年比で55%以上削減することを法制化しました。アメリカの削減目標は、1990年比では45%削減です。対して日本の目標を1990年比で換算すると、40.3%削減です。

気候アクティビスト/モデルの小野りりあんさんとDEPT代表/アクティビストのeriさんが、国会前で自然エネルギーへのシフトを呼びかけた (2021年4月)

こうすればできる!

2013年度と比べて46%、さらには62%減らすために、できること・すべきことは、もうすでに明らかになっています。ひとつずつ見ていきましょう。

1. 徹底的な省エネ

まずは、エネルギーの高効率化です。エネルギー効率を高めることでそもそも使うエネルギーを減らすことが欠かせません。

  • 新しく建てる住宅、建築物ネットゼロ・エネルギー(断熱など省エネ、太陽光/熱利用などエネルギー高効率化を徹底して二酸化炭素排出実質ゼロ)にする
  • すでにある建築物の断熱改修とエネルギー高効率化をはかる
  • 工場の機械(モーターや空調、照明など)を省エネ機器へ更新、排熱を利用する
  • 家庭で使う機械(冷蔵庫、洗濯機、テレビなど)を省エネ機器へ更新する
  • 発電所はできるだけ使う場所の近くに建てて送電線ロスを削減する

これらを、行政・企業・市民が協力して進めていくことが必要です。

2. 自然エネルギーを主力電源に

自然エネルギー主力電源化は政府も掲げていますが、実現させることは必須です。

世界の多くの地域で自然エネルギーは最も安価な電力源*で、多くの国ですでに主要なエネルギーとなりつつあります。

日本には、自然エネルギー資源が豊富で、環境省は、日本には国内のエネルギー需要の最大約1.8倍にもなる自然エネルギー供給力(1.8兆kWh)があると推計し、今後日本の電力消費量が増えたとしても、私たちの電力需要を十分に満たす自然エネルギー導入が可能だと発表しています*

タイの病院の屋根に設置された太陽光パネル。都市でも民家やビル、公共施設の屋根などのスペースを活用することで発電することができる。2020年1月

日本でも、環境に配慮しながら、国内の自然エネルギーのキャパシティを持て余すことなく発電設備を増やしていくために、規制を改革することが必要です。

家庭やオフィスで使う電気を自然エネルギーに変えることは今すぐにできることです。価格も変わらなくなっており、安くなる場合もあるくらいです。詳しくはパワーシフトのホームページをご覧ください。

3. 環境ビジネスを優遇する具体策

例えば、アメリカのバイデン政権は、「化石燃料への補助金制度廃止を支持」を選挙戦から掲げ、「環境対策を中心とするインフラ投資計画」を既に打ち出しています。

このように政府が明確に政策を示して環境ビジネスを主導することにより、企業や投資家は市場規模拡大を容易に予測できるようになり、政府の政策にあわせた新事業に取り組んだり、事業を拡大しやすくなったりします。

日本政府も、2030年までに46%減、そして2050年までに温室効果ガス実質排出ゼロを目指した政策を示すことで、企業がそれぞれの環境政策を見直し、企業の国際市場での競争力を強化し、自然エネルギーへの移行のための技術導入を主導することにつながります。

もちろん、雇用のジャストトランジション(公正な移行」も用意しなければなりません。国際労働機関(ILO)は、環境に配慮した経済のための政策を推し進めることで、2030年までに6,000万人の雇用を創出する可能性があると試算しています。これは、気候変動の影響で職を失う人をはるかに上回る雇用数です。

福島県三春町のコミュニティショップの屋根にソーラーパネルを設置する作業員 (2016年1月)

4. 自動車など炭素を大量に排出する産業の改革

気候変動の最大の原因は化石燃料燃焼ですが、大量の化石燃料を使用している重工業や鉄工業、電気業のすべてと携わっている自動車産業が、脱炭素することは、非常に重要です。

世界規模のサプライチェーンを持ち、日本の経済の重要な柱でもある自動車産業の動きは、世界中に大きな影響を与えます。

欧米の国々が電気自動車(EV)に力を注ぎ、ガソリン車(ICE、内燃機関車)の新車販売中止を決める一方、日本の自動車産業は、まだその波に乗ることができていません。

そもそも、単純に車の技術を進化させることより、歩きや自転車、公共交通機関で食料品店や役所、図書館、病院などにいける都市設計など、私たちの交通手段や街作りそのものを、改めて考えていく必要があります。

この短いアニメーションでは、食料品店、病院、役所、図書館など生活に必要な場所に、15分以内で、車を使わずにアクセスでき、リモートワークなどが定着して長時間の通勤が必要のない、”15-minuts city”というコンセプトを紹介しています。

今私たちができること

報道では、政府は2013年比50%減に引き上げることも視野に入れて、検討を継続するとしています。

今年は総選挙も控えています。政府が、目標をさらに引き上げ、着実に温室効果ガス削減を実現するために、私たち市民の声を見えるように、届くようにして、気候変動対策を重視していると伝えることが、これまで以上に大切です。ぜひこのブログを周りの方にもシェアしてください。そして、署名で、原発なし・自然エネルギー100%でCO2を達成することを求めて、声を届けてください