自然の気象現象でおきる台風に、人々は何世紀にもわたって備え、くらしを守ってきました。しかし、気候変動によって台風の発生状況が変化し、私たちに与える影響もより甚大になってきました。気候変動が私たちにどう影響するのか、そして激化する台風から命を守るためになぜ今年のCOP26がなぜ重要なのか、解説します。
地球を覆う台風 – 衛星写真

新幹線の平均速度に相当する時速250キロ以上の強風。生活や生命を一瞬にして奪うこともある地滑りや土砂崩れを引き起こす極端な大雨。沿岸地域全体を飲み込む高潮。

台風の破壊力は絶大で、命の危険にもつながります。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書では、台風を地域別に調査しています。東アジアでは、次のように述べられています。

「強烈な熱帯低気圧の発生率と数が増加しており、熱帯低気圧の軌跡は極方向に移動している可能性が高い」

このIPCCの報告書の引用には、重要なポイントが3つあります。最新の科学情報をもとに、この現象が何を意味するのか?なぜ起きているのか?そして私たちは今何をすべきなのか?解説していきます。

IPCC:”強烈な熱帯低気圧の発生率は増加”

解説:

西太平洋(東アジアや東南アジア周辺の海の部分)で発生する台風の年間平均数が大きく変化したという確固たる証拠はありませんが、平均して台風は強くなっています。2016年に発表された研究によると、東アジアや東南アジアを襲う台風は、1970年代後半から12~15%強まっていることがわかりました。

熊本県人吉市を襲った豪雨で多くの人家が被害を受けた。(2020年7月)

IPCC: “強烈な熱帯低気圧の数は増加”

解説:

同じ研究で、カテゴリー4とカテゴリー5*の台風(持続風速がそれぞれ209km/時と252km/時以上の暴風雨)の数が、1970年代後半から少なくとも2倍になったこともわかっています。台風の数には大きな変化がない一方、東アジア・東南アジア地域では、猛烈な台風やスーパー台風の割合が倍増しています。

東アジアだけを見ても、1970年代後半から激しい台風やスーパー台風が年に1個以下だったのが、4倍近くに増えています*。また、全体の台風数に占める割合も、約20%から60%へと急増しています。つまり、全台風の半数以上が、最も破壊的なカテゴリーのものになる可能性が高いということです。

*アメリカの強度分類

IPCC:”熱帯低気圧の軌跡は極方向に移動している可能性が高い”

解説:

これを言い換えると、「台風の発生場所が変わりつつあり、その行き先も変わりつつある」ということです。

台風の発生場所、つまり最初に形成される場所が、北(北半球の場合)へ移動しています。そして、いったん発生した台風は、より頻繁に北西方向のルートを辿るされるようになっています。これには3つの主な結果があります。

  1. より高緯度で台風の強度がピークに達する
  2. 陸地に上陸したときの強度が高くなる可能性が高い
  3. 中国本土、韓国、日本に上陸する頻度が高くなり、香港や台湾に上陸する頻度は低くなる

このような移動を記録したこの研究は、気候変動が今後こうした変化を増幅させる可能性があることも警告しています*

ハリケーンや台風がピーク時の強度になる位置が赤道から北方向へ移動している。

なぜこのようなことが起こるのか?

気候科学は複雑ですが、これらの変化の少なくとも一部は、気候変動によって海が温められていることが原因であるということで、十分な合意が得られています。

前述の研究では、海面温度を追跡調査し、1977年から2013年の間に、東アジアと東南アジアの近海では海面温度が大きく上昇していることがわかりました。しかし、太平洋の中央部では、その上昇はずっと小幅でした。台風の勢力も、東アジアや東南アジアでは明らかに強まっていますが、外洋ではほとんど変わっていませんでした。

より簡単に説明をすると、温かい海はより大きなエネルギーを持っていると考えることができます。そのため、温かい海の上で台風が発生すると、その余分なエネルギーによって台風がより強力になるのです。

2020年8月、台湾の南部でサンゴの白化現象が広がった。海の温暖化によってサンゴの白化が進むとともに、台風がよりエネルギーを増す。

これがなぜ重要なのか?

台風の勢力が強ければ強いほど、上陸したときの被害も大きくなります。木がなぎ倒され、建物が破壊され、街が洪水に見舞われ、村が土砂崩れに埋もれ、計り知れない損失を被ることになります。農産地が被害に遭えば、食料生産にも直結します。

台風は、経済的にも人命的にも甚大な被害をもたらしています*。1970年から2019年の間に、アジアでは、地震や津波を含まない気象・気候関連の災害によって約100万人の命が失われ、2兆ドルの経済的損害が報告されています。これらの災害のほぼ半分は洪水で、3分の1以上は暴風雨によるものでした。

2021年7月、静岡県熱海市に降り続いた長雨が、土砂崩れを引き起こした。 Photo by Charly TRIBALLEAU / AFP

私たちに何ができるのか?

10月31日から11月12日まで、スコットランドのグラスゴーで、気候変動に関する大きな世界サミットであるCOP26が開催されます。 IPCCの第6次評価報告書*によると、物理的にはまだ、温暖化を1.5℃までに抑える目標に手が届くものの、炭素排出量を実質ゼロにし、その他の温室効果ガスも削減する必要があることが確認されました。

これこそが、今、私たちがすべきことです。

今こそ、気候変動とは何かを知り、気候変動が私たちに何をもたらすかを知り、世界のリーダーたちが気候変動を抑えるための緊急の行動を起こす重要な時です。

各国政府は大幅に、そして迅速に、化石燃料を削減することを合意しなければなりません。気候危機の最悪の事態を避けるためには、9年後の2030年までに世界の排出量を半減させなければならないからです。

危機を回避するだけでなく、再生可能エネルギーなどグリーンな産業によって雇用を創出することや、経済的に発展途上の国や地域のカーボンニュートラル達成を支援することで、より公平な世界経済を実現することも重要です。

このまま大きな行動を起こさないままでいると、将来的に、人類が地球上で安全に暮らし続けるためのコストは指数関数的に増加し、もはや不可能な段階に到達してしまうでしょう。

グラスゴーでのCOP26を前に、”気候正義のためのグローバルマーチ”が開催され、多くの人が気候変動対策を訴えた。(2021年10月) REUTERS/Guglielmo Mangiapane/File Photo

COP26は人類の未来のための国際会議

このブログでは、辛口の科学論文やデータを引用してきましたが、私たちの気象に起こっていることは、どれも単なる学術的なものではありません。今まさに起きていることなのです。

例えば、このブログを書いている間にも、台風20号が小笠原諸島を襲っていました*。小笠原諸島の父島では、わずか半日で雨量が100ミリを超え、平年10月ひと月分の雨量を超えました。小笠原諸島の父島では、未明に北東の風、最大瞬間風速36.3メートルを観測しました。気候危機の影響はすでに来ています。

本格的な気候危機の暴走を食い止めるために、私たちにはあと10年も残されていません

“私たち人類の未来のための国際会議”と言えるCOP26の動向に、ぜひ注目してください。

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