新型コロナウイルスと同じように、ウクライナでの戦争は、私たちの食料システムがいかに不安定であるかを明らかにしました。

世界有数の穀物輸出国であるロシアとウクライナ。世界貿易のうち、小麦の30%以上、トウモロコシの17%以上、ヒマワリ油の50%以上を、この2カ国が担っています。

今回の危機は、すでに新型コロナウイルスや異常気象、エネルギー価格の上昇などによって起きていた食料価格のインフレに追い討ちをかけることが考えられます。どうすれば私たちの食を、より安定させることができるのでしょうか?その鍵は、自然の力を借りた、地域循環型の生態系農業にあります。

世界の食システムを支えるウクライナとロシア

ロシアとウクライナは世界有数の穀物輸出国です*1。

世界貿易の中では、ロシアとウクライナの2カ国だけで、

  • 小麦の30%以上
  • 大麦の32%以上
  • トウモロコシの17%以上
  • ヒマワリ油・種子・粕の50%以上*2

を占めています。

世界で取引される食料をカロリー換算すると、少なくとも12%をこの地域が生産しています*3。黒海周辺のこの地域は、肥沃な黒土として有名なチェルノゼムが広がっていることでも知られ、現在の世界の食料システムにとって不可欠な地域なのです。

また、ロシアは農業用トラクターの燃料として使われる石油や、合成化学肥料に使用される天然ガス、カリウム及び窒素肥料の生産国でもあります*4。 

ロシア軍によるウクライナ侵攻によって、世界の食卓にどのような影響が考えられるのでしょうか?

*1 2020年の数値に基づく世界のトップ5は、ロシア17.7%、米国14.1%、カナダ14.1%、フランス10.1%、ウクライナ8%

*2  FAOSTAT 2020 data

1. 食料価格のインフレに追い討ちをかける

この危機が始まる前から、新型コロナ感染症や異常気象により、世界の食料価格は上昇しています。2022年2月の国連食糧農業機関(FAO)による食料価格指数は、2021年2月から20.7%上昇しました。

感染症によって出稼ぎ労働が制限され、サプライチェーンは混乱しました。農業用機械代も上昇しています。エネルギー価格の上昇により、輸送や肥料のコストも増えました。気候変動によって増えている洪水、干ばつ、猛暑などの異常気象が、作物の生育を阻害しています。

ドイツ・レーゲンスブルグで、ひょうを伴う嵐により被害を受けた畑(2020年8月)

収穫が予想より少ない場合、商品の価格は上昇します。食料純輸入国(食料輸入が輸出を上回っている国)の低所得国は、すでに過去数年間で栄養失調の割合が増加しています。食料価格の上昇に伴い、世界の食料不安も高まっています

そんな状況の中での、今回のロシアによるウクライナ侵攻。食料価格には、すでにその影響が見えます。

例えば、小麦の価格はすでに30%以上上昇しました。しかし、戦争が食料価格にどれだけの影響を及ぼしているのか、全体的に把握することはまだ困難です。FAOの食料価格指数は1カ月間の平均価格を測定しているため、ウクライナ紛争が食料価格に与える世界的な影響について、より確かな分析を行うには、3月の測定値を待つ必要があります。

しかし、小麦、ヒマワリ油、肥料など、世界の主要な商品貿易におけるウクライナとロシアの重要性を考えると、食料価格に影響を与えることは間違いないでしょう。

2. 紛争と移住が食料不安を促進する

今回のロシアによるウクライナ侵攻により、150万人〜500万人の避難民が発生する可能性があると予測されています。 戦争・紛争は、食料不安の大きな要因です。

黒海周辺のこの地域は、世界で取引される食料カロリーの少なくとも12%を占め、世界の食料システムにとって不可欠な地域となっています。ウクライナから輸出される小麦とトウモロコシの40%は、すでに高い飢餓率に苦しみ、食料価格の上昇が深刻な影響を及ぼす地域である中東とアフリカに輸出されています。

干ばつの影響を受けて食料生産が減ったマラウィで、世界食糧計画(WFP)が供給する支援を受け取る人々(2002年8月)

すでに新型コロナ感染症や異常気象の影響により、何百万人もの人々が貧困と飢餓に追い込まれ、10人に1人が日々の必要な食料を得られていない状態になっています。

3. 世界の肥料市場が混乱する

アンモニアや尿素などの窒素肥料の世界貿易の15%、カリウムを有効成分とするカリ肥料の世界輸出の17%をロシアが占めています。

また、すでにいくつかの国際制裁の対象となっているベラルーシは、カリウムの輸出の世界市場の16%のシェアを占め、直接的な影響があります。

そして、ウクライナ農業で使用される肥料の60%がロシアとベラルーシ産であることから、ウクライナの食料生産を通じて間接的な影響もあります。

合成化学肥料をまく大豆畑。ブラジル(2019年3月)

危機に弱い私たちの食システム

現在の世界の食システムでは、小麦など主要な作物が貿易用に商品化され、地域で生産して地域で消費する地産地消からはかけ離れてしまいました。食品や肥料などを輸入に頼っていると、国際情勢が食の安定に直結します。

また、合成肥料を大量に使用する農業は、環境への負荷が大きく、そもそも持続可能ではありません。合成肥料は生産の過程で多量にエネルギーを使うほか、亜酸化窒素という温室効果ガスを発生させたり、硝酸態窒素として河川などの水質汚染を引き起こしたります。温暖化や水質汚染は、食料生産にも直結し、悪循環を招きます。

いまだ終わりが見えない新型コロナウイルスの影響を受け、そして温暖化による洪水や干ばつなどの被害が増えるなかで、私たちの食システムはとても不安定なのです。

この戦争による小麦や合成肥料などの価格高騰は、そんな世界の食システムが崩壊寸前であることのサインかもしれません。

食を安定させるために – 鍵は生態系農業

まず当面の間は、各国政府は食料価格の安定を保証し、市民の間でさらなる不安が起きないようにすることが必要です。

また、中長期的に食料価格の高騰や低所得国の食料不安を防ぐためには、工業化された商品作物生産ではなく、地域の生態系にあった方法で生産した作物を地域社会で循環させる、生態的農業へのシフトを支援しなければなりません。

ケニアで生態系農業を営む女性。生態系農業は、気候変動による異常気象への耐性が強い(2015年6月)

生態系の力を借りて、その土地にあった作物を生産する「生態系農業は、合成肥料に頼らずに生産性を上げる農法です。

肥料を使わずに土壌の肥沃度を高めることができ、浸食、汚染、酸性化から土壌を守ることにもつながります。地域内で生産と消費を循環させるため、国際的な危機の影響を受けづらく、侵食に強い土づくりによって異常気象にもより耐性があります。

トルコで生態系農業を営むこの女性は、イスタンブールのファーマーズマーケットで育てた野菜を直接生活者に提供している(2019年8月)

さらに、食料供給を安定させるためには、畜産用の飼料生産を削減しなければなりません。もし、飼料として家畜に与えられている作物を直接人間が口にすれば、カロリー換算で70%も人間の食料が増えます。肉と乳製品の消費を減らし、人々が直接口にできる作物を生産することで、食料不安の解消につながります。

日本の生態系農業を加速させるために

私たちは、それぞれの国の政府に対して、紛争の平和的解決を積極的に推進することと同時に、工業化された化学品多消費型農業から脱却し、代わりに、地産地消で、危機に強い生態系農業を支援することを求めることが必要です。

神奈川県にあるオーガニック農場「なないろ畑」は、消費者がボランティアで参加するCSA農場で、価格を低く抑えて提供している(2015年6月)

日本では2021年に、2050年までに農業生産の25%をオーガニックとし、化学農薬を50%削減することなどを目指す「みどりの食料システム戦略」が策定されました。

策定時点での有機農業率は0.5%なので、30年間で50倍に増やす野心的な目標設定ですが、化学農薬を50%削減する目標は、低すぎかつ遅すぎると言わざるを得ません。

日本国内で生態系農業を主流にするためには、より野心的な目標設定と、実現を確実にする法整備が必要です。

今日食べるものが、世界の壊れた食システムを変える力になる

そして私たち一人ひとりにも、今日からできることもあります一人ひとりが手に取り口にする食べ物の選び方を変えることは、より回復力があり、公正な食のシステムへ変える力になります。

  • 直売所やファーマーズマーケット、農家からの直接購入は、作り手と食べ手の結びつきを強め、地域循環型の食システムが強化されます。
  • より多くの人が、自然の力を借りたオーガニック農法で育てられた野菜やくだものを選べば、化石燃料に依存した工業型農業からの脱却が加速します。
  • 肉や乳製品の消費を減らし、食べる時は飼料も国産のものを選ぶことで、肉や乳製品の過剰消費で作物を浪費する食システムの変化を後押しします。

一人ひとりの選択は、”自己満足”では終わりません。

今日の食卓で何を選ぶか。それが崩壊しかけた現在の食システムを変える原動力となります。

ファーマーズマーケットに並ぶ、神奈川のオーガニック農場で栽培された野菜(2015年6月)

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