ロシアによるウクライナ侵攻は、石油と天然ガスの価格上昇に拍車をかけ、私たちの生活にも影響が出ることが見込まれています。発電の4分の3を化石燃料に依存する日本は、エネルギー価格が国際情勢の影響を受けやすくなっているのです。

エネルギーの安全保障だけではなく、化石燃料に頼った社会は、エネルギーをめぐる紛争や、産出国への権力集中など、様々な社会不安を招きます。ウクライナ戦争の危機を一刻も早く平和的に解決するとともに、地産地消の自然エネルギーへ移行することが必要です。

石油・天然ガスはロシアの主要産業

「人間が引き起こした気候変動と、ウクライナでの戦争の根本原因は同じ — 化石燃料と、私たちの化石燃料への依存です」

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC) のウクライナ代表であるスビトラーナ・クラコフスカ氏は、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まった3日後の2月27日、IPCCの会合でこう発言しました*

石油、ガス、石炭の燃焼は、私たちが適応しなければならない温暖化被害を引き起こしています。そして、ロシアは化石燃料を売り、そのお金で武器を買っています。化石燃料に依存している他の国々は、化石燃料から自由になることはできません」

ロシアからヨーロッパへ石油を運ぶタンカー(2014年4月)

ロシアは、石油ではアメリカ、サウジアラビアに次ぐ世界第3位の産出国、天然ガスではアメリカに次ぐ第2位の産出国です(2019年)*。ロシア政府がその収入源を化石燃料に大きく依存していることから、ロシアへの経済的制裁として、ロシアから化石燃料を輸入するのを止める方針を示す国が欧米を中心に増えています。

すでにアメリカはロシアからの原油と天然ガスの輸入を停止。イギリスも年内にやめる方針を示しました。EUは、天然ガスの4割をロシアから輸入していますが、27年までに輸入をゼロにする目標を掲げています*

天然ガスの価格が上昇 – 私たちの電気代との関係は?

一方で、天然ガスの価格が世界中で上昇し、天然ガスに依存する国や地域で、電気代にも影響が出ています。

新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいた経済活動の再開に加えて、化石燃料施設での事故やロシアのウクライナへの軍事侵攻によって供給不安が高まり、石油と天然ガスの価格が上昇しています。日本でも、2022年3月の大手電力会社の電気代は、過去5年間で最も高くなりました。これはまだ各国のロシアへの経済制裁の影響が出る前です*

また日本では、ウクライナ危機とは別に、3月16日に発生した地震の影響で、東京電力管内に電力を送る火力発電所の損傷・運転停止が相次ぎ、電力不足の危機に襲われました。

日本は発電の4分の3以上を化石燃料に依存し、地域に大きな発電所をつくって消費地に送るシステム発電・送電システムとなっているため、エネルギー価格が国際情勢の影響を受けやすく、地震などの危機に脆弱になっているのです。

小麦など、ロシアやウクライナが輸出する穀物の価格が上昇しているのと同じように、生存に欠かせない食料とエネルギーを輸入に依存した社会が、いかに危機に弱く不安定かを、痛感させられます。

分散型・地産地消の再生可能エネルギーと省エネ

兵庫県にある、畑の上にソーラーパネルが設置する農業と発電と両立させる「ソーラーシェアリング」の施設(2018年3月)

再生可能エネルギーは、インフラを各地域で設置できるため、エネルギーの自給自足が可能となり、国際情勢に影響されてエネルギー価格が大きく変動することもありません

さらに、再生可能エネルギーの設置は、化石燃料と比べてスピーディーです。例えばイギリスの場合、新しい油田を開発するのに平均で28年かかるのに対し、太陽光発電所の建設なら2年で済みます。

再生可能エネルギーとエネルギー効率化を組み合わせることで、安定してエネルギーを供給することができ、エネルギー安全保障につながります。日本の場合、エネルギーの効率化によって、2030年に2013年比で最終エネルギー消費を40%以上削減でき、残りは再生可能エネルギーで賄うことができるという試算があります*

化石燃料が社会不安を引き起こす

エネルギー供給を不安定にするだけではなく、化石燃料への依存が、様々な社会不安を引き起こしています。

1. 化石燃料をめぐる争いが起きる

これまでも化石燃料は、戦争の原因になってきました。

1980〜1988年のイラン・イラク戦争、1990〜1991年の湾岸戦争、1983〜2005年のスーダン内戦など、近年の多くの紛争の中で、エネルギー資源をめぐる争いが目立っています。

イラン・イラク戦争で被害を受けた、イラン南西に位置するアバダンの街(1991年9月)

2. 化石燃料は権力の偏りを産む

化石燃料は地理的に集中しているため、世界的な不平等が生まれる原因の一つとなっています。

多くの国が化石燃料エネルギーを輸入に依存しているため、化石燃料の輸出国は権力を持ち、平然と国際的な合意や条約に背く場合があります。

3. 気候変動が紛争の原因になる

石油や天然ガス、石炭の燃焼は、温暖化の最大の原因です。

ストックホルム国際平和研究所のフロリアン・クランプ氏は、気候変動は、様々な地域で紛争や暴動の原因となり、人間の安全保障の問題になっていると指摘します。

「東南アジアでは海水の温暖化によって魚の生息地が変わり、漁獲量が減ったことで、海賊行為につながるリスクが大きくなっている。ソマリアでは、イスラム武装勢力のアル・シャバブが避難民の中からリクルートをしている。パキスタンでは、タリバーンが被害を受けた人々を政府よりも早く支援することで、人心を勝ち取ることに成功した。気候変動などの影響で枯渇しているアフリカのチャド湖周辺は、イスラム過激派の勢力拡大や紛争など様々な影響の相関が見られる地域だ」(引用:Asahi Shinbun Globe +

西アフリカを襲った干ばつ(2019年9月)

戦争は最大の環境破壊

戦争自体が、気候変動と環境破壊を深刻化させる要因であることも目を向けておきたい点です。

軍のCO2排出に関するデータは少なく分析は困難なものの、ある研究によれば、ロシアによるウクライナへの侵攻のような大規模な軍事行動がなかった2019年でさえ、EUの軍事関連排出は年間1,400万台の自動車に匹敵すると報告されています*

戦争で使われる戦闘機や輸送車などは、大量の二酸化炭素を排出しています。ダラム大学の政治学者であるオリヴァー・ベルチャー氏は「ジェット燃料の排出ガスは圧倒的に最も汚れています。使用されている燃料の種類のせいでそれ自体が強力な汚染物質ですが、その上に燃やされる燃料の量が普通ではありません」(引用: WIRED)と話します。

イラン・イラク戦争後、クエートに放置された戦車と燃える油田(1999年9月)

また、避難民の移動にともなう排出のほか、攻撃を受けた建物やガス管、燃料や弾薬の貯蔵庫の火災からも二酸化炭素は排出されます。再建の際にも、重機による作業や、製造に大量の二酸化炭素を消費するセメントやコンクリートも必要になります*

平和と持続可能性の間には、確かなつながりがあるのです。

安全な再生可能エネルギー100%の社会へ

各国政府は、直近の生活不安が増幅しないように、まず生活者が負担する電気代が急激に値上がりしない政策を早急に実施することが大切です。

そして、住宅の断熱強化に補助金を出す、施設のエネルギー効率を促進するなどして電力需要を減らし、再生可能エネルギーにもっと投資が集まるように促す必要があります。

島根県の海岸に立つ風力発電のタービン(2013年11月)

戦争の平和的な解決を求めると同時に、化石燃料へ依存しない社会を作るために、今日から行動してみませんか?

私たちにできることは、家庭での省エネだけではありません。全7回シリーズ(予定)の「気候変動アクションガイド」を見て、アクションを始めてみましょう!

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