気候変動に関する政府間パネル(IPCC)発表した、最新の報告書・第6次評価第3作業部会報告書は、「人類救済計画」です。

これまでの気候変動対策はあまりにも遅く、まだ十分な行動をとっている国は1つもありません。そして、気候変動の悪化のシナリオを避けることができるか否かは、この10年の私たちの行動にかかっています。IPCCが発表した「人類救済計画」には何が書かれているのでしょうか?IPCCの最新の報告書から、私たちが知っておくべきと考える6つのポイントをご紹介します。
インドネシアの中央カリマンタンを襲った洪水で避難する子どもたち(2021年11月)

気候変動を人が引き起こしたことは「疑いの余地がない」と自然科学的根拠をもとに明らかにした2021年8月の報告書世界中の35億人がすでに気候変動の影響が受けているなど、すでに起きている気候危機の影響についてまとめた2022年2月の報告書に続き、人類を守るためにいますぐ実行しなければならない気候変動対策をまとめた、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価第3作業部会報告書が発表されました。

温暖化を1.5℃までに抑えるために、いますぐとるべき行動をまとめた最新の報告書は、「人類救済計画」です。

報告書が発表された今、私たちの出番です。私たちはこの重要な報告書が発表されただけで終わらないように、世界のあらゆる場所で話題にし、行動を促す必要があるのです。

IPCCの最新の報告書から、私たちが知っておくべきと考える6つのポイントをご紹介します。

IPCCとは?

IPCCとは、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画 (UNEP)により設立された国連の「気候変動に関する政府間パネル」のことで、国連が招集した195の加盟政府と数千人の第一線の科学者・専門家からなるパネルです。 IPCCは、人為的な気候変動のリスク、その潜在的な影響、及び適応と緩和方策について、科学的、技術的、社会経済的な側面から、各国政府に提供する研究報告書の発行を行っています。

2022年4月4日に発表された今回の報告書は、2021年8月に発表された第6次評価報告書の第1作業部会報告書(自然科学的根拠)、2021年2月に発表された第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)に続く、第3作業部会報告書(気候変動の緩和)です。

IPCCは各国の政策決定に干渉することなく、専門的な立場から、報告を行っています。 グリーンピースはIPCCの公式オブザーバーであり、レビューに参加する権利を有しています。

1. 温暖化を1.5℃で食い止めるための解決策はすでにある。

温暖化を1.5℃までに抑えるというパリ協定の目標を達成するためには、2030年までに(あと8年しかありません!)世界の温室効果ガス排出量を半分以下に削減させ、そこからさらに排出量をネットゼロにすることが必要ですが、IPCCは、その解決策はすでに存在していると結論づけました。

排出量の純削減に最も貢献するのは、1)太陽光や風力エネルギーなどの再生可能エネルギーへの切り替え、2) 森林などの生態系の保護と修復、3) 気候変動に配慮した農業や食料生産、4) エネルギー効率化・省エネです。

しかも、2030年までに排出量を半減させる取り組みの半分以上が、温室効果ガス削減1トン当たり20ドル以下という低コスト、あるいはコストゼロで実現できるのです。場合によってはお釣りがくることも考えられます。つまり、太陽光や風力などの再生可能エネルギーへ投資することで、既存の化石燃料発電所を稼働させるよりもコストを削減することができます。

タイにある病院の屋根に設置された太陽光パネル(2020年1月)

2.サステナブルな生活を個人の選択にせず、システムを変える。

サステナブルな生活様式を個人の選択に任せるのではなく、すべての人が不自由なく豊かに暮らしながら温室効果ガスを減らせるインフラやテクノロジーを導入し、行動を自然と変えるインセンティブを用意し、持続可能な社会システムへの変えることが必要です。これにより2050年までに現在の政策と比較して40〜70%も(!)温室効果ガス排出を抑えることができると見込まれます。

例えば、プラントベース(野菜中心)の健康的な食事を学校給食や公的機関の食堂などに取り入れて日常的な選択肢とする、修理して長く使うことを前提とした商品設計を法律で求める、徒歩や自転車で移動がしやすいように都市を設計する、電気自動車のシェアリングサービスを充実させて車を所有するニーズを減らす省エネ・自家発電住宅を手に入れやすくなる、飛行機以外の交通手段を選ぶとメリットが得られるような仕組みを取り入れる、などが考えられます。

また同時に、まだ経済発展の恩恵をまだ受けていない人々のニーズを満たすことを優先する必要があります。世界の4分の1の人々は、まだきちんとした家や移動手段、食べものが十分になく、人間のウェルビーイングのためには、まだ追加の電力や資源が必要です。

3. お金は十分にある。あとは使い道を変えるだけ。それも緊急に。

必要な温室効果ガス削減を達成するためには、再生可能エネルギー、エネルギー効率、交通、気候に配慮した農業、森林保護に対する投資を、2030年までに3倍から6倍まで増やす必要があります。

化石燃料事業への投資が多いみずほフィナンシャルグループの株主総会に株主として参加するグリーンピース・ジャパン(2020年1月)

この投資ギャップを埋めるための資本も流動性も十分にありますが、気候変動を抑えるために使われていません。民間と公共の資金投資は、気候変動対策よりも化石燃料事業により多く流れているのが現状です。これは、政府が金融を誘導する政策や金融セクター内の投資方針が、気候変動対策を後押しする方向に向かっていないためです。化石燃料への補助金を廃止するだけでも、2030年までに排出量を最大10%削減することができます。

特に発展途上国にとっては、資金へのアクセスが依然として大きな障壁となっています。経済先進国から約束された気候変動対策への支援(1,000億米ドル/年)は、まだ実現していません。

4.各国の目標や政策は根本的に改善が必要。

多くの国が気候変動対策計画を改善していますが、温暖化を1.5℃に抑える目標で求められるスピードで排出量を削減している国はまだ1つもありません

化石燃料を使い続ける余裕はないという現実と整合性のない政策は、化石燃料経済への資金流入を招きます。そして、既存の石炭やその他の化石燃料のインフラをそれぞれの設計寿命まで使い続けると、温暖化は1.5℃を簡単に超えてしまいます。

大気中から炭素を大量に回収するという賭けに出ることなく、温暖化が1.5℃を超えるのを避けるためには、化石燃料は、2050年までに10分の1までに減らさなければなりません

神奈川県横浜市にあるJ-POWER磯子火力発電所前で、「とまれ」サインを掲げて気候変動対策を求める市民。© Junko Iizuka/zeroemiYokohama/Greenpeace

十分なCO2削減の行動をとることなく、いつかどこかで誰かが大気中から大量にCO2を取り除いてくれると期待するのは、リスクの高い計画です。

CO2の回収・貯留技術は、期待されるような大規模ではまだ未知の領域が多く、不確実性でリスクを伴います。避けることのできないCO2排出を埋め合わせるためにある程度のCO2除去は必要ですが、いますぐに排出量を削減すればCO2回収の技術に依存する必要性を抑えることができます

5. すでにCO2排出量が多い人は、排出量大幅削減の可能性があり、その責任がある。

個人排出量が最も多い10%の家庭が、消費由来の全排出量の約34〜45%を排出しています。その3分の2は経済先進国に、3分の1はその他の経済圏に住んでいます。逆に言えば、排出量の多い人々が、よい生活水準とウェルビーイングを維持しながら排出量を削減すれば、大幅な温室効果ガス削減を実現できる可能性が高いということを意味します。

また、各国の現在の排出量、これまでに排出してきた歴史的な排出量には違いがあり、気候変動の影響を受ける度合いも、国家として十分な気候変動対策を実行する能力にも違いがあるため、効果的な気候変動対策には、「公平性(Equity)」「正義(Justice)」が重要です。金融を含む国際協力の促進は、低炭素社会と公正な移行を両立するために欠かせません

気候正義(Climate Justice)を求める太平洋の島国・バヌアツの人々(2021年11月)

6. 変革は始まっている。

太陽光発電、風力発電、蓄電池の技術は、専門家の予測や初期の気候変動緩和モデルをはるかに上回るスピードで、コスト、性能、導入において革新的なブレークスルーを遂げており、これはゲームチェンジャーになり得ます。

もし、さらなる決意を持った行動があれば、急速に進歩する再生可能エネルギー技術を活かし、動力を化石燃料の燃焼から再生可能エネルギーの電気へシフトさせ、エネルギー、輸送、建物、産業において、かつては考えられなかったスピードと規模で、化石燃料を追い出すことができるでしょう。

これは、政策と変革を求めるみなさんのような市民の声の力によってもたらされたものです。

気候変動対策を求めるFridays For Future Japanの呼びかけに賛同して東京都・渋谷でマーチする人々(2019年3月)

パリ協定の目標を達成すれば、化石燃料の資産を失い、その経済的影響は何百兆円にも達します。そのために、財産や特権を失うことになる一部の国や企業、個人は、この変化に抵抗しようとするかもしれません。意思決定のプロセスがこのような一部の人に過度に影響されないようにすることが、変化を引き起こすためには重要です。

気候変動対策に対する社会的な認識と支持は高まっています。また、国家、民間企業、金融機関に対する気候変動訴訟も増えています。2017年からのわずか3年間で、気候訴訟の件数はほぼ倍増しているのです。市民が司法を利用して、健全な環境に対する権利を行使するために裁判所に訴えています。そして、これまでの全体的な影響についてはまだ審査が行われていませんが、「現在、気候訴訟が気候ガバナンスにおける強力な力となったという学術的な合意が高まっている」とIPCCは評価しています。

人類救済計画を手にした私たち。これからどうする?

オーストリア・ウィーンで「もう一つの地球はない」とメッセージを掲げる学生(2019年3月)

IPCC報告書から読み取れる6つの「人類救済計画」として、最新の報告書のハイライトをご紹介しました。

温暖化を1.5℃までに抑えるために、世界の排出量を半減させるには、あと8年しか残されていません。そしてもちろん、削減するための方針はもっと早く決める必要があります。

太陽光発電と風力発電の躍進によって、私たちにはすでに気候危機にたちむかう重要な解決策があります。

化石燃料から再生可能エネルギーへシフトし、CO2排出の多い食システムを立て直し、森林と土地を保護し、少数の人々の欲ではなくすべての人々のニーズを満たす未来のために、すべての人に果たすべき役割があります。

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