これを読んでいるみなさんは、おそらくブルーノ・ペレイラとドム・フィリップスという名前を聞いたことがないと思います。2人は、有名な俳優でも歌手でもありません。2人は、アマゾンの森と先住民の権利を守るために最前線で活動する、人権専門家とジャーナリストでした。

2022年6月5日、ブラジルの先住民の人権専門家であるブルーノ・ペレイラさんと英国のジャーナリストであるドム・フィリップスさんが、ブラジル北西部のアマゾニア州ジャヴァリ地域で調査中に行方不明になり、6月16日に残酷に殺害されたことが確認されました。

このニュースは世界に衝撃を与えました。アマゾンの森が意図的な放火と破壊により危機に瀕しているだけでなく、森林を守るために声を上げる活動家や先住民族コミュニティの命まで、脅かされているのです。

アマゾン保護の最前線にいた2人

2022年6月3日、グリーンピースのアマゾンプロジェクトチーム、研究者、ジャーナリスト、活動家などが調査チームを結成し、アマゾンの森に入って20日間の調査を開始しました。この時グリーンピースは、別の2人組の環境活動家が6月5日にブラジル北部のワイルドボアバレーで姿を消したことを知らされました

ドム・フィリップスは、アマゾンの森林問題に20年以上携わっており、イギリスとブラジルのグリーンピースと緊密に協力してきたジャーナリストです。先住民グループの協力を得て、森林の状態に関する多数のレポートを作成しています。ブルーノ・ペレイラは、アマゾン地域の先住民の権利を保護することを任務とする、国立先住民保護財団(FUNAI)で働いていました。

2人の失踪を知った後、グリーンピースはすぐに救助活動に参加しました。捜索用の飛行機の提供を支援し、先住民族の人々と一緒に空から行方不明の2人を捜索しました。同時に、日本、イギリス、アメリカ、韓国などのグリーンピースは、ブラジル大使館に手紙を送り、2人の救助と調査に積極的に行動するように要請し、グリーンピースのメディアネットワークを利用して情報を発信しました。

それでも、不幸なニュースが届いてしまいました。6月16日、2人が殺害されたことが確認されたのです。

繰り返される悲劇

グリーンピースは世界中で哀悼の意を表し、ブラジル政府にこの事件を積極的に調査するよう要請しています。

6月15日、警察はブルーノとドムの殺害を自白した2人の主要な容疑者を逮捕しました。 ブラジル政府と警察には、犯罪組織との関連性の有無や動機などを明らかにするために、透明性のある、徹底的な調査をすることが求められます

ドム・フィリップスとブルーノ・ペレイラの親戚や友人、ジャーナリスト、市民グループがロンドンのブラジル大使館の外に集まり、捜索と調査を強化するよう求めた  (2022年6月)

残念ながら、このような暴力的な攻撃の被害にあったのは、ブルーノとドムだけではありません

日本で暮らす私たちにとって、環境保護が命懸けであると想像するのは難しいかもしれません。しかし近年、先住民族に対する暴力の件数は、年々増加しています

ブラジル先住民宣教師評議会(CIMI)によると、ブラジルの先住民と侵入者との間の紛争は、ますます頻繁に、かつ深刻になっています。 2020年には、182人の殺害(前年から61%増加)、96回の領有地紛争(同174%増加)、263回以上の土地侵入が報告されました。 過去5年間で最も多くなったのです。

破壊されたこの土地は、アマゾンの先住民であるカイアビ族の故郷だった。 森林は先住民族の生命とコミュニティ、歴史と文化の源であり、森林伐採と違法な侵入は、森林の生態系と先住民のコミュニティを破壊している(2021年9月)

私たちがいまこうしている間にも、世界中の環境活動家は、暴力的な攻撃や殺害の脅迫などの想像し難い逆境に直面し続けています。 環境活動をより安全にするためには、私たちが団結し、こうした事件に注目し続けることが不可欠です。

私たちがこうした悲劇を見て見ぬふりをしたら、権力を持つ一部の人々による理不尽な暴力を止めることも、今これまで以上に必要とされている環境保護活動を続けることも、できなくなってしまいます

アマゾンの火災は、過去16年で最多に

ブラジルでは、2019年にジャイール・ボルソナロ大統領が政権を握って以来、アマゾンの破壊が進行しています。ボルソナロ大統領の就任以来、アマゾンでの火災の数は111%増加し、犯罪グループによる違法伐採や採掘がさらに横行しています。

Global Forest Watchの最新データによると、2021年に失われた世界の原生林の40%はブラジルの原生林でした*。頻繁な森林火災により、ブラジルの温室効果ガス排出量は10%増加し、世界で5番目に大きな炭素排出国になりました。

森林の破壊は、植物や土壌に蓄えられていた炭素の放出につながり、CO2の大量排出の原因となる(2021年7月)

権力の圧力に屈せず、30年続けてきた活動

グリーンピースは、30年以上にわたってアマゾンの熱帯雨林を守る活動を続けています。過去には、市民の力で、大豆停止協定を無期限に延長し、巨大なダムの建設を中止させることに成功しました。

タパジョス川の建設計画があった巨大ダムは、ムンドゥルク族の人々の固有の土地を奪う可能性があった。世界中から集まった120万人の賛同の声も後押しして、2016年8月に、ブラジル政府はこのダム建設を中止した(2016年6月)

しかし、ボルソナロ大統領は、経済を発展させ、食肉取引を拡大するために、業者が広大な森林を不法に伐採して燃やし、家畜農場と飼料プランテーションを開放し、無数の生物のすみかを破壊しながら大量の温室効果ガスを排出することを黙認しています。

さらに、ボルソナロはNGOを国の「がん」と表現し、市民社会の声は彼にとって何の意味もないと宣言しました。

アマゾンの森林破壊は、ブラジルだけで起きていることではありません。アマゾンを破壊してつくられた牛肉や家畜の飼料となる大豆などは、世界中に流通しています。グリーンピースは55の国と地域にオフィスを持つグローバルなネットワークを活かして、継続的にキャンペーンを行なっています。

  • 現地調査、衛星画像、地図分析を通じて、森林破壊の現状について情報収集し、資料や証拠書類にして公開する
  • 調査報告書を発表して、森林保全のための具体的で実現可能な行動提案を行う
  • 先住民コミュニティと協力して、世界中の市民の力を借りてブラジル政府に行動を強く求める
  • 森林破壊に関わる商品の輸入を停止するよう呼びかる
  • 透明性が確保された持続可能な方法で森林を管理するようブラジル政府に要請する
ブラジルの先住民族のリーダー、ワドゥワバティ・スヤ(写真左)とアルベルト・フランサ・ディアス(写真右)が、アマゾンの森を破壊してつくられた大豆のヨーロッパへの輸出禁止を求めて、グリーンピースとともにアクションに参加した(2022年5月)

グリーンピースの森林保護活動は続きます

アマゾンの森林破壊は、生物多様性を崩壊させるだけでなく、気候危機を悪化させ、遠く離れた日本で暮らす私たちにも影響を与えます。気候を安定させ、生物多様性を守るために、もう残された時間はわずかです。

グリーンピースは、これからもドムやブルーノのような環境活動家と協力し続け、自然の生態系を何世代にもわたって手渡し続けられるように、活動を続けていきます

世界の森林を守る活動に、あなたもぜひ参加してください。毎日の買いものでは、商品が森林破壊に関係していないかまず確認してみてください。グリーンピースから森林を守るキャンペーンへの賛同を求める署名への協力をお願いさせていただく際は、ぜひあなたのお名前も連ねてください。そして、もう一歩踏み出すことができる方は、森林保護のために活動する環境NGOや先住民族のコミュニティを寄付やボランティアで支援してください。