グリーンピースは16日から18日までチョルノービリ(チェルノブイリ)原発立入禁止区域で放射能汚染調査を実施し、ウクライナのキーウ(キエフ)での調査結果を発表しました。

国際原子力機関(IAEA)は4月に「ロシア軍が駐留する前と比較して放射線量に変化はなかった」とする調査結果を発表しましたが、グリーンピースのチョルノービリ調査チームは、IAEAの調査と同じ地点で、それよりも約3倍高い放射線を測定しました。 

ロシア軍によるウクライナ侵攻後、初めての独立した調査

グリーンピースは、7月20日、ウクライナのキーウで記者会見を開き、7月16から18日に実施したチョルノービリ(チェルノブイリ)原発から半径30kmの立入禁止区域で行った放射能汚染調査の結果を発表しました。ロシア軍による侵攻が始まってから、初めての独立した放射能汚染調査です。

国際原子力機関(IAEA)は4月に、放射線レベルは「正常」であり、環境や公共の安全の大きな問題ではないと発表しました。

しかしグリーンピースの調査チームは、スタンザヤヤノフ付近のロシア軍キャンプ跡で、地上10センチの高さで0.18μSv/h(マイクロシーベルト/時)〜2.5μSv/hの線量率を測定しました。最高値はIAEAの試算の3倍以上です。

ロシア軍の道路封鎖地点から1.5キロの距離にある「赤い森」に隣接する交差点では、線量率が7.7μSv/hと、IAEAの測定値を大きく上回りました。

衛星分析によってロシア軍の動きを特定

グリーンピースは、地雷と爆発物が放置された要塞の危険性を確認し、ロシア軍陣地の主要地域を選別するために、マッケンジー・インテリジェンス・サービスに衛星分析を依頼しました。その結果、ロシア軍がチョルノービリ高濃度汚染地域に塹壕や要塞を構築し、意図的に何度も火をつけ、ロケット砲を発射したことが確認されました。

ロシア軍の行動がどんな目的であるかはわかりませんが、火災やロケット発射が土壌に蓄積された放射性物質を大気と川を通って周辺に拡散させたことは明らかです。チョルノービリ立入禁止区域を流れるプリビヤト川は、ウクライナ市民が飲料水源として使用するドネプル川とつながっており、ウクライナ政府の地下水、河川の調査が急がれます。

また、元軍事情報アナリストが調査に参加し、 ロシア軍駐留期間全体の映像分析により、ロシア軍がチョルノービリ立入禁止区域で建設した要塞とその近隣で繰り広げた軍事行動、大規模軍事装備の移動規模などを把握しました。

チョルノービリ原発立入禁止区域内で確認された大規模な軍事装備移動跡 ©マッケンジーインテリジェンスサービス

ロシア軍の軍事行動が放射性物質を移動させた可能性

ロシア軍が撤退する際、主要な放射線検知機器と消防機器を略奪して破壊したため、科学者も軍隊も消防士も、汚染拡散に対して十分な管理や制御ができない状況にあります。ロシア軍がチョルノービリの立入禁止区域に広く埋設した対人地雷も、より広範囲での追加放射線調査を不可能にしました。

このような危険な環境で調査を進めるために、グリーンピースは独自に開発したドローンと遠距離放射線測定機器を活用しました。

採取した土壌サンプルからは、セシウム137の濃度が45,000Bq/kg〜500Bq/kg以下と、大きな数値の違いが見られました。ロシア軍が土壌の層を攪拌し、深い層から低濃度の汚染土壌が表面に出てきたり、他の層から高濃度の汚染土壌が出てきたりしたことが考えられます。

さらに、ドローンを使って地上100メートルの高さで測定したところ、南側の広い範囲でさらに高い放射線レベルが確認されました。ロシア軍キャンプの上空では約200cps(カウント毎秒)が測定されましたが、600〜700メートル南側では約8000cpsと40倍も高い放射能が測定されました。

放射線レベルが正常でないことは明らか

グリーンピース・ベルギーの主任放射線防護アドバイザーであるヤン・ヴァンダ・プッタは、「我々は放棄された塹壕の内部で、低レベルの核廃棄物と認められるレベルのガンマ線を測定しました。ロシア軍が高放射能環境で活動していたことは明らかですが、IAEAはそう伝えてはいません。IAEAは何らかの理由で、十分な調査の努力をしないと判断したとしか思えません。IAEAが世界に信じさせようとしているにもかかわらず、チョルノービリ原発の立入禁止区域内の放射線レベルが正常でないことは、我々の調査から明らかです」と述べています。

IAEAが、ロシアの国営原子力企業ROSATOMとの関係によって、ウクライナの原子力の安全性に対する役割を十分に果たしていないことが懸念されます。

最も困難な現地調査

チョルノービリの調査を終えた後、チームは急いで首都キーウに移動し、記者会見の準備をしました。首都では、1日に10回以上ミサイル警報が鳴り、何度も防空壕に避難しなければなりませんでした。チョルノービリの汚染度の高い地域を何十年も調査してきたチームメンバーにとっても、かつてない危険を痛感する体験でした。

今後グリーンピースは、今回の調査で得られたサンプルを詳細に分析し、報告書を発行し、放射能汚染のリスクに晒されるウクライナや周辺地域の人々の安全に最善を尽くします。

グリーンピースを支援してくださる寄付サポーターのみなさんのお力で、チョルノービリでの現地調査を完了することができました。みなさんが寄付という形でグリーンピースの活動に参加してくださることで、企業や政府の援助をうけることなく、独立した調査を行うことができます。ぜひ、寄付サポーターとして活動を支えてください。

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最後に、グリーンピースは、チョルノービリのSSEエコセンターとウクライナ立入禁止区域管理局(SAUEZM)の支援と協力に深い感謝の意を表します。