伐採・移植されそうになっている明治神宮外苑の1,000本以上の樹木。すでに10万人以上の市民から、伐採に反対する声が上がっていますが、今回グリーンピースが実施した調査で、明治神宮外苑の樹木がつくる日陰は日向より最大で18℃も温度が低かったという結果がでました。都市の樹木には、気候変動で悪化する熱波の被害を抑制するのに、重要な役割があることが改めて明らかになりました。なぜ公園の緑を守ることが熱波の抑制に繋がるのか?都市の気温上昇の原因である「ヒートアイランド現象」とは?調査結果と併せて、解説します。

明治神宮外苑で1,000本以上の樹木の伐採・移植

アスファルトジャングルの都市で市民の癒しの場となっていた明治神宮外苑の1,000本以上*の木々が、伐採・移植されそうになっていることをご存じでしたか?中には、樹齢100年を超える、東京の歴史を見守ってきた木々も含まれています。

出典: 一般社団法人日本イコモス国内委員会。「樹木の伐採を回避し「近代日本の名作・神宮外苑」を再生する提案」

その理由は再開発。神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、超高層ビルを建築する、というものです。

オンライン署名「神宮外苑1000本の樹木を切らないで~再開発計画は見直しを!」では、10万8,000人を超える市民が、明治神宮外苑の樹木を守るために、声を上げています

みなさんは、この計画についてどう思いますか?

グリーンピースは、都市の樹木が気候変動による猛暑の影響を抑える働きからも、都市の緑を守り、増やしていくことが重要だと考えています。

* 多くの住民や学者が声をあげたのち、三井不動産が伐採本数を556本に減らす考えを示しましたが、もともと枯れると予想されている木と移植する木を差し引いただけのもので、貴重な樹木が大量に伐採される予定は変わりません。

熱波の被害が特に深刻な東京都

1993年以前まで年平均70人以下だった熱中症の死亡者は、2018年〜2020年にかけて1,000人以上に増えました。さらに人口密度が高い東京都は、熱波の長期化や激化などの気候変動の影響に対して非常に脆弱です。

最高気温が35°C以上になる猛暑日は、今世紀末には今よりさらに6~31日も増えると予測されています。夜でも気温が25℃以下に下がらない熱帯夜も、14~58日増加する恐れがあります。

こうした気候危機の只中で生きていく私たちにとって、猛暑を緩和する都市の樹木を守ることは、私たちの健康と命を守ることに直結してくるのです。

樹木が「ヒートアイランド現象」を緩和する

ヒートアイランド現象とは、都市の中心部の気温が隣接する郊外の地域よりも高くなることです。東京都は、人口密度が低く、都市化の影響が少ない地方に比べて、年平均で気温が2℃も高くなっているのです。

この原因のひとつは、アスファルトなどの色の濃い舗装路面が、太陽光を反射しづらく、熱吸収率が高いことです。アスファルトは、短波放射を多く吸収し、長波放射を大気中に再放出するため、夜間でも周囲の空気を暖めてしまいます

樹木は、「放射性遮蔽」と「蒸発散」と言われる2つのメカニズムによって、熱波を緩和してくれることが見込まれます。樹木の葉や枝は日陰を作り、地面に届く短波長の太陽放射を減少させ、それによって日陰の表面温度を下げ、周辺地域をより涼しくします。(放射性遮蔽)さらに樹木は、日射エネルギーを吸収し、葉の気孔から大気中に水分を蒸発させます。(蒸発散)

公園の樹木がつくる日陰は日向より最大18℃も低い

グリーンピースは、東京都の樹木がどれくらい気温上昇の抑制に貢献してくれているのかを明らかにするため、NPO法人中野・環境市民の会と、明治神宮外苑の樹木を守るオンライン署名の発起人、ロッシェル・カップ氏と共同で、ケーススタディを行いました。

2022年9月6日に、明治神宮外苑の4カ所で、日の出(5:20)、午前(10:30)、午後(14:10)、日の入り(17:45)の4回、赤外線サーモグラフィー画像を撮影しました。

日のあたるアスファルトの表面温度は最高47℃に達し対して日陰のアスファルトエリアでは、最高でも33.5℃でした。色の濃いアスファルトの舗装材の熱吸収性が高いことが理由と考えられます。また、日中の測定(10:30〜、14:10〜)では、日陰のアスファルトと日向のアスファルトで、14〜18℃の温度差が記録されました。街路樹の冷却効果を示す数値です。

また、2022年6月30日の衛星画像を用いた地表面温度の比較では、明治神宮外苑の地表面温度は都市部の近隣地域よりも2~4℃程度低いことがわかりました。また緑地の多い代々木公園や新宿御苑では、周辺の建築密集地との地表面温度の差はさらに明確で、公園の方が約6~7℃も低くなっていました

しかし、実験が行われたのは9月上旬で、午前中は雨、午後は曇りという天候が重なったため、もし真夏の晴天時に測定した場合、最高表面温度はさらに高くなると考えられます。ある調査では、アスファルトの表面温度は約60℃まで上昇する可能性が指摘されています。

▶︎調査報告書『都市樹木の冷却能力ーー明治神宮外苑のケーススタディー』

身近な緑を守ることも、気候危機対策になる

明治神宮外苑だけでなく、横浜市の瀬谷区の桜並木、兵庫県明石公園の樹木など、全国各地で、再開発によって樹木が伐採されるリスクに晒されています

気候変動が深刻化する今、温室効果ガスの排出を抑え、生態系を回復させて炭素の吸収を促す努力に加えて、すでに避けられなくなってしまった気候変動の影響には、「適応」を進めていくことが必要です。

今回の調査では、樹木が密集している場合は、涼しいエリアを作り出していることが改めて明確に示されました。

グリーンピースは、今回の調査のように、客観的で科学的な情報を提供して気候変動を抑える行動を促すほか、「ゼロエミッションを実現する会」に参加する全国各地の市民と一緒に、緑を保全する取り組みを進めています

グリーンピースの調査や
自治体への働きかけを寄付で支援する

みなさんも、自分の住んでいる街でどんな計画が進んでいるか、それが街の緑を壊してしまう可能性がないか、ぜひ調べてみてください。「ゼロエミッションを実現する会」には、各地で活動している仲間がいます。facebookやslackで繋がってみることで、きっと行動を始める勇気をもらえるはずです。

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