2022年12月22日のGX実行会議の模様。首相官邸HPより
2022年12月22日のGX実行会議の模様。首相官邸HPより

日本政府は2023年2月10日、グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で了承した気候変動対策として、原発を最大限活用する方針*1を閣議決定しました。東京電力福島第一原発事故後、原発依存から脱却するとしてきた方針が、180度、真逆になってしまいました。
具体的な問題点を指摘した市民団体の会見からポイントを紹介します。

▼この記事を読むとわかること

> 議論はたった3カ月
> GX実行会議とは?
> 東京電力福島第一事故以降、積み上げてきた原子力利用のあり方を根本から覆す
> 国家安全保障のために地域の人の安全保障はどうなるのか
> 劣化した老朽原発はハイリスク
> たった4%の二酸化炭素排出量削減に7兆円
> 実態がない次世代革新炉に世論を誘導している
> 誰も犠牲にしないエネルギーの研究を

議論はたった3カ月

国会議事堂

今回の決定の要点は主に下記のようなものです。

  • 今後10年間で官民合わせて150兆円の投資を促す
  • 原子力やほとんど排出削減効果がない化石燃料火力を推進
  • 原発再稼働の推進、運転時間の延長、そして次世代革新炉による建て替えを進め、1997年完成予定だった再処理工場竣工に注力

これは、2011年3月に発生した東京電力福島第一原発事故を教訓として、原子力依存度を低減し、新設や建て替えはしない、運転期間は原則40年としてきた方針を大きく変更するものです。

岸田首相が原発の最大限活用を表明したのは2022年8月。

2021年のエネルギー基本計画とまったく異なる方向にもかかわらず、わずか3カ月の議論で決めていいものでしょうか。原発を推進しながら化石燃料産業を温存すれば、高いコストの国民負担を強いることになります。

GX実行会議とは?

福井県にある関西電力の高浜原子力発電所。1、2号機は運転開始から40年を超え、3、4号機も30年を超えている(2016年3月)
福井県にある関西電力の高浜原子力発電所。1、2号機は運転開始から40年を超え、3、4号機も30年を超えている(2016年3月)

この会議は、化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革の実行を目指すもので、2022年7月から始まり、これまで5回行われています。ここで決められた方針に対するパブリックコメントの募集を経て、次期通常国会に関連法案が提出されます。

大きな論点とされたのは以下の2つ。

  1. 日本のエネルギーの安定供給の再構築に必要となる方策
  2. それを前提として、脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革への今後10年のロードマップ*2

最優先課題は「エネルギーの安定供給」であるはずですが、決定した方針ではなぜか原発を最大限活用することに重点が置かれ、化石燃料への依存も維持されることになっています。再生可能エネルギーの導入も含まれてはいますが、予算は150兆円のうち31兆円と全体のわずか20%程度に留まっています*3

*以下2022年12月21開催「政府のGXで未来が守れるか 緊急オンライン共同記者会見」(主催:「わたしのみらい」プロジェクト、原子力市民委員会)より一部抜粋

東京電力福島第一事故以降、積み上げてきた原子力利用のあり方を根本から覆す

東京電力福島第一原発。2011年3月14日撮影。
東京電力福島第一原発。2011年3月14日撮影。

*松久保肇さん(原子力資料情報室)のお話から抜粋

「原発政策は2011年の東京電力福島第一原発事故を受けて、原子力規制委員会を発足させました。原発の運転期間制限を導入し、政府は原発の新増設を考えていないと繰り返し表明してきたわけです。将来的に原発がなくなることが既定路線だった。
ところが今度は、原発の運転時間を延ばす、そして運転期間は経産省が決定できる、新しい原発を建てることを考える方針への転換が、今回のGX実行方針になります。

総理から8月24日に指示があって、(GX実行方針を)検討したのは経産省の原子力小委員会という審議会でした。私も委員をしていますが、21人の委員うち脱原発の委員は私を含め2人だけ。原発推進に非常に積極的な方ばかりの委員会になっています。とりまとめが行われたのは12月8日。
およそ3カ月間という非常に短期間に、この委員構成で検討を行ったことになります。原子力利用について多面的な観点から検討されたとはとてもいえません。結局、事務局の提示を了承する形で結論が出ました。
私は委員会で『国民の意見聴取が必要だ』と繰り返し要求してきました。しかし一度も意見聴取は行われませんでした。

「国民の意見聴取が必要だ」という松久保さんに西村経産相が紹介した、原子力小委員会の様子などの動画が公開されている経済産業省のYouTubeチャンネル。しかし、コメントは投稿できないように設定されている。
「国民の意見聴取が必要だ」という松久保さんに西村経産相が紹介した、原子力小委員会の様子などの動画が公開されている経済産業省のYouTubeチャンネル。しかし、コメントは投稿できないように設定されている。

もう一つ非常に重大な問題は、原発の運転期間制限を規制政策から利用政策に移してしまうことです。福島第一原発事故の大きな教訓は、原子力の制限と利用の分離だと思います。規制政策から利用政策に移す*3ということは、12年間積み上げてきた原子力利用のあり方を、福島第一原発事故の教訓をないがしろにしてしまう、非常に重大な問題だと思います」

国家安全保障のために地域の人の安全保障はどうなるのか

大雪
shutterstock

*佐々木寛さん(新潟国際情報大学教授)のお話から抜粋

「私は新潟の原発検証委員会で避難計画を検討する委員を務めています。新潟では昨日一昨日(12月19〜20日)と大雪で、交通機関がすべて麻痺しています。原発事故が発生すれば、現行の避難計画はまったく機能しないと思います。ですから原発の問題は、原発立地自治体ではリスクの問題なのですが、今回のGX実行会議ではその点にまったく触れられていない。

まず原発が持っているリスクに対する過小評価の問題。再生可能エネルギーが一向に成長しないのは、原発政策に偏重しているという理由があるわけです。
私の専門でもあるテロリズムや軍事的な有事の際の原発を、私たちはウクライナでも目撃していますが、それについては委員会として、こうした有事の際の避難は到底無理だという意見が揃っています。これを尊重するなら柏崎刈羽原発を再稼働することはできないはずです。

結局、原発が攻撃されていいのか、その地域の住民はどうなるのか、国家安全保障のために地域の民衆の安全保障はどうなるのか、エネルギー安全保障のためになぜ新潟がリスクを負わなくてはならないのか、そういう根源的な問題があると思います」

劣化した老朽原発はハイリスク

2016年、関西電力株主総会で老朽原発再稼働の中止を求めるグリーンピース。
2016年、関西電力株主総会で老朽原発再稼働の中止を求めるグリーンピース。

*後藤政志さん(元東芝、原発設計技術者)のお話から抜粋

「そもそも40年とか古くなった原発って傷むのが当たり前で、とくに原子炉の場合は中性子によって確実に劣化が進みます。古い原発は非常にリスクが高いんです。
具体的には、例えば水素爆発とか水蒸気爆発さえも対策が出来ない状態にあるのが非常に懸念されます。さらに戦争におけるリスクもあります。事故でなくても日常的に放射性物質を出し続けているのも事実なんです。

私は鹿児島県の(原発の)寿命延長に関する技術委員会の委員をしています。電力会社は『調べれば大丈夫』といってますが、そういう考え方は非常に危険です。

とくにここ10年ほとんど運転していないわけですから、運転できる人が減ってきてます。だいたい半分くらいだと思った方がいい。原子力は衰退産業になってますから、余計リスクが増えてくるのが一番怖いと思います。原発からとにかく脱却すべきだと思います」

たった4%の二酸化炭素排出量削減に7兆円

高温ガス炉しけんろHTTR
高温ガス炉試験炉HTTR-水素製造施設の構成(イメージ)。資源エネルギー庁HPより

*桃井貴子さん(気候ネットワーク)のお話から抜粋

「GXでやろうとしている脱炭素電源といわれているようなものは、(温室効果ガス)排出量をずっと増やし続けてしまうことが懸念されています。アンモニア燃料は燃焼時に二酸化炭素を出さないことになっています。しかし製造段階で大量の二酸化炭素を排出しているというのが実態です。水素と窒素を混ぜてアンモニアを合成するのですが、まず石炭や天然ガスや石油などを原料に水素をつくる際に二酸化炭素を大量に排出します。合成する段階でも高温高圧が必要になって、さらに二酸化炭素が排出されます。

現時点では2030年までに既存の石炭火力発電所で(燃料アンモニアを)20%混焼することが目指されていますが、試算では、二酸化炭素排出量は4%程度の削減にしかなりません。わずか4%の削減を目指して7兆円をかけようとしてます。

2020年までにCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)で、(費用として)1トン当たり2,000円を目指していましたが、現状の試算では8,400円〜11,000円です。実際に火力発電所から二酸化炭素を100%回収することも無理です。日本のように地震の多い国では、漏れるリスクもあります。

発電部門での脱炭素化は、火力発電所を脱炭素化することではなく、ポテンシャルが非常に高くコストも安い太陽光や風力などに方向性を切り替え、効果的な省エネ対策をしていくのが何よりも大事だと思います」

実態がない次世代革新炉に世論を誘導している

革新軽水炉のイメージ。資源エネルギー庁HPより
革新軽水炉のイメージ。資源エネルギー庁HPより

*大島堅一さん(原子力市民委員会座長、龍谷大学教授)のお話から抜粋

「政府のいう次世代革新炉に実態はないのに世論を『それだったらいいんじゃないか』という方向へ誘導している。核融合なんて絶対できません。日本は新型の原子力の開発で一度も成功したことがないんです。

また非常に短期間の間に原子力政策を決定しようとしています。原発は建設に20年かかります。その後40年から60年ないしはもっと長く運転するとさらに核廃棄物がたまって、処分に数百年から十万年かかるんです。国民的世論も聞いてない、国民の参加もないまま、このたった3カ月ほどでつくってしまったことで、まだ生まれてもいない人たちを22世紀、23世紀まで縛ってしまう。

3月にはGX実行会議で決まったことを他と束ねて法案化して、国会で採決してしまう可能性が非常に高いです。これは何としても阻止しなくてはならない。いったん法律がつくられてしまうと、元に戻すのは極めて難しいので、阻止することが重要です」

誰も犠牲にしないエネルギーの研究を

福島県避難指示地図
福島県HPより

*武藤類子さん(原発事故被害者団体連絡会代表) のお話から抜粋

「福島県三春町から参加しています。GX実行会議で原発回帰に方針を転換するということについて、原発事故の被害者の一人として、とても失望して、憤りを感じています。原発事故からまだ11年しか経っていません。

事故はまだ収束していません。いまも7市町村に帰還困難区域という、人が立ち入れないところがありますし、帰れない人が少なくとも3万人もいるといわれています。*5

私たちは、原発事故被害者として、もう同じことを繰り返させたくないと、この11年余りを生きてきたんです。政府はこの原発推進への唐突な方向転換を決めるときに、原発事故の被害者をどう見ていたのか。

ウクライナ戦争が始まって、原発が攻撃の対象になったときに、私は、原発は核兵器にもなりうるんだと思って改めて衝撃を受けまして、絶対なくさなければと思いました。

そして負の遺産としての原発の安全な廃炉と、放射性廃棄物の完全な管理を研究するべきだと思っています」

原発も化石燃料もいらない

グリーンピースは、本来の気候変動対策は、省エネとエネルギーの高効率化、そして極力環境負荷を低減した再生可能エネルギーへの転換が、最善策だと考えています。
原発に頼るのでもなく、温室効果ガスを排出するエネルギーにこだわるのでもなく、その場にあるもので地域のエネルギーをまかなえる仕組みづくりのために、行動を続けていきます。


*グリーンピースが提出したパブリックコメントはこちらで読めます。

https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2023/01/3c4d0740-greenpeacejapan_gx_comment_1.pdf
https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2023/01/7c0a7178-greenpeacejapan_gx_comment_2.pdf

*パブコメの結果:GX実現に向けた基本方針に対する意見募集の結果について

*来る2月25日に原子力資料情報室事務局長で、政府の原子力小委員会委員を務める松久保肇さんをお招きしてウェビナー「原発のはなし〜よくある質問・疑問でモヤモヤしているあなたのために〜」を開催します。お申込みと詳細はこちらから。

*1 GX基本方針全文 日本経済新聞 2022年12月23日 
*2 GX実行会議における議論の論点 2022年7月27日
*3 脱炭素・GX、総額150兆円超の投資に高まる期待 日経クロステック 2023.01.05
*4 原発による事故が起きないように決められたルールが、原発を利用するにあたっての都合を優先するルールに変わってしまうということ
*5 2023年2月、政府は先行的に除染をおこなっている「特定復興再生拠点区域」の他に、新たに「特定帰還居住区域」を設ける改正案を閣議決定した

続けて読む

▶︎原発の電気を使うということ
▶︎誰も知らない「廃炉」のゴール
▶︎戦時下のチョルノービリで起きていることを調べました

原発のない未来をつくるために

今の子どもたちが大人になった社会、次の世代が生きていく社会で、少しでも安全に暮らせるように、”どこかの誰か”がリスクを負うような不条理をなくすために、「原発なし」で二酸化炭素排出実質ゼロを達成することを、政府に求めます。ぜひ、以下のページでご署名をお願いします。