水没する世界的なモニュメントのレプリカ
水没する世界的なモニュメント。調査によって現在ユネスコに世界遺産として登録されている700以上の遺産のうち、140か所が今後2000年の間に水没の恐れがあると報告されている。(2010年12月)

今、地球の気候、環境にはどのようなことが起こっているのでしょうか。そして、私たちは誰の話を聞き、誰の言うことを信じればよいのでしょうか。世界をリードする気候科学者たちが、気候の緊急事態をどのように評価しているのかをわかりやすく解説します。

▼この記事を読むとわかること

> IPCCとは?
> IPCCの最新報告書には何が書かれている?
> 気温上昇のシナリオ<1.2℃、1.5℃、1.5°C〜2.5°C、2°C〜3°C>
> 私たちがすべきこと

IPCCとは?

気候についてのニュースでよく目にする「IPCC」。「IPCC」とは、気候変動とその対策についての科学的な知見を国際的に報告する世界的組織です。

世界中の専門家、科学者たちが、科学誌などに掲載された論文などに基づいて定期的な報告書を作成し、世界的に公表しています。

IPCCの報告書は、世界中の政策を決める際に参照され、気候変動にまつわる国際交渉や、国内の政策決定のための基本的で重要な情報になっています*

IPCCの最新報告書には何が書かれている?

IPCCの第6次評価報告書が、2023年3月20日にパリ協定以来、9年振りに包括的にまとめられました。

過去10年間に発行された何千もの査読済み研究論文を、世界の科学者たちがしっかりと分析した、信頼性の高い気候変動についての最新情報です。

第6次評価報告書にまとめられている内容を、かいつまんでお話しします。

▶︎受け止めなければならないこと

泥の中、避難する南スラウェシ島の住民たち。
豪雨により、川の氾濫が起こり、鉄砲水の被害が発生した。泥の中、避難する住民たち。南スラウェシ島(2020年7月)

まずは受け止めなければならない辛い事実です。

人間が引き起こした気候変動はすでに広範囲に及んでいて、急速に悪化しています。気候変動の影響とリスクはより深刻になっていて、それはこれまでの予想を超えるものです。影響とリスクは非常に不公平にもたらされていて、最も責任の低い人が、最も大きな打撃を受けています。

人間の活動が地球温暖化を引き起こしてきたことはもはや間違いなく、これまで予測されていたよりも10年早い2030年代には世界の平均気温上昇が産業革命以前から1.5度以上に達することが予測されています。

また、CO2排出累計量の4割以上が、過去20年間のものであったことが明らかとなっていて、もしこのまま政治が大きく動かなければ2100年までに約3.4度気温が上昇する可能性があります。

私たちは非常に高いリスクにさらされていて、取り返しのつかないものを失おうとしています。

▶︎まだ希望はある

磯子火力発電所と南横浜火力発電所を背に、「気候のSOS」、「再生可能へ」と書かれたバナーを掲げるグリーンピースのスタッフ。
日本で開催されたIPCC会議に先駆けて、磯子火力発電所と南横浜火力発電所を背に、「気候のSOS」、「再生可能へ」と書かれたバナーを掲げるグリーンピースのスタッフ。(2014年3月)

絶望的な気候変動への分岐点となる気温上昇1.5℃*を避けるための道筋は閉ざされつつあります。しかし、私たちが今すぐ行動すれば、まだ可能性は残されています。

2030年までに世界の温室効果ガスの排出量を半減させて、実質ゼロに近づけることは不可能ではありません。

そのためには化石燃料からの脱却が急務です。 私たちがすでに持っている化石燃料を用いた制度、システムは多すぎるのです。

*パリ協定で定められた気温上昇の分岐点。産業革命前から「1.5度以内」に抑えることが気候変動を激化させないために不可欠であることが合意されています。

▶︎どのように行動するべき?

ルクセンブルク政府に対して、気候対策を最優先事項にするよう呼びかけるグリーンピースの活動家たち
IPCCの報告書内容を踏まえ、グリーンピースの活動家たちが、ルクセンブルク政府に対して、気候対策を最優先事項にするよう呼びかけた。(2021年8月)

解決策は枠組みだけではなく、実際の生活に反映させ、実行していく必要があります。

公平性と誰も排除しない取り組みを基本として、

・温室効果ガスの排出量を2035年までに2019年比で60%削減
・世界の石油やガスを速やかに停止した上で、クリーンエネルギーと気候緩和対策に、現在投資している額の3〜6倍を投資する

などの具体的な対策で財政のギャップを埋めなければなりません。
マイナーチェンジではなく、大きな変革が求められています。すべての分野において、今すぐ、総動員での変革が必要です。

気温上昇のシナリオ<1.2℃、1.5℃、1.5°C〜2.5°C、2°C〜3°C>

気温上昇が起きてしまった場合には、どんなことが起こるのでしょうか。考えられているシナリオを紹介します。これらは科学者たちがファクトに基づいて述べている内容で、決して想像上のお話ではありません。

・1.2℃気温が上昇したら…

暑さで大量死してしまったワシントンDCの魚。
暑さで大量死してしまった魚。ワシントンDC(2016年8月)

現在、気温上昇はすでに1.1℃を超えています。目前にある1.2℃気温が上昇した地球では、樹木が大量に枯れ、サンゴの白化現象も更に進み、海氷がなければ生きられない種が大幅に減少し、熱波による生物の大量死などの現象で多様性に満ちた生態系が大きな危険にさらされると予測されます。

・1.5℃気温が上昇したら…

燃えるアマゾンの森林
燃えるアマゾンの森林。森は数日間燃え続けた。ブラジル、ポルト・ヴェーリョ。(2022年8月)

気温が1.5°C上昇してしまった地球では、陸上生態系の最大14%もの種が絶滅の非常に高いリスクに直面する可能性があります。 
そして極端な暑さ高温多湿豪雨とそれにともなう洪水熱帯低気圧山火事海面の水位上昇がますます悪化します。

・1.5°C〜2.5°C気温が上昇したら…

カリフォルニア州西部全域で発生した記録的な山火事と干ばつで燃えた乗用車。
カリフォルニア州西部全域で記録的な山火事と干ばつが発生。住宅や乗用車などの家財が破壊され、あたりは廃墟となった。(2021年8月)

気温が1.5°C〜2.5°C上昇してしまった地球では、氷床が不安定になり、熱帯林では生態系の喪失が起こり、大規模な特異事象または転換点に関連する危険度が高いリスクへと移行します。
1.9°Cの温暖化では、 2100年までに人口の半分が、極度の高温多湿の影響が相まって生命を脅かす気候条件にさらされる可能性があります。

・2°C〜3°C気温が上昇したら…

水没する世界的なモニュメントのレプリカ
水没する世界的なモニュメント。調査によって現在ユネスコに世界遺産として登録されている700以上の遺産のうち、140か所が今後2000年の間に水没の恐れがあると報告されている。(2010年12月)

2°Cから3°Cの間の温暖化レベルが持続すると、グリーンランドと西南極の氷床はほぼ完全に、かつ不可逆的に失われてしまいます。

私たちがすべきこと

科学者たちの報告を受けて、私たちが今すべきこと、できることはなんでしょうか。

それは市民として、科学的知見が鳴らす警鐘に耳を傾けるよう、声を上げて政府や企業を動かすことです。

科学者たちは、まだ破滅的な気候変動を引き起こす気温上昇「1.5℃」を回避するための道筋には手が届くと言っています。しかし、報告書には同時に、そのためには化石燃料への依存から直ちに脱却することが不可欠であると明言されています。

日本はいまだに化石燃料に頼った石炭火力発電中心のエネルギーを使い続けていて、石炭火力から脱却するためのシナリオも用意できていません。

このままでは破滅的な気候変動へと世界が転がり落ちてしまうのを、日本が後押しすることになってしまいます。

G7広島サミットの開催が間近となった今こそ、日本政府に対して石炭火力から再生可能エネルギーへのシフトを求めましょう。

グリーンピースがあなたの声を政府に届けます。

G7サミットで、岸田首相に
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