AIを支えるチップ製造やデータ処理が、膨大な電力を消費し、気候変動の新たな火種となっています。グリーンピースの最新調査をもとに、環境負荷の実態と持続可能な未来への対策を解説します。

AIが環境問題に影響? データセンターと半導体製造の2つの負荷

出典:Google

AI(人工知能)の進化は、私たちの暮らしや仕事を便利にする一方で、環境への新たな負荷を生み出しています。

生成AIの利用拡大に伴い、それを支えるデータセンターやAI半導体の製造が、大量の電力と水を消費し、温室効果ガスの排出も急増しているのです。
本記事では、グリーンピースの最新調査をもとに、AIと環境問題のつながりをひもときながら、課題と対策をわかりやすく解説します。

いまや生成AIは、私たちの生活や仕事のさまざまな場面で日常的に使われています。その便利さの裏で、環境への負荷が急激に高まっていることをご存じでしょうか。AIを動かすには、莫大な電力を消費するデータセンターと半導体の製造が欠かせません。

生成AIの裏にある莫大な電力消費とは

生成AIは、複雑で膨大な計算処理を高速に実行することが特徴です。この処理は高性能GPU(画像処理半導体)などを用いてサーバ上で行われ、大量の電力を消費します。こうしたサーバーを設置し、冷却などを含む設備を運用するデータセンターを稼働させるには、多くの電力が必要です。

そしてそれらの電力が化石燃料を用いて発電されたものであれば、二酸化炭素(CO2)を排出します。生成AIの普及とデータセンターの拡大は、こうした背景から気候変動を加速させる大きな要因になるといわれています。

実際、グーグルやメタ、マイクロソフト、オープンAIなどの巨大テック企業も、排出増加の問題に直面しており、電力の調達を見直す動きが進んでいます。たとえば、メタは原子力発電所から20年間にわたり電力を購入する契約を交わしました。マイクロソフトは、原発事故のあった米スリーマイル島原発の再稼働による電力供給を受けることを明らかにしました。

グーグルとマイクロソフトのデータセンターは2023年にそれぞれ約24テラワットアワー(TWh)の電力を消費しており、これはアイスランド(約19TWh)やヨルダン(約20TWh)といった国々の年間電力消費量を上回る規模に相当するとのことです。*

このように、AIの裏側では電力需要が急増していますが、環境負荷の実態はブラックボックス化しており、企業側からの透明性も求められています。

データセンターによる環境負荷の増大

AIによる環境への影響を調査したグリーンピース・ドイツの報告書は、AIデータセンターの拡大で、電力消費、二酸化炭素(CO2)排出、水資源使用が増大すると警告しています。

まず、AI関連に限定したデータセンターの電力消費は、2023年の50TWhから2030年には554TWhと、わずか7年で11倍に増える見通しです。

AI専用ハードウェアがデータセンターで消費する電力の割合は2023年の14%から、2030年には47%に増加すると予測され、世界中のデータセンターの電力使用量のうち、約半分をAI関連が占める計算となります。

これに伴い、AI専用インフラに由来するCO₂排出は、2023年の約2,900万トンから2030年には約1億6,600万トンにまで跳ね上がると予測されています

さらに、データセンターでの水資源の消費も深刻な問題です。データセンターではサーバーが発生する熱を冷却するために、大量の水が使われています。2023年に世界のデータセンターで消費された水の量は1,750億リットルで、2030年までに年間6,640億リットルと3倍以上に増加すると推定されています。水資源の乏しい場所にデータセンターを立地すると、地域に水不足を引き起こす懸念が高まっています。

出典:Report: Environmental Impacts of Artificial IntelligenceAIの進化に伴う水消費量の拡大と対策

半導体製造の環境への影響

出典:NVIDIA

AI半導体チップ(以下、AIチップ)の需要が拡大する中で、その製造プロセスで必要となる電力も急増しています。グリーンピース・東アジアの調査によれば、2023年から2024年にかけて、AIチップ製造に伴う電力消費は世界で350%以上増加したと推定されます。

主な要因は、依然として石炭など化石燃料由来の電力に大きく依存していることです。製品が完成する前の段階から、大量のCO2を排出しているのが実態です。とくに東アジア地域では、火力発電の比率が高く、再生可能エネルギーの普及も遅れているため、電力供給の脱炭素化が大きな課題となっています。

出典:Chipping Point – Tracking Electricity Consumption and Emissions from AI Chip Manufacturing

東アジアが環境負荷の中心地になっている理由

AIチップ製造の拠点が集中する東アジアでは、その影響が顕著です。台湾、韓国、日本、中国などには世界有数の半導体製造工場が集積していますが、これらの地域の電力構成は、依然として石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料が中心です。

そのため、AIチップの生産が拡大するほど、CO2排出量が増えるという構造的な問題が生まれています。

東アジアはAIの恩恵と同時に、その環境負荷の“震源地”になっているという現実があります。

出典:Chipping Point – Tracking Electricity Consumption and Emissions from AI Chip Manufacturing

AIの成長を環境負荷にしないために、求められる3つのアクション

では、急成長するAI技術が、地球環境に与える負担を最小限に抑えることはできるのでしょうか。
環境とテクノロジーの進化を共存させていくうえで、AI産業に関わる企業や政府が果たせる役割をそれぞれ見ていきます。

出典:Report: Environmental Impacts of Artificial Intelligence

半導体企業による環境責任の明確化

まず、半導体の製造企業が再生可能エネルギーを調達することは、喫緊の課題です。

先にお伝えしたとおり、東アジア地域の発電方式の大半が化石燃料に依存しており、AIの普及に伴い、環境への負荷はより一層増していくことになります。

この状況を変えるには、製造企業が再生可能エネルギーを自社で調達する体制を整えることが不可欠です。

出典:Chipping Point – Tracking Electricity Consumption and Emissions from AI Chip Manufacturing

自社発電・PPA・再エネ発電所への投資

再エネ調達の具体的な方法として、グリーンピースは報告書で3つの選択肢を示しています。

1つ目は、オンサイト発電。工場やオフィスに太陽光パネルや風力発電設備を設置し、自社で電力をまかなう方法です。

2つ目は、PPA(Power Purchase Agreement)の活用。PPAは、再エネ電力を発電事業者から長期契約で購入する仕組みのことで、安定供給と環境配慮の両立が可能になります。

3つ目は、再エネ発電所への直接投資。発電事業に資金を出すことで、再エネ供給源を新たに生み出すことができます。

これらの手法は、再エネ電力証書を購入するだけの方法とは異なります。いずれも実際に、新たな再エネ設備の増加を促す効果的な取り組みとして評価されています。

出典:Chipping Point – Tracking Electricity Consumption and Emissions from AI Chip Manufacturing

テック大手による環境責任の明確化

次に、グーグルやメタといったAIモデルを開発するテック大手が、サプライチェーン全体に対する環境的責任を明確にすることです。

AIチップの製造やデータセンターにおける環境負荷は、製造企業だけの問題ではありません。実際にそれらを「発注」する立場にあるテック企業やプラットフォーマーこそが、環境への責任を強く意識する必要があります。

再エネ化を条件とした発注や支援が必要

AI開発企業は、AIのサーバーや半導体チップの製造を外部の企業に委託しています。もし発注する側が契約段階で「再生可能エネルギーによる製造」や「脱炭素基準の遵守」といった条件を提示すれば、委託先企業の環境対策は大きく前進するでしょう。

サプライチェーンの起点から環境配慮が徹底されることで、AIによる環境への影響を根本から見直すことが可能になります。

また、再エネ移行を後押しするための技術協力や資金援助も効果的です。製造拠点のある地域で再エネインフラの整備を促し、持続可能な生産体制の実現につながります。

発注する企業の環境基準が厳格になるほど、サプライチェーン全体のカーボンフットプリント削減につながるのです。

出典:Report: Environmental Impacts of Artificial Intelligence

政府・自治体による支援と規制の強化

3つ目に、AI関連産業が拡大するなか、国や自治体には政策・制度面での後押しが求められます。

たとえば、再エネ設備への補助金や税制優遇、送電網整備の支援などは、再エネ導入の障壁を下げる有効な施策です。さらに、自治体レベルで再エネ導入目標を設定することで、企業の行動を後押しする圧力にもなります。

また、再エネ利用を条件とする産業立地政策や、地域との連携によるグリーン雇用の創出も、AIと環境の共存に向けた鍵となります。

出典:Chipping Point – Tracking Electricity Consumption and Emissions from AI Chip Manufacturing

液化ガスや原子力への依存ではなく再エネ優先を

一部の国や地域では、再エネではなく液化天然ガス(LNG)や原子力を「脱炭素」の手段として推進する動きもあります。しかしながら、これだけでは気候変動危機の根本的な解決にはなりません。LNGは化石燃料であり、燃焼過程でCO2を排出します。

原子力もCO2排出量は少ないものの、放射性廃棄物の処理問題や事故リスクを抱え、持続可能とは言えません。

グリーンピースは、地域社会にも利益をもたらすかたちで再生可能エネルギーを導入・拡大することこそが、AIと環境の両立を実現する唯一の道であると強調しています。

出典:Report: Environmental Impacts of Artificial Intelligence

私たちが選ぶ“未来のAI”とは? 環境との共存を考えるために

AIが急速に進化し便利さが増す一方で、私たちはその環境負荷について考える必要があります。
たとえば、環境に配慮したクラウドサービスや、データセンターに再エネを用いるサービスを選ぶことも、個人にできるアクションのひとつです。

さらに、企業の環境対応を評価する仕組みを支持したり、気候正義を掲げる団体と連帯したりすることも重要です。将来的には食品のカロリー表示のように、AIにも「CO2排出量ラベル」が必要とされる時代が来るかもしれません。

持続可能なAIを実現するには、企業だけでなく、利用者である私たちも、選び方に責任を持つことが求められているのです。

出典:Report: Environmental Impacts of Artificial Intelligence

テック企業の再エネ調達とRECsの限界

多くのテック企業が「再エネを利用している」とアピールしていますが、実は必ずしも実使用を伴っているとは限りません。

背景には、再生可能エネルギー証書(RECs)という仕組みがあります。RECsとは、再生可能エネルギーによって発電された電力であることを証明する環境価値の証書で、実際の電力と切り離して売買することも可能です。

つまり、RECsを購入すれば、帳簿上ではクリーン電力を使用しているとみなされるものの、実際に使われている電力が再エネ由来とは限らないのです。

実際の電力網に再エネ電源を供給する取り組みこそ重要であると、グリーンピースは考えます。RECsでは電力の実態は変わらず、温室効果ガスの削減には直結しません。

本当の意味での再エネ化を進めるには、自社発電やPPA契約、再エネ発電所への直接投資といった、物理的な再エネ供給の仕組みが不可欠です。

出典:Report: Environmental Impacts of Artificial Intelligence

脱炭素とシステムチェンジの実現に向けて私たちにできること

AIをはじめとしたテクノロジーの発展が環境負荷をかけないようにするためには、「脱炭素」だけでなく、「システムチェンジ」という視点が欠かせません。

たとえば、プラスチックの生産量を国が規制することで、消費者が手にするプラスチックの量も自然に減っていきます。

エネルギーの置き換えではなく、こうした経済や産業のあり方を再設計することで環境負荷を減らす努力が私たち人間には求められています。

また、企業や政府だけでなく、私たちが声を上げることはシステムチェンジの一部となります。環境団体への寄付や署名、政策提言の支持といったひとりひとりのアクションは社会全体を動かすきっかけになります。

グリーンピース・ジャパンは、科学的根拠に基づいて環境問題に取り組む国際環境NGOです。企業や政府への働きかけを通じて、気候変動やエネルギー問題、プラスチック汚染などの根本的な解決を目指しています。

そして、私たち一人ひとりの声やアクションこそが、その変化を後押しする大きな力になります。
AIの発展と環境問題を両立させるために、私たちにできることを同じ思いをもつ仲間たちと一緒に始めてみませんか?

ブログの内容を動画でもご紹介しています。ぜひご覧ください!