フィリピン・マニラ首都圏では、台風とモンスーンの影響で首まで浸かるほどの洪水が発生(2024年7月撮影)

大型化した台風「スーパー台風」の頻発や短時間強雨の増加、記録的な猛暑など、私たちの暮らしを脅かす異常気象が増えており、今や必ずしも「異常」とはいえないほど頻繁に発生するようになっています。

異常気象や気候災害の増加にはどのような背景と原因があるのでしょうか。そして、異常気象がこのままのペースで増え続けた場合には、どのような未来が予想されるのでしょうか。

大型化した台風「スーパー台風」の頻発や短時間強雨の増加、記録的な猛暑など、私たちの暮らしを脅かす異常気象が増えており、今や必ずしも「異常」とはいえないほど頻繁に発生するようになっています。

異常気象や気候災害の増加にはどのような背景と原因があるのでしょうか。そして、異常気象がこのままのペースで増え続けた場合には、どのような未来が予想されるのでしょうか。

また、地球温暖化と気象事例との関係性や、実際に起きた異常気象をもとに、私たちにできる具体的な対策について考えてみましょう。

増え続ける異常気象

熱波に襲われたイタリア・ローマ市内の様子を熱画像カメラで撮影(2024年6月) 

2024年の世界平均気温は観測史上最高を記録し、産業革命前と比べて1.55℃上昇しました*国連の気象機関(WMO)は、異常な高温や海洋熱、極端な気象現象が多発し、多くの国で生命や暮らしに深刻な影響を及ぼしたと発表しています。干ばつ、洪水、熱波などの異常気象が猛威をふるい、経済損失は世界的に増加。温暖化による森林火災の悪化も顕著です。

また、基準氷河*の平均の厚さは、2021年10月から2022年10月の1年間で1.3メートル以上も減少しました。これは、過去10年間の平均を大きく上回る異常なペースです。さらに、南極の海氷は、2022年2月25日に記録上最小レベルの192万平方キロメートルにまで縮小しました。

*科学者が長期間にわたって変化を記録する観測対象の氷河や研究用の氷河。

異常気象の発生頻度と規模は年々増加し、異常気象が人間の生活に与える影響もそれにともない世界規模で深刻化しています。

世界で起きている異常気象

スペイン東部・南部で発生した豪雨で被害を受けたバレンシア市街(2024年10月撮影)

2023年には南スーダンで歴史的な洪水が長期化し、チリでは10年に及ぶメガ干ばつが大規模な山火事を拡大させました。南東アフリカではサイクロンによる死者が1,000人を超え、カナダでは900万ヘクタールの森林が焼失する大規模火災が発生、大気汚染が北米全域に拡大しました。

2024年には、米国ネバダ州ラスベガスで過去最高気温48.9度を記録し、インドのニューデリーでは1カ月以上40度を超える日が続きました。

スペイン東部では24時間で618ミリという記録的な豪雨が発生し、200人以上が死亡しました。南米ブラジル南部でも豪雨による死者が170人を超え、アフリカでは豪雨と洪水で数千人が命を落としています。

異常気象は地理的、気候的に多様な形で現れ、これまでの災害想定を超える規模で被害をもたらしています。

日本で起きている異常気象

日本でも異常気象の頻発化と被害の拡大が顕著に進んでいます。

2024年夏は猛暑が全国を襲い、観測史上最高の平均気温を記録しました。6月から9月の猛暑日の地点数の累計は10,273地点となり、比較可能な2010年以降最多となっています*また、7月には梅雨前線の影響で九州や四国地方を大雨が襲い、愛媛県松山市では松山城の斜面が崩壊し住宅に土砂が流入する被害が発生しています*

また、秋田県では2023年に観測史上最多の24時間降水量を記録し、各地で河川氾濫や土砂崩れが相次ぎました。冬季には日本海側で平年を大きく上回る積雪も観測されるなど、極端な気象現象が全国各地で観測されています。

近年日本では、これまで数年あるいは数十年に一度とされてきた「異常気象」による大きな被害が頻繁に発生しているのです。

異常気象とは?

九州・熊本県、豪雨による洪水と土砂崩れで広範な被害が発生(2020年7月撮影) 

異常気象とは、過去の通常の気象から大きく外れた気候の状態を指します。具体的には、大雨、暴風、数カ月も続く干ばつ、極端な冷夏や暖冬、それらによる気象災害も含まれます。予測が難しく、社会や生活に大きな影響を及ぼすことが特徴です。

気象庁では、ある地域、 場所や時期(週、月、季節)に「30年に1回以下」の頻度で発生する現象を異常気象と定義していますが、この頻度は増加傾向にあり、たとえば1時間の降水量が80ミリ以上、3時間の降水量が150ミリ以上、1日の降水量が300ミリ以上となるような強度の強い雨は、1980年頃と比較して約2倍程度増えています*

異常気象が発生する原因

深刻な干ばつのため干上がったブラジル・アマゾン地域のリオ・ネグロ川(2023年9月撮影)

異常気象が発生する背景には、地球の大気や海洋に元々備わる自律的で不規則な変動があります。

例えば、偏西風の流れが通常と異なる経路をとる現象や、熱帯地域の対流活動の変動が遠方に影響を及ぼす現象などはこうした「自然のゆらぎ」によってもたらされています*。自然のゆらぎが一方に大きく振れたとき、極端な高温や異常気象が発生します。ここでは異常気象の要因となる現象をみていきましょう。

しかし、注意すべきなのは、人為的要因による地球温暖化の影響で、この自然のゆらぎが地球が数万年以上続けてきたリズムを超えて極端化し、近年異常気象の発生頻度と強度を高めているという点です。

エルニーニョ現象とラニーニャ現象 

エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなる現象です。逆に、通常よりも貿易風が強まり、同じ海域で海面水温が平年より低くなる現象がラニーニャ現象です*

また、エルニーニョ現象時には、世界的に異常な高温や豪雨、干ばつが発生しやすくなり、日本では冷夏や暖冬になりやすい傾向があります。ただし、2024年のように、エルニーニョ現象の収束後や、他の気象現象が複合的に影響しあうことで、猛暑になる場合もあります。

一方、ラニーニャ現象時には逆に寒冷や乾燥が強まり、日本では猛暑や厳冬、大雪が起こりやすくなるのが特徴で、夏と冬の寒暖差が大きくなります。

エルニーニョ現象とラニーニャ現象は数年おきに発生し、日本を含む世界中の気温や降水量に大きな変動をもたらし、異常気象の要因となっています。

ブロッキング高気圧 

ブロッキング高気圧とは、蛇行したジェット気流によって、同じ場所に長期間にわたり居座る高気圧のことで、偏西風を遮るところから名付けられました。この現象が発生すると、同じような天候が長期間続き、異常気象の原因となります*

長期間の晴天や高温、あるいは逆に長雨や低温が続くことがあり、悪天候がなかなか解消されない要因になります。日本では梅雨期にオホーツク海にブロッキング高気圧が形成されることが特徴です。

例えば、1954年の梅雨期で、ブロッキング型の流れが6月中旬から7月下旬までの約50日間も続いた事例があります。6〜7月の平均気温が極度に低下し、歴史的な凶作となりました。

北極振動

北極振動とは、北極地方と中緯度域の海面気圧がシーソーのように逆転する現象で、気圧の分布が大きく変動する大気のパターンを指します*。偏西風の南北シーソーでもあります。

北極振動によって、北極域の気圧が高く、中緯度域の気圧が低くなると、極域の寒気が南下しやすくなります。その結果、日本や北米、ヨーロッパなどで厳しい寒波や大雪が発生しやすいことが特徴です。

一方、北極振動によって、北極域の気圧が低く、中緯度域の気圧が高くなると、寒気の南下が抑えられ、日本では比較的温暖な冬となる傾向があります。

北極振動は数週間から数カ月単位で変動し、冬季の気温や降雪量に大きな影響を及ぼす重要な自然現象です。

自然現象を極端化させる地球温暖化

大気中の温室効果ガス濃度が人間の活動によって上昇していることで起きている地球温暖化は、大気と海のエネルギーを増幅させ、異常気象の発生頻度と強度を高める要因となっています。

温暖化が進むほど、世界的な水循環のバランスは崩され、気象現象が極端化し、異常高温や、海洋熱波、豪雨、干ばつなどの異常気象が発生しやすくなるのです*

地球の平均気温が上昇しているため、大気中の水蒸気量が増加し、温かく湿った空気が、豪雨やハリケーン、台風などの強力な嵐を引き起こすエネルギー源となっています。また、温暖化による高温化、乾燥は山火事や干ばつのリスクを高めてもいます。

異常気象は深刻な影響をもたらしている

デンマーク南部、干ばつで枯れてしまったトウモロコシの穂(2018年8月撮影)

異常気象は、私たちの生活や社会全体に深刻な影響をもたらしています。豪雨や洪水、猛暑、干ばつ、山火事などの自然災害を増加させ、日常生活やインフラに大きな被害を与えているのです。

生態系のバランスが崩れ、動植物の生息地が失われるなど、環境への影響も深刻です。さらに、農作物の不作による食料供給の不安定化や、熱中症など健康被害の拡大、経済活動への打撃など、多方面でリスクが顕在化しています。

自然災害のリスクが増加

異常気象による自然災害のリスクは、世界的に急増しています。世界気象機関(WMO)は、熱波や豪雨、洪水、干ばつ、山火事などの災害は、過去50年間で5倍に増加したと報告しています*

例えば、ユニセフの発表によると、豪雨による河川氾濫や土砂崩れ、干ばつによる水不足、山火事による森林の消失などが各地で頻発し、少なくても85カ国で2億4,200万人が学校閉鎖などの影響を受けました。気候変動による気象災害の激甚化は、貧困問題や子どもの教育問題など、既存の社会問題をさらに深刻化させてしまうのです*

これらの災害は人命や財産を脅かすだけでなく、復旧復興に莫大なコストがかかり、社会や経済への負担も拡大しています。

複数の災害が同時発生するリスクも高まっているため、今後はより一層の備えと対策が求められます。

生態系の変化

生物多様性に富むブラジル・アマゾン地域だが、森林火災と伐採による破壊に直面している(2019年8月撮影)

異常気象は生態系に深刻な変化をもたらします。

山火事による森林の消失は、多様な動植物の生息地を奪い、生物多様性の大幅な減少を引き起こします*。干ばつや豪雨など極端な気象は、湿地や河川、沿岸部の生息環境を急速に変化させ、多くの種が生息地を移動させざるを得なくなったり絶滅の危機に晒されてます*

また、気温や降水パターンの変化により、サンゴ礁の白化や、動植物の分布の変化など、自然界のバランスが崩れています。

さらに、地球温暖化が進むと、多くの生物種が絶滅のリスクに直面し、特に熱帯雨林の生物多様性が大きく損なわれると予測されています。特に、本来、生物多様性が高い熱帯地域は、森林伐採や開発で生息環境が悪化し、温暖化の影響も受けやすくなります。

このまま森林破壊や温暖化が進行した場合、地球規模で生物多様性の大幅な減少が懸念されています*

食の安全と供給が不安定になる

異常気象は森林や湿地が持つ水質浄化や、洪水緩和機能、気候の調整機能を脅かし、農業、 林業、 水産業における生産性低下を招き水資源と食料の供給不安にもつながっています*

近年、日本各地で頻発する豪雨や台風などの異常気象は、農地や農業施設への被害を増加させています。

例えば、令和2年7月に発生した豪雨では農林水産関係の被害額が2,208億円にのぼりました。米や野菜、果物、畜産物など多くの品目で不作や品質低下が発生し、価格の高騰や供給不足が起きています。

水産分野でも、豪雨による養殖施設への被害や水温上昇による魚介類の大量死が報告されています。

今後、温暖化が加速すれば、異常気象の頻度と強度はさらに高まることになり、食糧価格の高騰をはじめ、食糧危機や栄養不足のリスクが懸念されているのです。

健康被害の増加

韓国・ソウルでの熱波。熱中症を防ぐため頭から覆いを被る親子(2018年8月撮影)

異常気象による健康被害は年々深刻化しています。日本国内でも、猛暑による熱中症の救急搬送者や死亡者は大幅に増加しており、2020年から2022年の3年間で、3,760人もの人が熱中症によって命を落としています*

高齢者や持病を持つ人は特にリスクが高く、熱中症以外にも心臓や腎臓、呼吸器疾患の悪化が報告されています。また、小児も同様に熱中症への脆弱性の高さが指摘されており、短時間で熱中症が悪化する傾向にあります*

また、寒波による低体温症や、豪雨、洪水による被害後の感染症拡大も問題です。さらに、近年多発する山火事では大量の煙やPM2.5などの微粒子の発生を引き起こし、大気汚染による呼吸器疾患や心臓病のリスクを高めます。

このように異常気象は多様な健康リスクを拡大させ、社会全体の公衆衛生に深刻な影響を及ぼしています。

経済活動への影響と損失

世界気象機関(WMO)の報告によると、1970年から2019年の50年間で気象災害による世界全体の経済損失は約3兆6,400億ドル(約400兆円)に達しました*

特に2010年から2019年の10年間では、1日あたり約3億8,300万ドル(約421億円)の損失が発生し、1970年代と比べて7倍に増加しています。

ハリケーンや洪水、干ばつなどの異常気象は、農業や漁業、観光業、インフラの破壊、サプライチェーンの混乱を引き起こし、企業や雇用にも深刻な影響を及ぼし、経済にも大きな打撃を与えているのです。

今後も気候変動の進行を食い止められなかった場合には、経済的なリスクと損失はさらに増大すると予測されています。

異常気象を食い止めるための具体的な対策や取り組み

韓国・ブサンで行われた国際会議での署名提出の様子。世界中から集まった290万筆の署名が手渡された(2024年11月撮影)

異常気象を抑制するためには、温室効果ガスの排出削減が不可欠です。再生可能エネルギーの導入拡大、省エネの推進、森林保全など、国際的な協力と地域レベルでの取り組みが求められます。

グリーンピースでは、温室効果ガス排出の増加、生態系への悪影響、大気汚染を引き起こすプラスチックの大量生産に歯止めをかけるために、生産規制や使い捨て文化からの脱却、リユース社会の実現を強く訴えています。2040年までにプラスチックの生産量を75%削減する法的拘束力のある国際法の誕生を求め、賛同する人々の声を世界のリーダーたちに直接届けました。

こうした企業や政府への働きかけが、より実効的な気候変動対策や資源循環型社会の実現を後押ししています。個人の意識改革だけでなく、社会全体での取り組みが重要です。

異常気象を減らすために私たちができること

ドイツ・ケルンで、自転車愛好家やボランティア、住民が参加した自転車ラリーを行って交通政策の改革を求めた(2018年6月撮影)

異常気象を減らすために私たちができることは多くあり、その中には、日常生活の選択を見直すことも含まれます。家庭の電力に再生可能エネルギーを選択したり、省エネの心がけ、自転車や公共交通機関の利用、食品ロスの削減など、毎日の生活の中にもできることはたくさんあります。

しかし、個人レベルのアクションだけでは、残念ながら現在急速に進む温暖化と気候状況の悪化を食い止めることは、すでに難しい段階に入っています。だからこそ、一人ひとりにできるアクションを取り入れつつ、同時に、社会システムの変化を進めていくことが不可欠なのです。そのためには仕組みを変える力を持つ企業や政府への働きかけが必要です。

グリーンピースは、科学的な調査に基づき、持続可能な社会の実現に向け、政府や企業との対話を重視し、変化をもたらすための働きかけを行なっています。多くの市民からの声と思いを届けるために、科学的データを示しながら、対等な関係で交渉できる場を設定し、働きかけることで、政策や社会の仕組みを動かし、未来を変えることができるのです。

異常気象が「日常」となってしまう前に、私たち一人ひとりができることを行動に移すことが、未来の社会と地球を守る第一歩です。システムチェンジを加速させる効果的な選択として、寄付というかたちでグリーンピースの活動を支えることをぜひご検討ください。