気候変動を抑えるために、なぜ豊かな海が必要なのか?
地球環境の未来について、危機的な話を聞かない日はほとんどないこの頃。海洋もまた、危機に瀕しています。
豊かな海は、数十億の人々に食料を提供し、気候を安定させ、地球上の命を維持する上で重要な役割を果たしています。
でも今週、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した特別報告書では、気候危機によって海も危機にひんしていることを示す厳しい科学的証拠が挙げられていました。
人が化石燃料を燃焼させることで大気に放出しているCO2は 地球を温暖化させます。これによっていま、氷床と氷河が驚くべき速度で溶け、海面が上昇し、数百万人が避難せざるをえなくなる恐れがあります。
CO2は海にも吸収されていきます。それは海にとっては好ましくないことです。なぜならCO2を吸収すればするほど海はより酸性になり、酸性の海は、温かい海に生息する美しいサンゴ礁や殻をもつ生物をはじめ、さまざまな動物、植物プランクトンの 成長や繁殖に悪い影響を与えるのです。
海の生きものたちの危機は、気候を安定させる地球のシステムの危機でもあります。 海の生物は、炭素を取り込んで蓄え、海の中に閉じ込めます。
たとえば沿岸地域ではマングローブ林や海草の茂みが水中の堆積物や土壌中に炭素を貯め込みます。 そして、海の生きものは食物連鎖で炭素を取り込み、そのほとんどが最終的に死んで深海の底に沈んでいきます。
気候変動対策を、この自然なプロセスだけに頼ることは決してできません。まずは炭素排出を停止する必要があります。しかし同時に、炭素が貯蔵されている地域や、広い海を保護することも不可欠です。さもなければ、気候危機はさらに悪化してしまうでしょう。
海への驚異はIPCC報告書で警告されている気候の緊急事態にとどまりません。乱獲、沖合の石油およびガス掘削、プラスチック汚染などの破壊的な人間活動が、海の破壊を悪化させ、海が気候変動に対応する能力や、その影響を和らげる力を奪っています。
そんな中、ひとつの希望があります。
今、世界の海を保護する大きなチャンスがあります。
各国政府はいま、国連のもとで世界の海を守る国際条約づくりの交渉をしています。強力な国際条約が合意されれば、近い将来、2030年までに少なくとも公海の30%を人間の活動の影響を受けない海にできる可能性があります。
このように広範囲で海を保護できれば、人の活動でダメージを受けた海の生きものの生息状況を回復させ、成長を助け、豊かな海を蘇らせる大きな効果をもたらすことになります。回復力のある海は、気候変動の悪化するペースを抑え、地球上の生命を支え続けることができます。
先月、各国政府は最後から2番目の条約交渉を終え、残すところあと1回となりました。多くの国が好意的な姿勢を見せていますが、国際条約を確実にするのに十分な意欲を示している国はまだほとんどありません。
今回のIPCCのレポートは、気候危機の中をさまよっている政府を呼び覚ます警鐘です。政府はこの条約交渉を優先事項の一つとして、首脳や閣僚級など責任ある立場の人を来年ニューヨークで開かれる最後の会合に派遣し、協力な国際海洋条約に合意する必要があります。
同時に、政治およびビジネスのリーダーは、海洋危機の根本原因に取り組む必要があります。
エネルギーシステムを原子力や化石燃料から100%再生可能エネルギーに転換する取り組みを加速し、森林破壊を止める必要があります。 炭素排出量を正味ゼロまで削減し、気候変動が海洋に与えるストレスが緩和されれば、国際的な海洋保護区のネットワークの効果が十分に現れ、海の生きものの健全な生息状況を取り戻すことにつながります。
私たちのリーダーに決定的な行動を要求するのに、今がかつてないチャンスです。世界の約200万人が強力な世界海洋条約を求めています。
私達が海を守れば、海も私達を守ってくれます。