2020年10月26日、菅首相が2050年までの二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロを宣言しました。

しかし、その具体策は、(相変わらず)原発を再稼働させることでした。

世界を見れば、東電福島原発事故発生後に多くの国が脱原発に舵を切っています。(2021年3月追記 注参照)

本当に2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを実現するためには、原発は動かさず、省エネと自然エネルギーの利用によるCO2排出実質ゼロをめざしましょう。

なぜなら、原発は、そもそも温暖化対策にはならないからです。その理由はたくさんありますが、主に5つにまとめてみました。

1. 省エネと自然エネルギーがますます遅れる

二酸化炭素削減を原発に頼ることで、二酸化炭素排出ゼロのためには欠かせない、省エネの促進と自然エネルギーの拡大がますます遅れることになってしまいます。

原発は事故の危険と常に隣り合わせ。東京電力福島第一原発事故では、事故発生から10年近くがたった今も、数万人が避難生活を強いられています。核のごみ(高レベル放射性廃棄物)は、数万年も隔離する必要がありますが、その方法も場所も決まっていません。

それにもかかわらず原発をCO2削減の対策とすると、原発という間違った解決策にお金と時間と政策支援が使われ続けることになってしまいます。そうすると、省エネと持続可能で安全な自然エネルギーの拡大を進めるという、有効で必要な政策を遅らせる原因になります。

日本には、40年も前の1980年の省エネ基準でつくられた、断熱されていない、機密性も低い建物が多くあります。自然エネルギーも、太陽光は飛躍的に増えているものの、風力や地熱利用はなかなか増えていません。二酸化炭素削減策を原発に頼らないと決めることで、省エネも自然エネルギーの普及も進みます。

2. 原発はすぐ止まる

原発は、トラブル、不祥事、裁判、自然災害などで計画通りの運転ができないことがよくあります。そのたびに、不足分を補うために火力発電を動かすことになります。また、トラブルがなくても、約1年ごとに、定期点検を行うために、3カ月程度運転を停止します。その間のバックアップのために、原発が増えるとともに火力も増やしてきました。原発に頼ったばかりに、逆に二酸化炭素の排出が増えることになってしまったのです。

今、日本には33基の原発があります。そのうちの14基は、稼働から30年を超える老朽化した原発です。古くなればなるほど、不具合も増え、再稼働したとしても発電は不安定になります。

関西電力が所有する老朽化した高浜原発。

33基の原発のうち、東電福島第一原発事故の後につくられた原発の規制基準で、運転を許可された原発は9基です。しかし、四国電力の伊方原発3号機が裁判で運転差し止めとなっているほか、不具合などで定期点検を終了させることができない原発もあり、2020年11月14日現在、九州以外で動いている原発はありません。

3 原発も温暖化を進める

原発も発電のしくみは火力と同じで、お湯を沸かしてその蒸気でタービンを回します。

原発の燃料のウランは、核分裂による熱でお湯を沸かすので二酸化炭素が出ません。

船で輸送される核廃棄物

けれど、燃やした後は使用済み核燃料となり、数万年、環境から隔離しなければなりません。その設備の建設、維持している間も二酸化炭素は排出されます。

もう一つの問題は「温排水」です。原発では燃料を冷やすために海水を使います。その水は温まってしまいますが、それを海に捨てています。入れたときより7度〜10度温まった状態で棄てられるため、海水温を上昇させ、排水口付近の生態系に影響を与えてしまいます。

また、その水は温まっただけでなく、化学物質や放射能が含まれ、海水温の上昇に加えて、化学物質と放射能も生態系に影響を与えます。

4. 気候危機回避に間に合わない

原発は、計画から稼働開始までとても長い期間がかかります。

気候危機はまったなし。壊滅的な気候変動の被害を避けるために、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を、できるだけ早く、大きく減らすことが重要です。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人間が暮らし続けられる気候を保つためには、まずは2030年までに現在の二酸化炭素排出量を半減する必要があるとしています。つまり、この10年が勝負です。

原発は計画から稼働開始まで長い時間がかかります。たとえば、日本で1番新しい原発は2009年12月に運転を開始した北海道電力の泊原発3号機です。北海道電力が、泊原発3号機の建設のための準備について、泊村に申し入れしたのは1996年です。工事開始は2003年。申し入れから完成までに13年かかっています。現在建設中の電源開発の大間原発の着工は2008年ですが、完成は「未定」です。

すでに大きな被害をもたらしている気候変動。この10年でCO2を半減しないと間に合わない

5 原発は持続可能じゃない

原発は、通常運転でも大量の放射能を海や大気に放出しています。また、その運転は、原発で働く人々の「被ばく労働」が前提です。

原発労働者の放射線管理手帳。被爆歴が記録される。元原発労働者提供、グリーンピース・撮影。

原発は、持続可能な発電方法ではありません。

そして、過酷事故が起きれば、被害は甚大です。

東電福島第一原発事故では16万人以上が避難し、発生から10年になろうとする今も4万人が避難生活を余儀なくされています。溶けた核燃料に触れた汚染水は100万トン以上。事故対応に要する金額は、総額で81兆円との試算もあります(廃炉・汚染水処理で51兆円、賠償で10兆円、除染で20兆円:「日本経済研究センター」試算)。

2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロにするには

それでは、どうやって、二酸化炭素排出を実質ゼロにすればよいでしょうか。

実際に2050年二酸化炭素排出実質ゼロのためにつくられた「長野県気候危機突破方針」を見てみましょう。

  1. まずは省エネ。
  2. 使うエネルギーを3割に
  3. 再生可能エネルギーを3倍以上に

長野県の計画では、これで2016年度の総排出量1,450万トンのCO2を2050年度までに実質ゼロへ。

7割減なんてできるの?と思うかもしれません。

長野県のシナリオを見てください。(以下、長野県の資料より)

長野県では、ソーラー、小水力、バイオマス、地熱での発電に加え、太陽熱、バイオマス、地中熱という熱利用も試算に加えています。

(参考:次期戦略における政策体系(案)

自然エネルギーはあくまで「持続可能な」自然エネルギーでなければなりません。

だからこそ、まずは徹底した省エネが大事ですよね。

それでも、ものを燃やせばCO2は出ます。なので、実質ゼロにするためには、二酸化炭素を吸収してくれる森林を増やすこと、海洋、土壌を守ることが大事です。

いかがでしょうか。

わたしは、二酸化炭素排出実質ゼロは、歩いて楽しめるまち、省エネリフォームや自然エネルギーの活用で地域での仕事、雇用が生まれ、元気になるまちを思い浮かべます。

省エネと自然エネルギーによる温暖化対策で、ぜひ、そんなまちをつくりましょう。

参照:グリーンピースのブックレット「原子力は地球温暖化の抑止にならない

注:東電福島第一原発事故が発生してから10年目となる2021年3月11日、ドイツ環境省は声明を発表しました。(声明 声明グリーンピースによる日本語仮訳

ドイツは、東電福島第一原発事故発生前、原発の運転期間の延長を認める予定でしたが、事故発生後に運転期間の延長をやめて、脱原発を決めた国です。東電福島原発事故発生後にあらためて脱原発を決めた国はドイツ以外に、スイス、台湾、韓国、ベルギーがあります。

声明の中で、ドイツのシュルツ環境大臣は、原発のリスクをなくすためには、自国の脱原発だけではなく、地球規模での取り組みが必要なことを強調しています。気候変動対策を原発に依存することは大きな間違いだと断言しています。そして、原発は、もっとも高くつくオプションであり、さらに永く残り続ける核廃棄物を生むとして「それは持続可能からは程遠い。とくに、再生可能エネルギーがより安く、より安全で、持続可能なオプションとして利用可能なのだからなおさらだ」と結んでいます。