気候危機の行方を左右する国際会議「COP26」は、「グラスゴー気候協定」を採択して閉幕しました。石炭火力発電の段階的廃止を主要テーマとして交渉を進めてきた議長国イギリス、シャルマ議長は会議の結末について、涙して謝罪しました。COP26では何が起き、何が決まったのでしょうか?そして、何が決まらなかったのでしょうか?

英国グラスゴーで10月31日から開かれていた気候変動対策を話し合う国連の会議「COP26」は、会期を1日延長して13日、成果文書である「グラスゴー気候協定」を採択*して閉幕しました。

議長国の英国は10日、化石燃料への補助金や石炭の段階的廃止の加速を締約国に求めることを盛り込んだ合意文書の草案を公表し議論がまとまりかけていましたが、採択の直前に「脱石炭」の表現をめぐってインドなどが反発し、「段階的な廃止 (Phase out)」から「段階的な削減 (Phase down)」に表現が弱められました。合意文書とりまとめの全体会合の直前のインドの提案に対し、欧州や気候変動に脆弱な国々の代表は批判や怒りの声をあげましたが、中国は同調し、結果として、成果文書の採択を優先し、内容を後退させることになったのです。

石炭火力発電の段階的廃止をCOP26の主要テーマとして交渉を進めてきた議長国イギリス、シャルマ議長はこの土壇場のプロセスと結末に謝罪する異例の事態となりました。COP26閉幕後シャルマ議長は、「中国とインドは気候変動に最も脆弱な国々に自分たちの行動を説明する必要がある」と失望を露わにさえしました*

結局何が決まったの? COP26の成績表  

COP26を経て合意した「グラスゴー気候協定」では何が決められたのでしょうか?前進が認められた「プラス評価」と後退・停滞となる「マイナス評価」にわけて見ていきましょう。

COP26の会場で、”NOT FOR SALE 地球は売り物じゃない”とメッセージを掲げたグリーンピース (2021年11月)

プラス評価 

  1. 「パリ協定」で努力目標の位置づけに過ぎなかった気温上昇を1.5℃までに抑制することが世界の共通目標として明記
  2. 世界の温室効果ガス排出量を2030年までに45%削減し、2050年までゼロにする必要があることが明記
  3. 温室効果ガス排出削減枠をクレジットとして国際的に取引する仕組みなどが合意され、パリ協定のルールブック(実施指針)交渉が6年越しに完結
  4. NDC(国別削減目標)の更新期限を、予定の2025年よりも3年早い2022年末までに繰り上げ。温室効果ガス排出量削減目標を強化するよう求めることが明記
  5. 最終合意文書に初めて石炭など化石燃料の規制が明記
  6. CO2の25倍以上の温室効果があるとされるメタンの排出削減について初めて言及
  7. アメリカと中国が予想外の協力姿勢の表明(今後10年間、気候変動問題で協力して取り組むとする共同声明を発表)

マイナス評価

  1.  化石燃料削減を巡る表現がインドや中国の介入で土壇場で弱められ内容が後退
    1. 石炭火力:「排出削減措置が取られていない」石炭火力発電に修正され、CCS(二酸化炭素貯留・回収)技術を利用すれば石炭を使える余地が残される。また、「段階的廃止」が「段階的削減」に向けた努力の加速という表現に弱められる
    2. 化石燃料への補助金:「非効率的な」化石燃料補助金に限定され、「非効率」の定義も定められず、努力を求める文言になったため、実際には各国の裁量に委ねる結果に
  2. 先進国全体が気候変動対策として年間1000億ドル(約10兆9000億円)を拠出し、資金支援を行う目標のための具体的なコミットメントが提示されず
  3. 炭素市場に関する制度には抜け穴があり、企業や国がCO2を出し続けるための手段としてカーボン・クレジット※を利用することを阻止できない
  4. 脆弱なインフラや気候変動対策の遅れを抱える途上国への先進国からの資金援助、「損失と損害」の明確な計画は、実現に至らず

COP26では、「石炭の時代は終わる」というシグナルを送ることはできましたが、気温上昇を1.5℃に抑える目標は文書にただ残っているだけで、消極的で不十分だったと言わざるを得ません。現在各国が掲げている目標を達成しても、世界の気温は今世紀末までに2.4℃上昇する見通しです*

ドイツの石炭火力発電所前で、グレタ・トゥーンベリさんのスピーチから引用した「How Dare you? (どうしてそんなことができるのか?)」とメッセージを掲げるグリーンピース。(2020年5月)

なぜ日本がまた「化石賞」に?

COP26の間、日本は環境NGOなどが送る不名誉な「化石賞」を前回に引き続き受賞してしまいました。世界的に「脱石炭」に向かうなか、日本が「後進国」と評価を受けているのはなぜでしょうか。

理由1:脱石炭にコミットしないことを明確にした岸田首相の演説

COP26世界リーダーズ・サミットで演説する岸田首相(内閣広報室より)

岸田首相は首脳会合で演説*し、「既存の火力発電をゼロエミッション化」を掲げ、石炭火力発電の使用継続の姿勢を示しました。これは、排出されるCO2を回収し、地下に貯留するCCS(二酸化炭素回収貯留技術)付き火力発電に加え、水素やアンモニア混焼を理由に国内で石炭火力を使い続けるということです。またその「ゼロエミ火力」事業をアジアに展開していくことも言及しました。

しかし、「ゼロエミ火力」実効性には疑問だらけです。

経産省がすでに実用化を進めていると説明するCCS技術は、2020年までに49億トンのCO2回収に達する可能性がある*と言われてきたにも関わらず、実際には49億トンの1%にも満たないCO2回収しかできていません*。化石燃料の燃焼によって排出するCO2の量は世界全体で年間約360億トン以上である*ことを考えれば、CCS火力に期待を寄せることがいかに無意味であることがわかります。水素やアンモニア混焼に至っては、技術開発を進めている段階にすぎません。

未だ石炭火力の依存度が高いアジアでもカーボンニュートラルへの転換を進める国々が増えてきています。これらの国々が求めているのは日本政府の「石炭火力の延命策」ではなく、「自然エネルギーへの転換を主軸とした脱炭素インフラやシステムの構築」なのです。

理由2:重要な取り決めを見送った日本政府

今回のCOP26では成果文書とは別にさまざまな取り決めが合意されましたが、日本政府は同意見送りや不参加など後ろ向きな姿勢が目立つ結果となりました。

日本政府が見送った重要な取り決め

  • 石炭からの脱却:40カ国以上が署名
  • 化石燃料事業への公的融資停止:世界全体GDPの約1/3を占める20カ国以上が合意 
  • 2040年までに新車の排ガスをゼロにする:30カ国以上が合意

日本政府も参加した重要な取り決め

  • 2030年までにメタン排出を30%削減:100カ国以上が賛同
  • 2030年までに森林破壊を終わらせる:100カ国以上が署名
日本が巨額の公的資金を投じているインドネシアのバタン石炭火力発電所に反対し、日本大使館前で抗議アクションをするインドネシアの人々。(2016年1月)

不自然に消された「石炭」の文字

会期後に外務省が出したCOP26報告書や環境省が発表した国連気候変動枠組条約第26 回締約国会合(COP26)結果概要は、残念なことに日本政府が見送った取り決めについて一言も触れていません。

それどころか、不自然にも、「グラスゴー気候協定」に明記された「石炭」や「化石燃料」という言葉すらありません。本当に気候変動対策に取り組むつもりであれば、政府にとって都合の悪いことも情報発信をすべきではないでしょうか。

若い世代を中心に危機感を持ち、リーダーたちに対する不信感が広がる中、求められるのは情報隠ぺいとも疑われるような発信ではなく、真摯な対応と徹底した情報公開です。

COP26開催期間中、10万人以上が参加したグラスゴーをはじめ、世界各地でFridays for Futureなどの若者たちが路上に出て声を上げ、気候変動対策の強化を求めた(2021年11月)

リーダーたちに届かない若者たちの思い

この写真は、COP26の会場に置かれたビラです。

「会合に参加してあなたたちと交渉できない若者たちを代表して」として、要求が書かれています。最後は、「今日は何もできなくてもあなたの今日の決断を生きていく世代より」とくくられています。

COP1が1995年にベルリンで開催されて以来も、世界の平均気温は上昇し続けています。

閣僚級会合に参加できない若い世代の思いは尊重されたとは程遠く、各国の代表団をしのぐ500人超のロビイストを送り込んだ化石燃料産業の影響が見え隠れする結果もあり、COPのあり方や戦術を見直すべきと感じる人も少なくないのではないでしょうか。

100年後の地球がどうなるかはすべての参加国、そしてすべての参加者の意思決定にかかっているのです。

NDCの新たな更新期限となった2022年までに、排出削減を最優先事項に「脱環境後進国」になれるかがいま日本に問われています。

※カーボン・クレジット:温室効果ガスの削減・吸収量を定量化することで、削減が困難な部分の排出量を企業等が主にカーボン・オフセット(別の場所での吸収/排出削減量で相殺すること)へ利用するために取引されるクレジット