日本の家が、先進国の中でトップレベルで寒いことをご存知ですか? 家が寒いことは、私たちの健康を損なう深刻な要因となっている可能性があります。暖房をつけても家が寒いと悩んでいませんか? 家が寒いことで引き起こされる健康被害とその対策をまとめています。キーワードは「断熱」です。(※2025年12月12日更新)

ライターについて

山根 那津子

山根那津子 natsuko yamane / コンテンツライター 読書、スイミング、テニスが好き。人権について真剣に考えています。子どもたち、次の世代への責任を果たしたい。友達と笑ってビールを飲んでよく寝ればだいたい元気。

部屋の寒さが健康被害をまねく

あなたの家では、朝に暖房を入れる前の部屋の温度は何℃くらいでしょうか。もし18℃を下回っているようなら注意が必要です。家が寒いことや、部屋ごとの温度差が大きいことが健康被害に繋がることが、近年の研究で明らかになっています。

どれだけ暖房を効かせても部屋が暖まらないのは断熱性能が低いから。エアコンの送風口

WHO(世界保健機関)は、「住まいと健康に関するガイドライン」*で、冬場の室内温度を最低でも18℃以上にするよう強く勧告しています。とりわけ、高齢者や子ども、慢性疾患を持つ人には、さらに部屋を暖めることが推奨されています。

国別に見ると、イギリスにはもっと明確な室内温度の規定が存在します。英保健省が設ける「住宅の健康と安全の評価システム(HHSRS)」*では、人が健康でいられる温度が21℃前後であると謳われ、16℃以下になると健康リスクが高まるとされています。

室温と健康に関する研究はまだ少ないながらも、家が寒いことが不整脈や心不全などの心血管疾患、さらに肺炎や喘息などの呼吸器系疾患に悪い影響を及ぼすことが比較調査によって実証されています(WHO「室内低温が健康に及ぼす影響に関する系統的レビュー報告書」*)。

特に血圧への影響は顕著で、18℃よりも寒い家は、高血圧のリスクを引き起こす可能性があり、日本での調査でも、室内温度1℃の低下で、血圧の上昇を引き起こすと報告されています(60歳以上対象調査*)。

何℃になると健康被害に繋がるのか、室温を正確に見積もることは難しいですが、冬場の室温は最低でも18℃以上に保つべきであり、それを下回る部屋の寒さは健康にとって深刻な危険因子となってしまうのです。

なぜ? 暖かい地域の方が冬季死亡率が高い

家が寒いことがリスクになる心血管疾患、呼吸器系疾患は、命を脅かす危険な症状です。厚生労働省から発表*されている日本の死因のトップには、心疾患(2位)、脳血管疾患(4位)、肺炎(5位)がランクインしており、これらは実際に寒い時期に増加しています(2020年の結果)。

しかし、冬季死亡増加率の上昇は、寒い地域で目立つわけではありません。慶應義塾大学の伊香賀俊治教授が厚生労働省の統計を計算した結果*、2011年から10年間で、心疾患と脳血管疾患を含む冬季死亡の増加率が全国で最も大きかったのは栃木県でした。反対に冬季死亡率の増加が最も低かったのは北海道で、栃木県の増加率は北海道の2倍を超えていました。

増加率が大きかったのは上位から栃木県、茨城県、山梨県、愛媛県、三重県と、比較的温暖な気候の地域でした。

国土交通省「住宅の温熱環境と健康の関連」より 県別にみた冬季死亡増加率
国土交通省「住宅の温熱環境と健康の関連」より 県別にみた冬季死亡増加率

増加率が低かった都道府県には上位から北海道、青森県、沖縄県、新潟県、秋田県と、沖縄県以外は寒さの厳しい地域が並びます。伊香賀教授をはじめとする専門家は、北国の住宅に比べて、温暖な地域で住宅の断熱化が進んでいないことが健康被害に繋がっていると指摘*しています。

統計が語っているのは家の断熱性能の重要さです。

「家が寒い!」はこんなに怖い

家が寒いことで、どんな健康被害が起こる可能性があるのかを具体的に見ていきましょう。

部屋が寒いことによる健康被害は深刻。室内の気温を計る温度計

家の寒さが引き起こす健康被害

血圧の上昇:部屋間の温度差が大きく、特に床の温度が低い家に住む人の血圧が高い傾向にあることがわかっています。例えば、居間が18℃で、寝室が10℃である場合には両部屋とも18℃である場合より、起床時の最高血圧が2mmHg高く観測されました。

活動量の低下:家の寒さが人の活動性を奪っているという点も見逃せません。断熱改修を施した家では、居住者の身体的な活動時間が断熱前より1日につき平均で約22〜34分*も増えていました。身体活動量の減少は、体力や筋力の低下に繋がり、生活習慣病の発症リスク*を高めてしまいます。

ヒートショックの危険:日本では交通事故を遥かに上回る年間約2万人もの人が入浴中に急死*していると推計されています(厚生労働省研究班)。特に12月から2月の寒い時期に事故全体の約半分が発生しており、温度差の影響で血圧が急変するヒートショックへの注意*が呼びかけられています。18℃以下の家では、入浴事故のリスクが高まる42℃以上の熱めの入浴をする確率が1.8倍も高いことが報告されています。

過活動膀胱症状(頻尿):就寝前の寝室が12℃より低い場合、18℃以上の場合と比べ、夜間の頻尿が1.62倍に増加*していました。

認知機能の低下:脳と室内気温の相関についても近年研究が進んでいます。冬季の居間室温が低い家と比べ、室温が1℃高い家の居住者の脳神経が2歳若かったと報告されています。

(出典:国土交通省発表「断熱改修等による居住者の健康への影響調査」、国土交通省補助事業「住宅の温熱環境と健康の関連」

これらの健康被害は、特に高齢者ほど影響が大きいことがわかっています。2013年からの10年では、熱中症を上回る1万1,852人*が低体温症によって命を落としています。高齢になると体温調節機能の低下によって温度を感じにくくなるため、たとえ室内であっても温度管理が非常に重要です。

冬季死亡率は17.5%増加

日本では、冬季(12月〜3月)の死亡者数が、4月〜11月の間と比較して月平均で17.5%*も増加することがわかっています。原因として報告されているのは、呼吸器系、脳血管、心疾患など、家の寒さがリスクになる疾患です。家が寒いことで引き起こされる健康被害は、命にかかわる重大な問題なのです。

室温18℃未満で高血圧、コレステロール値悪化傾向

家の寒さの悪影響は、健康診断の結果にも如実にあらわれます。

朝の居間室温が18℃より低い家に住む人は、18℃以上の家に住む人に比べて、心電図検査において異常所見が多く見られました。また、総コレステロール値および、LDL(悪玉)コレステロール値が高い傾向にあることもわかっています。

これは家の寒さによる高血圧状態によってできた血管壁の傷にコレステロールが沈着するためと見られ、こうした症状は動脈硬化にも繋がってしまいます。

実態は「平均室温は居間16.7℃、脱衣所12.6℃」

室温の健康影響が重大であるにもかかわらず、18℃を下回る家が多いのが日本の現実です。国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事業調査で発表された日本の家の居間の室温の平均は16.7℃。さらに、気温差がヒートショックの原因となりやすい脱衣所では12.6℃が平均でした(2019年発表)

断熱後進国になってしまった日本

日本に寒い家が多いのは、最近まで家を建てる時に守らなければならない断熱に関する決まりがなかったからです。国土交通省の2019年度の発表では、既存の住宅のうち、まったく断熱されていない家が3割以上を占めました。

日本では、住宅の性能表示の一つとして断熱の等級が設けられていますが、1999年に設けられた「等級4」が、その後23年もの間最高基準とされてきました。そのため、たとえどれだけ断熱性能が優れていても等級4に分類するしかなく、ハウスメーカーにとっては性能を高める利点がありませんでした。

一般的な日本の家
断熱等級4と比べると、等級6では熱の漏れにくさは倍近くになるが、
世界的にみると等級6でやっと欧州各国の住宅基準と並ぶといわれる

2022年になって、市民の力強い後押しや住宅業界、環境団体などの要請によって、日本でも5〜7の断熱等級が新しく設けられることが決まりました(国土交通省)。また、2023年6月には建築物省エネ法の改正案が成立し、現在は家を建てる際に「等級4」以上の断熱を施すことが義務付けられています*

しかし、世界的に見ると、新設された断熱等級6でも欧州各国の住宅基準に劣るといわれます。断熱等級4では、等級6の約半分ほどの断熱性しかなく、残念ながら法改正後の日本の基準も、先進国の中では極めて低い水準です。

日本の家の8割以上が断熱基準を満たさない

日本国内には新築以外の既存住宅が現在約5,000万戸ありますが、そのうちの87%が新たに決まった省エネ基準を満たしていません(国土交通省)。健康被害のリスクがある家に住んでいる人がほとんどです。

そのため、リフォームや改修が非常に重要になります。法律改正にあわせて、公的な住宅の省エネ化支援が強化されることが決まり、家の購入や新築、リフォームや窓の取り替え時に、断熱や省エネに関わる条件を満たすことで、補助金制度が利用できます。

2026年度に利用できる補助金制度

制度名制度名制度名制度名
みらいエコ住宅2026事業国土交通省・環境省省エネ住宅の新築1戸あたり35万円〜125万
断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業環境省高断熱窓の設置1戸あたり最大100万円
みらいエコ住宅2026事業国土交通省省エネリフォーム1戸あたり40万円〜100万円
(国土交通省発表資料)
※お住まいの自治体が実施する補助金制度を利用できる場合もあります。補助金制度利用の際には省庁および各自治体の公式サイトを確認してください。

どんなリフォームが効果的なのか

断熱リフォームは、部屋を暖かくするだけでなく省エネや節電にも大きく貢献します。

住宅の断熱性能を高めるためにできる家の改修には、まず、二重窓にしたり、サッシを取り替えたりなど、熱の出入りが激しい窓から取り掛かることがおすすめです。

加えて、天井裏や床下、壁に断熱材を施工することが断熱に有効。さらに、壁と床や天井の継ぎ目部分の隙間を埋める工事も効果があります。

今すぐ出来る「家の寒さ対策」

すぐに大掛かりなリフォームや工事を行えない場合でも、DIYで手軽にできる簡易的な断熱にも確かな効果があることがわかっています(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会)。例えば、以下のような対策なら、賃貸住宅でも効率的な断熱が可能です。

窓:窓のガラス面に断熱シートやフィルムを貼る、サッシの隙間に隙間テープを貼る、カーテンを厚手で窓を覆いきる十分な丈のものに変える。

床:カーペットやラグの下に断熱シートを敷く。コルクマット、ジョイントマットなど、空気層のあるマットを使用する。

暖房の効率化:エアコンの風向きを下方向(足元)に設定する。エアコンのクリーニングを定期的に行う。サーキュレーターで暖気を循環させる。

根本的な解決には「断熱リフォーム」を検討

しかし、熱の移動を抜本的に防ぐためには、やはり断熱リフォームが最も効果的です。

窓やドアのリフォーム

室内の熱の大半は窓やドアから漏れたり入ったりしています。そのため、まずは窓とドアを重点的に見直すといいでしょう。内窓の取り付け、複層ガラスや樹脂サッシを使用した断熱性能の高い窓や扉への交換、シャッターや雨戸の取り付けなど。

断熱材のリフォーム

断熱材を使用し、天井や壁、床などからの熱移動を防ぎます。施工法は、内部から機密性を上げる充填断熱工法と、外側から覆う外張断熱工法の2種類に分けられ、充填断熱工法は効率がよく、コストが安めな点がメリット。隙間なく断熱するためには外張断熱工法が適しますが、断熱効率とコストでは充填に劣ります。

床のリフォーム

床を壊さず、家に住みながら工事を完了させる非破壊工法で、グラスウール等の断熱材を最短1日で取り付けることが可能。暖房をつけても冷気がたまりやすい足元、床表面の温度が改善されます。

寒い家を放置する3つのデメリット

家が寒いことによる悪影響は健康被害だけにとどまりません。断熱性が低い家の難点を見ていきます。

断熱がしっかりされていない家には結露が発生しやすい。窓の結露
断熱性の低さは結露の原因となり、家屋の劣化にも繋がる

健康被害の蓄積

血圧の上昇に始まり、活動量の低下から繋がる運動不足、認知機能の衰えなど、健康被害の影響に慢性的に晒されることに。

光熱費の増大

日本の家電の性能は世界的にも高く評価されています。しかし、断熱性能の低い家では高性能のエアコンや暖房器具も十分に効果を発揮できず、無駄な光熱費の使用に繋がってしまいます。

住宅の劣化促進

断熱性、気密性が低い家では、窓、ドアなど、熱の出入り口に結露が生じます。結露はカビやダニの発生を引き起こし、腐食やシロアリ被害に繋がることも。建物を劣化させるため、耐震性や耐久性にも影響します。

学校の断熱はどうなっている?

断熱性の低さは、一般の家屋だけの話ではありません。日本の学校では、新しい省エネ基準ができたあとも、基準にあわせた国主導の断熱改修は行われていません。ほとんどの学校が基準値に遠く及ばない無断熱の状態のままです。

大人は、寒すぎたり暑すぎたりすれば、冷暖房を強めるなど、自分で自分の身を守ることができます。しかし、教室で学ぶ子どもたちはそうではありません。

学校の教室の様子

冬場はコートやジャケットを着たまま授業を受ける子どもがおり、夏場には熱中症で搬送されるケースや、体調不良で早退する子どもも出ています。集中するのが難しいような過酷な環境下で子どもたちが過ごしています。

グリーンピースが事務局を務める「ゼロエミッションを実現する会(ゼロエミ)」は、2023年から、学校教室の断熱改修の必要性を訴え、活動してきました。

また、2025年に入り、グリーンピースが「体育館の断熱改修を求める」署名を開始し、11月に夏までに集まった5,000筆以上を47都道府県に提出しています。

これらの活動の結果、横浜市では、市内全ての小中学校の断熱改修のための予算充当が決定し、5年以内に改修が行われることが発表されました。署名に賛同してくださったみなさんの声が大きな後押しとなりました。

地球の自然環境を守るためにも、私たちの健康を守るためにも住まいの断熱は非常に重要です。暖房を付けても寒い家では、健康もエネルギーも損なわれてしまいます。

グリーンピースは、断熱の大切さをひろく知らしめ、子どもたちが通う学校教室の断熱を求める取り組みを行なっています。グリーンピースの取り組みをぜひご寄付で応援してください。

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断熱についてのよくある質問